「村上春樹ライブラリー」の呼称で親しまれる早稲田大学国際文学館は、村上氏所蔵の貴重な資料が本学へ寄贈・寄託されることをきっかけに誕生した、新しいタイプの図書館です。その舞台となったのは、1969年に竣工された早稲田キャンパス4号館。村上氏が学生だった頃の面影を色濃く残す建物が、世界的建築家・隈研吾氏の手による大規模な改修を経て生まれ変わったのは、2021年10月のこと。それから早くも5年の月日が経ちました。
この5年間で、国際文学館が取り組んできたのは主として次の二つのことです。
まずひとつめは、文学を未来へつなぐための資料収集とその保存、そして研究です。文学館では村上春樹氏に関する資料をはじめ、世界各国の文学・翻訳作品など、多くの資料を収集、整理、保存し、国内外からの来訪者に公開しています。また、日頃から開催される学術交流セミナーや国際シンポジウムを通じて、国境や地域、言語や専門分野を越えた学術交流を絶え間なく行っています。加えて、年刊誌『早稲田大学国際文学館ジャーナル』(Journal of Waseda International House of Literature)では、研究者だけではなく一般読者の皆さまにもお読みいただけるよう、多種多様な研究成果を発信してきました。
もう一つの活動は、文学を起点に人と人、文化と文化を結ぶ出会いの場をつくることです。作家や評論家によるトークや朗読会、芸術家や音楽家、舞台俳優によるパフォーマンス、そして文学をさまざまな角度から捉え直す企画展示など、文学館では従来の図書館の枠組を越えた多彩な活動を展開してきました。その根底にあるのは、開館に際して村上氏が語られた、この場所を「文学や文化の風通しの良い国際的交流・交換の場」にしたいという理念です。村上氏の発案から始まった「Authors Alive!〜作家に会おう〜」や音楽イベント「キャンパス・ライブ」では、国内外から多くの作家、翻訳家を中心とする芸術家や研究者をお招きし、ご来場の皆様にご参加いただいてきました。そうした一つひとつの出会いの積み重ねによって、国際文学館独自の開かれた空間が形づくられてきたのだと思います。
思えば国際文学館が開館した2021年は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、人と人が自由に出会い、語り合うことさえ難しい時期でした。そのような状況下に生まれた文学館が、開館5周年を迎えることができたのも、ひとえに多くの皆様のご理解とご支援によるものです。あらためて心より御礼申し上げます。
そして5周年は、一つの到達点であると同時に、次の歩みを始めるための節目でもあります。文学を大切に保管し、研究する場所であること。そして、文学を通じて新しい出会いや対話、さらに新しい文化を生む場所であること。これまでの5年間で培ってきたものを大切にしながら、国際文学館は世代や国境、言語を越え、文学と他の芸術ジャンルを結び付ける、人々が自由に集い交流できる場所であり続けたいと願っています。
次の5年にどのような出会いが生まれ、どのような物語が始まるのか。皆様とともに、その新しいページを開いていくことができれば幸いです。今後とも早稲田大学国際文学館(通称・村上春樹ライブラリー)への変わらぬご支援、ご厚情を賜りますよう、どうかよろしくお願い申し上げます。
