公演詳細
期間
2023/09/03(日)
劇場
構成・演出
佐久間喜望
出演
えすた、小西美雨、小林沙瑛、小林未和、櫻井結子、藤井一輝、堀込美桜、村瀬星哉、吉岡采莉
料金
無料(フリーカンパ制)
予約
タイムテーブル
2023年9月 | ||
---|---|---|
03日(日) | 13:00 | 17:00 |
スタッフ
- 演出補佐:久佐山れヱと
- 照明:日南莉緒菜
- 照明補佐:澄川海音、小島淳之介
- 音響:秋尾藍歌
- 音響補佐:久間朝陽
- 舞台監督:5
- 舞台監督補佐:成海ことね、谷川大吾
- 舞台美術:早坂奈菜穂
- 舞台美術補佐:稲葉捺月
- 小道具:久間朝陽、韮崎大輔
- 衣装:紗栄華
- 衣装補佐:日南莉緒菜
稽古場レポート
今回は早稲田大学演劇研究会(通称:劇研)の‘23新人試演会『9号』の稽古場にお邪魔した。大隈講堂の裏に位置する劇研のアトリエでは、エチューダーである佐久間喜望さんとエチューダー補佐である旧人の方々を中心に、「舞台上で魅せる」為の稽古が行われていた。
(注:エチューダーとは、その年に入団した新人への稽古を統括する主担当のこと。劇研では伝統的にこのように呼ばれている。)
(エチューダーからのフィードバックを聞く新人)
劇研の新人は他劇団とはやや異なった形で初舞台を踏む。というのも、予め用意された脚本や配役に沿って役を作るのではなく、新人自身が、自分の魅力を最大限引き出せるキャラクタとシーンを考えるのだ。それらを稽古内で発表し、エチューダーを含む旧人がオムニバス形式にまとめあげる──これが、新人“公演”ではなく新人“試演会”である所以である。
(「出会いエチュード」という稽古の一幕)
稽古は、①ストレッチや発声、身体制御等の身体系メニュー、②シアターゲーム、③エチュード等の発表系メニューの3要素で構成されており、どのメニューについても「舞台上の出来事を最大限おもしろくすること」が最重要視されていた。私が見学した回の「どびんちゃびん」というシアターゲームは、新人旧人ともに参加し、最後まで舞台上に残った人が脱落者に罰ゲームを指定できるというルールのもと行われていた。結果、新人が勝ち残り、敗者に罰ゲームを指定した。そして罰ゲームが始まった瞬間、その新人は敗者である旧人の周りを飛び回り、思わずこちらがくすりと笑うような挑発の言葉を次々に投げかけたのだ。
この“下剋上”について佐久間さんから「罰ゲームは勝者と敗者という役を演じており、場をおもしろくするために先輩後輩の立場を逆手に取ることは一つの手だと考えている」という返答を頂いた。「舞台に乗る全てを面白くすること」への貪欲さは、舞台を下りない限り常に意識され続ける。劇研という場所で日々、単なる熱量の放出ではない集中力のある演劇が上演されるのはこのような意識が稽古場に根付いているからなのだろう。
(「一本橋エチュード」という稽古の一幕)
前述のように、新人試演会の内容は新人自身が稽古内で提案する。提案の場となるのがエチュード系メニューの時間であり、特にお題に沿ったエチュードを複数回連続で繰り出す「出会いエチュード」では新人の引き出しの多さに驚いた。
佐久間さんは今年の新人について「引き出しが多く真面目だが、その分自分の殻を破るのに時間がかかる」と述べ、逆に殻を破った際の爆発への期待を口にした。引き出しとは即ち、それまで歩んできた人生の経験だそう。経験と言えば、佐久間さんは史上稀な5年代のエチューダーであり、4年分の経験を手に稽古を行っている。
劇研の稽古場において、旧人は新人に自身の20年弱の経験を打ち破ること、自身を魅せることを求めていた。それは並大抵のことではないが、その先に「生きている」という実感があるとエチューダー補佐の方々は語った。
新人と旧人の経験と人生がぶつかり合い、「生きている」を体感できる場所、それが早大劇研の新人試演会なのではないだろうか。
(文:峯川遼子)