Institute of Comparative Law早稲田大学 比較法研究所

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【開催報告】比研主催講演会「ドイツにおける刑事規範論について」が開催されました

比研主催講演会「ドイツにおける刑事規範論について」

主 催:早稲田大学比較法研究所
共 催:早稲田大学法学部
日 時:2024年3月28日(木)16:00-18:00
場 所:早稲田キャンパス8号館303会議室
言 語:ドイツ語
講演者:マルクス・ヴァーグナー(ボン大学教授)
通 訳:仲道祐樹(早稲田大学社会科学総合学術院教授)
参加者:17人(うち学生4人)

2024年3月28日(木)、早稲田大学にて講演会「ドイツにおける刑事規範論について」が開催された。今回は、ボン大学のマルクス・ヴァーグナー教授をお招きして、ドイツにおける刑事規範論についての報告をいただいた。

まず、ヴァーグナー教授は、「規範論」という言葉の定義とその由来について簡単に紹介した。「規範論」という概念は、Karl Bindingに由来する。Bindingのコンセプトでは、いわゆる行為規範と制裁規範という2つの異なる形式の規範が厳格に区別されている。この2つの規範の区別は、Bindingによって提起される前から、英米法の思想、例えばJeremy Benthamに見られるが、それをドイツ語圏に定着させたのは、Bindingの功績であると説明された。

今日、ドイツ語圏の刑法学では、なお「行為規範」と「制裁規範」という概念が用いられるが、解釈によって意味するところが異なるという状況にある。本講演では、規範論に関するドイツ語圏の議論を紹介し、それを用いるアプローチに対する批判と特徴が紹介された。

二元的アプローチの基本理念は、行為規範と制裁規範を区別するという点にあるが、それに対する批判として、まず、制裁論的なアプローチによる批判が存在する。同アプローチによれば、制裁から切り離された行為規範は余計であるとされる。ほかにも、規範設定者から市民への「命令」という形の行為規範概念に対する批判や、行為規範は単なる学術上のフィクションに過ぎず、法律から導き出されるものではないという批判がある。

Binding以降の規範論の展開として、主観的構成要件要素と規範的構成要件要素の「発見」と目的主義の登場があげられる。これにより、犯罪行為は外的行動の単なる記述ではなく、法的・社会的評価に開かれるようになった。

今日に至って、議論状況は、概ね2つのグループにまとめることができる。第1グループは、目的主義理解を前提としており、その出発点は、事前に形成される行為規範に置かれる。これに対して、第2グループでは、「規範」と「義務」が用語法として厳格に区別される。これによれば、犯罪行為は2段階のプロセスで構成される。第1ステップは、規範違反の認定であり、第2ステップでは、規範違反がその者に帰属できるか、すなわち規範違反のみならず義務違反も認められるかが問われる。

さらに近時の見解として、若い世代の刑法学者が、議論のギャップを埋めるような新しいモデルを展開している。例えば、刑法上の意味における行為を所与のものとしてではなく、規範違反の認定による帰属プロセスの結果であるとする規範論を展開したStephan Astの学説がある。

以上を踏まえてヴァーグナー教授は、2つの大きな潮流を統一しようとするご自身のモデルを説明された。ヴァーグナー教授は、法は人間の行動を刺激と威嚇によって統制しようとするものであるという、第1グループの規範論者であるFrischらの理解を出発点として共有する。そこでは、行為義務は誰の視点から構築されるかという問題が生じるが、具体的・個人的なその人の視点が問題となるわけではない。すなわち、行為規範は仮想的平均人の観点から客観的に特定されることになる。

ヴァーグナー教授によれば、ここで言う行為規範は、可罰性の基本的要件であるが、行為規範違反があればただちに可罰的となるわけではない。その意味で、行為規範は刑法外のものと位置づけられる。

最後に、質疑応答の段階では、日本側から、規範論の学説史やヴァーグナー教授のモデルに対する様々な質問が飛び交い、講演会は成功に終わった。

 

(文:譚天陽・比較法研究所助教)

Dates
  • 0328

    THU
    2024

Place

早稲田キャンパス8号館303会議室

Tags
Posted

Mon, 13 May 2024

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