マレーシアスタディツアー実施報告:「大自然」と「不便さ」と「コミュニティ」の中で感じた「豊かさ」
岩井 雪乃(平山郁夫記念ボランティアセンター 准教授)

平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)は、2026年2月4日(水)~2月12日(木)に、マレーシア・サバ州コタキナバル周辺(ボルネオ島)で「マレーシアスタディツアー〜子どもたちと共に『豊かさ』を考える〜」を実施しました。
本スタディツアーは、「豊かさ」をテーマに据え、認定NPO法人CFFジャパンの協力のもと、現地プログラムを実施しました。ツアーでは、自然環境は「豊か」である一方、電化製品のない「不便な」村で、「言葉が通じない」けれど「おおらかに受け入れてくれる」人々に囲まれながら、集団生活を送りました。
このツアーの大きな特徴は、「スマートフォンを預ける」ルールを設けたことです。CFFの担当者から「CFFで実施するプログラムでは、いつもそうしていますよ」と聞いたとき、「今回のプログラムでも絶対にそうしたい」と思い、導入を決めました。

小学校でのレクリエーション大会
スマホは「豊かさ」の象徴です。私がいつも活動しているアフリカのタンザニアでは、経済的な余裕ができると、みんなスマホを持つようになります。科学技術の粋を集めた小さな端末によって、より多くの人とつながり、より多くの情報を得ることができるようになります。そして、そのおもしろさや便利さゆえに、「依存」にもなってしまいます。
このツアーでは、「経済的な豊かさ」の象徴であるスマホを手放すこと、つまり「お金」や「タイパ・コスパ」という指標を手放し、そこから見えてくる別の「豊かさ」を考えてほしかったのです。
個人報告を読むと、メンバーが「豊かさ」について、それぞれに考察したことがわかります。「笑顔」「大切な人がいること」「愛すること」「葛藤を抱えた不完全な自分を受け入れること」…私が想定していた以上に、深い考察をしてくれました。
さらにメンバーは、マレーシアで感じたことをツアーの終了とともに頭の片隅へ押しやるのではなく、「日本での日常生活の中で、いかに考え続けるか」を自分自身に問いかけています。

村のお母さんが、朝4時から作ってくれたごはん
現実の世界は、絶望的に不平等です。劣悪な衛生環境に暮らす無国籍の人たちがいる一方で、清潔なウォシュレット付きトイレが当たり前の生活を送る自分たちがいます。戦禍の中で命を落としている人がいる一方で、それを安全な場所からテレビで見ているだけの自分がいます。
それでも、このツアーに参加したメンバーには、この不平等から目をそらさず、世界の「豊かさ」のために自分にできる行動を続け、現実に直面する課題に向き合ってほしいです。
その行動は、一人では続けるのが難しいかもしれません。でも、ここでつながった仲間と相互に励まし合うことで、継続する力になるでしょう。
私は2026年3月に早稲田大学を早期退職しました。私にとって最後となるスタディツアーで、意欲の高い学生たちと出会えたことを、とてもうれしく思っています。このメンバーとの出会いを大切にしながら、これからも育てていきたいと思います。
参加メンバーの学びと考察を報告書にまとめました。個性あふれるそれぞれの「豊かさ」が伝わりますので、ぜひご覧ください!
学生の考察を、報告書から一部抜粋して掲載します。
豊かさの再考―理想と現実の往還の中で―
門脇 葵 さん(法学部2年)
ツアー終了後、私は「豊かさ」の意味を改めて考えている。豊かさとは、理想的な自己像を獲得することや、他者を救う主体として確立されることのみを指すのではない。むしろ、不確実で矛盾を含む現実の中に留まり続ける覚悟や、他者と関わり続ける関係性の中に見出されるものであるのかもしれない。
私は、自分の人生の方向性を明確に定めきれていない段階にある。しかし、その不確かさを自覚し続ける姿勢こそが、他者の生活を単純な物語として消費しないための一つの抑制となると考えている。理想像への執着を手放し、現実の複雑さに向き合い続けることが、私にとっての自由であり、同時に一つの「豊かさ」である。
今後この経験と法学の学びを結びつけ、理想と現実の緊張関係を引き受け続けたい。それこそが、曲がりなりにも私にとっての実践であり、今後の学びと行動の指針となるだろう。
偽善者のエゴが愛に変わるまで―ボランティアに対する自分の答え―
小島 杏斗 さん(社会科学部2年)
その根幹には、このツアーのキーワードでもある、本当の意味での「豊かさ」があったと感じた。この「豊かさ」に触れてからの私は、現地の人のために、滞在中はもちろん帰国後にやりたいことまでが堰を切ったように溢れ出した。この衝動は、非日常的なマレーシアでの生活から引き出されたアドレナリンによるものだったのかもしれない。しかし、自分の不完全さや未熟さを差し置いてでも、マレーシアで出会った人々が豊かに幸せに暮らすために本気で取り組みたいと思った。
人生で初めてのこのような経験に戸惑いながらも、自分の中でボランティアに対する現時点での一つの答えを出せたように感じた。ボランティアは現地でできること・やったことが全てではなく、日常の環境に戻ってからの行動も含めて考えるものであるという答えに辿り着いた。ボランティアは、偽善であろうが参加して対象に関心を持ち、それについて調べ学ぶ姿勢を継続することに本質があるのではないかと考えた。
※教員の肩書および学生の所属は、本スタディツアー実施当時(2026年2月)の情報に基づきます。





