The Waseda International House of Literature (The Haruki Murakami Library)早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)

その他

2022年度春季収蔵品展「音/言葉を刻む、ジャズと文学」

2022年度春季収蔵品展「音/言葉を刻む、ジャズと文学」
Jazz and Literature: Scoring Sound/Cutting Language

小説を読みすすめると、ふとメロディーが聴こえてくる。ある曲を聴くと小説の一部分を思い出す。このような“小説と音楽が結びつく感覚”をみなさんも経験したことがあるのではないでしょうか。村上春樹の小説には、ジャズやクラシック、ロック、ポップスと数多くの音楽が登場します。
本展ではジャズに注目し、村上はもちろん、五木寛之や筒井康隆、大江健三郎、倉橋由美子、中上健次らの小説をご紹介。1960-70年代にみられた日本のジャズ文化や、当時の小説家たちとジャズ/ジャズ喫茶の関係に迫ります。また、村上が経営していたジャズ喫茶「ピーター・キャット」に関連する資料も公開。ジャズと文学の結びつきをお楽しみください。

開催概要

  • 会期 : 2022年5月20日(金)~ 8月28日(日)
  • 場所 : 2階展示室
  • 主催 : 早稲田大学国際文学館
  • 協力 : 柳井イニシアティブ グローバル・ジャパン・ヒューマニティーズ・プロジェクト

変貌するジャズ

日本では、終戦から1950年代末までジャズといえば「アメリカから入ってきた大衆音楽全体」を指しました。とくに、占領下には「スウィング・ジャズ」と呼ばれる大衆向けのダンス・ミュージックが、主に進駐軍放送のラジオ番組によって広がって人気を博します。一方で、1948年からはスウィングに対抗した通向けの(難解な)音楽として「ビバップ」(モダン・ジャズの原点) のレコードなどが紹介されました。1950年以降、まだスウィングが一般的であったなか、守安祥太郎や秋吉敏子(現・穐吉)などのミュージシャンたちは本格的にビバップを勉強しはじめます。ミュージシャンと聴き手のなかでビバップをはじめとする「モダン・ジャズ」が浸透しはじめたのは、早くても1950年代末でした。
ジャズ喫茶の普及により、高価で購入困難な最新の輸入盤レコードを一般の人たちも聴くことができ、ジャズ情報を手に入れられるようになります。録音されたばかりの音楽を耳にすることで、ジャズは「同時代の音楽」として一層親しまれるようになりました。

A面 1960-70年代のジャズ文化

1 ジャズと小説
1950年代末期から始まった激動の時代(安保闘争や学生運動など)と呼応するように、ジャズは、アメリカからやってきた大衆音楽としてではなく、同時代の前衛音楽として「政治性」を帯びた観念と結びつくようになりました。
ここでは、題材としてではなく方法論としてジャズを採り入れようとした中上健次、ジャズの「ライブ感」を表現しようとした五木寛之、女性の視点からジャズ文化を捉えた倉橋由美子、独特なビートで文章を組み立てる筒井康隆、人種や政治的側面からジャズを提起した大江健三郎と、ジャズに向き合ってきた小説家5名の作品を紹介します。

2 文化の拠点としてのジャズ喫茶
戦前の「音楽喫茶」(ジャズ喫茶の源泉)の全盛期は1930年代の半ば。そこでは、クラシック、ジャズといった一種類の音楽だけを専門とする店、ジャンルを問わずさまざまな音楽をかける店がありました。この頃のジャズを専門とする喫茶店では、同時代のダンスホールの影響を受けてタンゴのレコードもかけられていました。
1950年代、音楽を「鑑賞」することから「勉強」するという側面が強まり、当時のビバップを目指していた秋吉敏子、渡辺貞夫など若手ミュージシャンたちはソロ部分を聴きながら採譜し、自身の演奏に生かしました。1960年代にはいると、激動の時代の渦中にある大学生の間ではモダン・ジャズが教養のひとつとされ、ジャズ喫茶はジャズの学び舎の役割を担いました。音楽を聴くためだけではなく、文化人としてのアイデンティティを確立する場所、それがジャズ喫茶だったのです。

B面 村上春樹と音楽

3 村上とレコード
レコード蒐集家として知られている村上。また、学生の頃から国分寺(のちに千駄ヶ谷に移転)でジャズ喫茶「ピーター・キャット」を経営したり、作家になってからもジャズプレイヤーのスタン・ゲッツ(テナー・サックス)の伝記やセロニアス・モンク(ピアノ)に関する文章を翻訳したり(翻訳作業のときはレコードをかけたり)と、村上とジャズは切り離せません。
レコードの音源をデジタル(WAVデータ)に移して「村上RADIO」で流していることからも、アナログ(オリジナル版)の音を大切にしていることがわかります。ここでは、幼少期の音楽との出会いや、村上の音楽に対する姿勢を紹介します。

4 創作の場としての「ピーター・キャット」
朝から晩まで好きな音楽が聴いていられるという理由で、1974年、早稲田大学に在学していたあいだに、国分寺でジャズ喫茶「ピーター・キャット」を始めた村上。店をはじめるにあたり、仕事をいくつもかけもちしながら懸命にお金を貯め、またあらゆるところからお金を借りたといいます。
1978年4月、神宮球場で行われたヤクルト・スワローズ対広島カープ戦を見に行った村上は、ヒルトン選手が二塁打を打った瞬間、小説を書くことを思い立ち、原稿用紙と万年筆を買って、店の仕事を終えて明け方までの数時間のあいだに台所のテーブルで小説を書くようになります。約半年をかけて、デビュー作『風の歌を聴け』が完成。月刊文芸雑誌『群像』に送り、1979年5月、第22回群像新人文学賞を受賞しました。『1973年のピンボール』(1980年)も「ピーター・キャット」で執筆されています。

5 小説に登場する音楽たち
村上の小説には、ジャズ、クラシック、ポップスと幅広いジャンルの音楽が登場します。
『風の歌を聴け』(1979年)のビーチ・ボーイズ「カリフォルニア・ガールズ」
『ノルウェイの森』(1987年)のビートルズ「ノルウェイの森」
『国境の南、太陽の西』(1992年)のナット・キング・コール「国境の南」、デューク・エリントン・ビッグ・バンド「スタークロスト・ラヴァーズ」
『ねじまき鳥クロニクル』(1994年)のロンドン交響楽団「歌劇《どろぼうかささぎ》序曲」
『アフターダーク』(2004年)のスガシカオ「バクダン・ジュース」

曲名を挙げはじめると際限がありません。
あなたが印象に残っている音楽は何ですか?

五木寛之(1932-)
福岡県出身。幼少期を朝鮮半島で過ごす。引き上げ後はさまざまな仕事をしながら早稲田大学に学び、同人誌などで小説を発表し続けた。1966年、かつての名ジャズピアニストだった「私」を主人公とする『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、翌年には『蒼ざめた馬を見よ』で直木三十五賞を受賞。以降『青春の門』など今日まで話題作を多く発表している。1967年の『青年は荒野をめざす』などでも日本やヨーロッパのジャズメンを登場させている。

大江健三郎(1935-)
愛媛県出身。東京大学在学中の1958年に『飼育』で芥川龍之介賞を、当時最年少の23歳という若さで受賞し、新世代の作家として注目を集める。翌年、ジャズトリオの衝動的な生を描いた『われらの時代』を発表して以降、『個人的な体験』、『万延元年のフットボール』などさまざまな方法を用いた小説を書き続ける一方で、同時代の政治状況などにも積極的に発言していった。1994年には川端康成に次いで日本人二人目となるノーベル文学賞を受賞した。

倉橋由美子(1935-2005)
高知県出身。1960年の明治大学在学中に『明治大学新聞』に発表された『パルタイ』が批評家・平野謙の目にとまる。同作品は『文學界』に転載され、その年の芥川龍之介賞候補にあがった。大学院進学後に書いた長篇『暗い旅』はヌーヴォー・ロマン的な手法に注目が集まったが、日本各地のジャズ喫茶が描かれている。その後もさまざまなスタイルを取り入れつつ、『スミヤキストQの冒険』、『長い夢路』などの小説を手がけた。

筒井康隆(1934-)
大阪府出身。同志社大学卒業後、サラリーマンの傍らSF同人誌『NULL』を創刊、小松左京や星新一と知り合う。のちに専業作家となり、社会風刺とユーモアを取り入れた作風で人気を博し、また『虚人たち』や『夢の木坂分岐点』、『残像に口紅を』、『朝のガスパール』など実験的な創作を開拓した。ジャズの名盤に触発された短篇アンソロジー『ジャズ小説』のほか、『ジャズ大名』や『追い討ちされた日』などジャズやジャズ喫茶を描いた小説も数多く手がけている。

中上健次(1946-1992)
和歌山県出身。新宮高校を卒業後に上京し、新宿のジャズ喫茶に入り浸る生活を送る。『文藝首都』の同人となって小説やエッセイを発表し始め、1975年に『文學界』に掲載された『岬』で芥川龍之介賞を受けた。その続編『枯木灘』など自身の出身地・新宮を中心とした紀伊半島を舞台に、血族の歴史を描いた紀州サーガと呼ばれる作品群で高い評価を得ていく。音楽全般に対して関心を持っていたが、とりわけジャズについては小説やエッセイでも多く題材としている。

Dates
  • 0520

    FRI
    2022

    0828

    SUN
    2022

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Fri, 20 May 2022

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