概要
私たちhumunusは、地理学的な観点から、人間と非人間の活動の重なりの布置にドラマを見出し、それを音声-身体表現の新たな方法の探求を通して作品化しています。
私たちが注目するのは、音声/聴取(身体)と環境の関係です。
私たちはまず、音声生成と聴取のプロセスを「意味と物質の緊張関係が揺れ動く場」と捉えています。音声は、言葉-意味の運び手であるだけでなく、その人の身体の物質的配置(運動、かたち、肌理、出来事)を聴き手に伝達します。この二重性をもつ織物であるといえます。
しかし、音声は発した個人に必ずしも還元できないものです。聴き手がどのような環境下で、どのような態勢で聴くのか、あるいはメディアの媒介性や聴き手の過去の経験や認識、文化的習慣などにも依存し、聞こえや解釈は変化するからです。音声は、発声する者と聴く者の身体が、共に環境や非人間的なものを含む様々な作用と絡れながら重なり合うところに現象するもの、として考えてみたいと思います。
私たちは音声表現を、身体(知覚)と環境の作用関係に注目し、観察するところからはじめます。今回、劇場である「早稲田小劇場どらま館」を、「環境」という側面から観察し、音響的で物質的な生態系として捉え直す試みを行います。
私たちはまず「聴くこと」からはじめなければなりません。そこから演劇やダンスをまたぐ音声-身体表現の可能性を探求していきます。
HUM&HAW Vol.2は、去年のYAU STUDIO Y-baseで実施したラボ企画に続く第二弾です。《HUM & HAW》とは、「口籠る」ことを意味する英語の言葉です。hum(ハム)は虫の羽音や機械の出すノイズを意味する擬声語由来の言葉です。一方のhaw(ホー)は言い淀み、「えー、あー」などの間投・感嘆詞です。発音は異なりますが、アイヌ語ではフㇺ=humは「音」をはじめとした聴覚的、触覚的認識において使用される言葉で、ハウ=hawは「声」を意味し、言語的な認識において使用されるといいます。もちろん音表記上の一致ではありますが、異なる言語において、これらの音の組み合わせにどこか同様の類型を感じます。
「意図や意味が伝わる正しい発話」には、社会的、歴史的、政治的、哲学的に様々な含みの文脈があります。私たちはむしろ「口籠る」「言い淀む」「どもる」ことの中に、言葉になれず、あるいは言葉が崩れていった異質な音の数々、その言語のシステムから排除されてしまうような音の残響を通して、非人間的なるものとの境界に揺らめきながら、改めて言語と出会い直す実践ができればと考えています。
劇場
滞在制作(稽古)
7月23日(水)〜25日(金) 11:00~21:00
@早稲田小劇場どらま館
早稲田大学の学生は見学出入り自由
ワークインプログレス上演『褶曲の庭』
私たちは近年、沿岸の海食崖と周囲の環境における身体的経験や観察から得たものを音声-身体-テキストのそれぞれのレベルで表現するための方法を探求してきました。それは主に、かたちや肌理、運動を巡るものであり、且つ、言語音と非言語音を行き来し、そして経験を語る主体=「私」が、同時に対象である事物や現象そのものにもなるという転移(うつろい)の運動を描くものでした。
こうした実践を継続しつつ、触れている感覚と配置・距離の関係から、捻れの運動、開くこと閉じること、複数の時間性など、キヨスと小山、二人の音声-身体の重なりが空間とどのように関係を結ぶかを、バロック絵画や日本庭園の考察を通して現在実践しています。今回、実験的に上演します。
上演日時
7月27日(日)18:30〜20:30
28日(月)18:30〜20:30
上演時間:1時間、感想会:1時間以内(参加任意)
料金
カンパ制
タイムテーブル
2025年7月 | |
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27日(日) | 18:30~20:30 |
28日(月) | 18:30~20:30 |
予約
humunusプロフィール
2018年、俳優の小山薫子、キヨスヨネスクによる演劇ユニットとして結成。俳優同士による新たな創作法を探求。東日本大震災やコロナ禍の経験から、地理学的アプローチを通して人間と非人間の活動の重なりの布置にドラマを見出し、それらを音声を中心とした身体表現によって作品化している。2020年より福島県双葉郡富岡町に拠点「POTALA-亜窟」を開設。現在まで福島と東京を行き来しフィールドワークと制作を行っている。
主な作品に、『Practices 3つの景色から』/『崖に向かう態勢』(ラボ企画『HUM&HAW』2024)、ツアーパフォーマンス『うつほの襞』シリーズ(2021-2023)、上演+展示企画『〈砌と船〉-うつつ、揺蕩い』(2022)、映像作品『荒川平井住宅』(2021)、現在進行中のプロジェクトに映画『海壁-Seawall』(2020〜2025)など。他、humunusでの参加作品に、木村玲奈『糸口 こけら落としパフォーマンス』(2021/作品名『防潮堤』、映像参加)、萩原雄太『ベンチのためのPLAYlist 2023』吉祥寺シアター(テキスト提供『タービダイトの崖を寄せて)、Transfield Studio『Lines and Around Lines Case in さいたま 』(2023~2024/オーディオガイド出演)、中島晴矢『ゆーとぴあ』(2024/映像作品出演)。寄稿文に『揺曳する風景と身体 ─ 福島〈うつほの襞〉を歩く』セゾン文化財団viewpoint No.99(2022)
小山薫子 (おやま かおるこ)/ humunus
1995年、東京出身。俳優。多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科卒業。劇団ままごと所属。都立総合芸術高校特別専門講師。ままごとの作品の他、円盤に乗る派、H-TOA 、康本雅子振付作品、オル太、荒悠平たち、などの上演作品に加え、清原唯監督の映画などに出演。ほか、柴幸男の演出助手として台湾芸術大学での滞在制作や、みぬま福祉会、大宮太陽の家での演劇ワークショップなど、地域の人々と演劇をつくることに関わる。虎鶫企画「ひとりだち」でソロでの作品も発表。
キヨスヨネスク / humunus
1992年、東京出身。俳優。横浜国立大学大学院都市イノベーション学府建築都市文化専攻Y-GSC修了。円盤に乗る派、KUNIO、ホモフィクタス、抗原劇場の他、演出家の萩原雄太、振付家の木村玲奈、舞踏家の中嶋夏、現代美術家の岡田裕子や大岩雄典などの作品やプロジェクトに参加。個人作品に『うたう天子の胚と文』(2019)、『森林-怪獣-流体』(2019)、作・演出作品に『奥の森の方』(2017)、『わっぱら@ジーバの庭』(2016)、『東京モニュメント〜Dust Site Babies』(2015)など。アートスクールPARAで音声-身体表現のクラス講師、他ワークショップなど数多く行っている。