Global Japanese Studies早稲田大学 文学学術院 国際日本学

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開催報告:インドラ・リービ先生講義 「明治文学と笑いについて」

国際日本学拠点は、7月7日金曜日にスタンフォード大学准教授であり、訪問准教授のインドラ・リービ (Indra Levy) 先生による講義「明治文学と笑いについて(Laughter and Meiji Literature)」を、文学研究科国際日本学コースのコースワークとして、対面開催しました。

受講者レポート:国際日本学コース 博士後期課程1年 ベント勇亮ヘンリー

2023年7月7日、スタンフォード大学の准教授で、本学の訪問准教授であるインドラ・リービ(Indra Levy)先生による講演会「明治文学と笑いについて(Laughter and Meiji Literature)」が戸山キャンパス33号館第10会議室で開催されました。

まず、リービ先生は坪内逍遥による二つのエッセイ「何故に滑稽作者はいでざるか」(『早稲田文学』1897年11月)と「如何なる人が最も善く笑うか」(『早稲田文学』1898年1月)を取り上げ、逍遥が「笑い」を極めて否定的に捉えていたことを指摘しました。逍遥は、友人や自国をも犠牲にして楽しむという「笑い」の性質に不信感を抱き、「笑い」が国民共同体の結束を揺るがしかねない存在であると危惧します。逍遥は、多くの「笑い」が「表面的な不調和」や「理解の欠如」、「同情の欠乏」に由来するとし、国家の形成途上にあった明治の社会にそうした類の「笑い」が不要であると考え、旧来の「笑い」の技法とは異なる時代に合った新たな「笑い」を求めた、とリービ先生は説明しました。そのうえでリービ先生は、逍遥のエッセイが発表されたおよそ七年後に『吾輩は猫である』(『ホトトギス』1905年1月~1906年8月)でデビューした夏目漱石を、明治文学の新たな「笑い」を切り開いた存在として位置付けました。

リービ先生は、漱石が『吾輩は猫である』を通して、逍遥の提示する「笑い」の諸問題を上手く乗り越えていると主張しました。逍遥は「笑い」の問題の一つに「同情の欠落」を挙げますが、『吾輩は猫である』では猫を語り手に据え、同じ社会構造に属さない猫が人間を観るという構図を生み出すことで、そもそもの「同情」の範囲を限定しています。また、漱石は自身をモデルとした苦沙弥先生を笑いものにすることで、他人を笑う行為を不人情とする問題についても乗り越えています。リービ先生はさらに、逍遥の「笑い」の理論が最も揶揄されている箇所として、第六章で苦沙弥先生が「大和魂」についての短文を読み上げる場面を挙げました。ポーツマス条約締結の翌月に掲載されたこの章では、「大和魂」というナショナリズムを発現する装置を「笑い」へ接続させることで、自国の失策も笑うべき時があると示した、とリービ先生は述べました。

漱石は、『吾輩は猫である』完結の約半年後に「写生文」(『読売新聞』1907年1月20日)というエッセイを発表し、その中で、写生文家は「両親が児童に対する」ような態度、つまり、同情的だが同じ目線には立たない態度で物事を観るがゆえに、文章に滑稽な表現が含まれてしまうと論じました。また、漱石がそうした写生文家の態度を貫いたことが、明治文学における「笑い」の新境地を開くことへとつながったと説明しました。

講演会後には質疑応答の時間が設けられ、近代文学における「笑い」を考えるうえで江戸時代の戯作をはじめとした近世文学の「笑い」の影響をどのように捉えるのか、漱石の「笑い」には英国のユーモアが影響していたのか、など多岐にわたる問題が一時間に及んで議論されました。

なお、本講演会は早稲田大学大学院文学研究科国際日本学コースのコースワークの一環として開催され、大学院生や教員合わせて10名以上の参加となりました。

開催詳細
  • 日時:2023年7月7日(金)17: 00~18:40 (JST)
  • 会場:早稲田大学 戸山キャンパス第10会議室
  • 講師:Dr. Indra Levy
  • 使用言語:講義 日本語、質疑応答 英語・日本語
  • 参加対象:学生/教員
  • 参加費:無料
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