Waseda Shogekijo Drama-kan Theater早稲田小劇場
どらま館

News

特集:学生演劇 -早稲田演劇が起こる場所-

早稲田で演劇を行う学生たちは、いったいどんなリアリティを抱え、作品を創作しているのでしょうか?

劇団森の公演に密着し、その姿を解き明かしていきます!

「早稲田演劇」のリアリティ

早稲田大学西早稲田キャンパスの内には「演劇博物館」が設置され、さまざまな企画展の実施や、貴重な資料の保存などを行っています。また、文学部には演劇映像専修も設置されているなど、日本でも有数の活発な演劇研究が行われている大学です。

その一方、学生サークルを中心に、早稲田では学生会館、大隈講堂裏アトリエ、そして早稲田小劇場どらま館(以下、どらま館)などで、毎週、数多くの舞台が上演され、学生たちは創作活動に打ち込んでいます。今回は、そんな早稲田演劇で活躍している人々を取材。はたして、早稲田演劇の現在形を生み出している彼らは、どのようなリアリティで創作を行っているのでしょうか?

 

■観客の意見が直接飛んでくる魅力

開演直前のどらま館の扉を開けると、目に飛び込んできたのは、ほとんどガラガラの舞台。この日、どらま館では、学内の老舗演劇サークル「劇団森」による『ずばぬけたじかん』が上演されるはず……。しかし、舞台上にあるのは美術セットではなく、パソコン、プロジェクタ、ギターアンプといったわずかな小道具ばかり。しかし、作・演出を務める川口コウさんは、この簡素な舞台だけでなく、どらま館1階にある楽屋スペースまでを使い、挑戦的な舞台をつくりあげていました。

2019年3月に上演されたこの作品の終演後、4年生の川口さんはすぐ卒業式を控えています。彼にとって、1年の秋から演劇活動をはじめ、3年半にわたって行ってきた演劇活動の集大成といえる公演を前に、川口さんに早稲田での演劇活動の日々を振り返ってもらいました。

そもそも、大学に入るまではサッカーに明け暮れていたという川口さん。彼にとって、演劇はとても遠い存在だったそうです。

川口コウさん

「高校時代は廊下で発声練習をする演劇部を横目で見ながらサッカーをしていました。大学に入ってからも、演劇を始める気はなく、マスコミ系のサークルに入っていたんです。しかし、1年の秋に、今までやったことのないことをしたいと決断し、演劇サークルに飛び込んだ。演劇を選んだいちばんの理由は『恥ずかしそうだから』。実際に入り、人前で演技をしたところ、本当に恥ずかしかったですね(笑)」

 

劇団森の門を叩き、演劇の「恥ずかしさ」に触れた川口さん。しかし、その一方で、「恥ずかしい」だけではない魅力が潜んでいたことにも気づきます。

「全く知らない人を観客として迎え、彼らを前に演技をすると自分の中に『気持ちよさ』のようなものが湧き上がってくるのを感じたんです。そんな、観客と作り上げる時間が、演劇を行う上で最大の魅力かもしれません。上演が終わると、観客の中には『面白い』と称賛してくれる人もいるし、『つまらない』と叩く人もいる。けれども、自分にとってはどちらの意見も大事ですね。肯定・否定に関わらず、観客の意見が飛んでくるという状況は何ものにも代えがたいんです」

 

■どらま館は「責任」がある舞台

ところで、早稲田大学の中には10団体以上の演劇サークルが存在しており、サークル間の客演(ゲスト出演)も盛ん。『ずばぬけたじかん』にもさまざまなサークル出身の役者たちが出演していました。

伊藤鴎さん、松浦みるさんが所属している「早稲田大学演劇倶楽部(エンクラ)」は、しっかりした身体訓練とともに「団体の個性というよりも、個人主義で活動している」(伊藤さん)のが特徴。また、甲野萌絵さんがかつて所属していた「演劇研究会(通称:劇研)」は、1920年の創立の超老舗サークル。長い歴史の中では、鴻上尚史(第三舞台)、堺雅人、白井晃などを輩出しており「ひとりで舞台を埋められる役者となるために、厳しい訓練をする」(甲野さん)という特徴があります。一方、平川千晶さんが所属する「くるめるシアター」は「ゆるめな感じで楽しくワイワイ」活動を行っているとか。

伊藤鴎さん

甲野萌絵さん

平川千晶さん

毎週、さまざまなカラーの作品が上演されている早稲田の演劇シーンでは、劇団ごと、演出家ごと、個人ごとに、それぞれが異なった表現欲求を抱えながら、それぞれの演劇を生み出しています。『ずばぬけたじかん』に出演している学習院女子大学所属の三村ことみさんは、そんな早稲田演劇を外側から観察し、次のようにその特徴を語ります。

三村ことみさん

「いい意味で統一感がなく、エンタメもあればアングラもあり『こんなスタイル』という定義ができないのが早稲田の演劇の魅力かもしれません。実は、始めはどらま館が大学の施設だということを知らなかったんです。こんなに施設が整っているのは本当に羨ましい。充実した施設が、早稲田の演劇を下支えしていることがわかります」

 

早稲田の演劇サークルは、どらま館以外にも、大隈講堂裏のアトリエや学生会館で活動を行っています。

なかでも、学生会館には演劇練習室やアトリエ、叩き場(舞台美術の作業場)などが設けられており、稽古から公演までを一貫して行うことが可能な施設として、多くの学生たちが活用する施設。では、彼らにとって、学生会館とどらま館とはどのように異なっているのでしょうか? そんな疑問に対して、川口さんは「責任の違い」が大きいと語ります。

「学生会館のアトリエで作品を上演する場合、ルールとして、観客から入場料金をいただくことができません。しかし、どらま館で作品を上演する場合にはお金を取ることができる。それがいちばん大きい差ですね。観客からお金を取ることによって、作り手には大きな緊張感が与えられ、とても勉強になる。自分が初めてどらま館で作・演出作品を上演したときには、100円のチケット料金だったにも関わらず、『100円返せ』と言われたのを覚えています」

自分たちの表現によって、観客から料金をいただく……その時、金額の大きさは関係ありません。お金を介して表現を見せる/見るという関係から生まれる緊張関係が、演劇活動を行う学生たちに、大きな力を与えているようです。同じく、エンクラの松浦さんも、そんな緊張感が生み出す可能性を語ります。

(左)中村高太郎さん (右)松浦みるさん

「学生会館とどらま館で上演するのとでは、気持ちはかなり違いますね。お金を取ってどらま感で上演するときは、大きな責任を感じながら舞台に立っています。学生会館のアトリエは『フリースペース』という感じですが、どらま館は『劇場』なんです。上演するハードルは高いですね」(松浦)

 

■学生演劇でいちばんを目指し、早稲田の外へ

川口さんの場合、大学2年生の時に、初めて自分の作演出作品をどらま館で上演。新入生歓迎公演として行ったこの作品で、20人あまりの新入生を劇団森に引き入れることに成功したものの、本人は、作品のクオリティに満足できませんでした。「お客様からお金を取って見せる以上、もっと演劇を勉強しなければならない」と感じた川口さんは、学外に足を運び、より広い演劇の世界に触れていきます。なかでも、川口さんの活動に大きな影響を与えたのが、京都の演出家・村川拓也さん。今や、京都だけでなく、韓国、ドイツなどでも活躍している村川さんは、2017年、どらま館で『Fools speak while wise men listen』という作品を上演。この作品に、川口さんは役者として関わっていました。

「村川さんの基本的な考えは、『演劇はどこにでもある』というもの。劇場にあるもの、そこにいる役者が持っているもので、演劇を作り上げてしまうんです。そんな創作に対する姿勢はとても刺激的でした。『ずばぬけたじかん』を創作する際にも大きな影響を受けています」

しかし、演劇に打ち込む学生の中には、サークルから独立し、自分たちでユニットや劇団を旗揚げすることもしばしば。近年も「劇団スポーツ」「いいへんじ」「犬大丈夫」「露と枕」「ボクナリ」「亜人間都市」等といった集団が生まれています。その一方、川口さんは自分のユニットや劇団をつくらず、あくまでも「サークル」であることにこだわって活動をしてきました。

「ユニットや劇団を立ち上げれば、早稲田の中だけでなく、広い世界を対象にして作品を作らなければならない。作品創作の意識も、観客からいただく入場料の意味も異なってくるでしょう。僕の場合、当初から学生時代の4年間で演劇を辞めることを決意していたので、学外での活動を射程に入れず、劇団森という『サークル』で創作を続けていました。それによって、自分たちが演劇を上演する楽しさも保つことができたんです。

 

ただし、それはクオリティに対して妥協したというわけではありません。楽しさと同時に、やるからには『学生演劇でいちばんおもしろい作品を作りたい』と思って活動してきた。結局、1番を取れたかどうかはわかりませんが、自分としてできる限りのチャレンジはできたと思います。卒業後には演劇を続けず、映像制作会社に就職し、CMなどを制作する仕事に就きますね」

新年度からは、演劇を離れ、新たな道を歩んでいく川口さん。彼は、後輩となる学生たちに対して、次のように語りかけました。

「演劇をやっている学生だけでなく、演劇に関係のない学生にも劇場に足を運んでほしい。どらま館であれば、学生の劇団だけでなく、『範宙遊泳』や『ロロ』など、プロの劇団の作品も数多く上演されています。どらま館のほか、大隈講堂裏のアトリエでも、学生会館でも毎週のように演劇が行われている。とにかく、演劇を見に来てほしいですね」

3月には多くの学生たちが演劇を卒業し、新たな道を歩む一方、4月になれば、また多くの新入生たちが演劇サークルの門を叩きます。そうして、新たな「早稲田の演劇」が作り上げられていくのです。

 

取材協力 虚仮華紙×劇団森 新春企画公演 『ずばぬけたじかん』

川口コウ/伊藤鴎/甲野萌絵/中村高太郎/平川千晶/松浦みる/三村ことみ(敬称略)

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/culture/dramakan/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる