The Hirayama Ikuo Volunteer Center (WAVOC) , Waseda University早稲田大学 平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)

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【開催レポート】早稲田大学ボランティア・アカデミー 岩井雪乃准教授 最終セミナー「覚悟を決めてアフリカへ ― 日本だけではない、村に迫るゾウ被害 ―」(2026/3/15)

【開催レポート】早稲田大学ボランティア・アカデミー 岩井雪乃准教授 最終セミナー「覚悟を決めてアフリカへ ― 日本だけではない、村に迫るゾウ被害 ―」(2026/3/15)

2026年3月15日、平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)は、岩井雪乃准教授の最終セミナー「覚悟を決めてアフリカへ ― 日本だけではない、村に迫るゾウ被害 ―」を開催しました。会場とオンラインをつないだハイブリッド形式で行われた本セミナーでは、早稲田大学における20年にわたる実践型ボランティア教育の歩みと、タンザニアで深刻化するゾウ被害の現状、そして今後の実践への思いが語られました。

セミナー会場の全景。参加者が集まり、前方で講演が行われている。

セミナー会場の様子

岩井雪乃准教授がスクリーン前で登壇し、講演している。

岩井雪乃准教授による講演

セミナー概要

岩井雪乃准教授(平山郁夫記念ボランティアセンター)

私は、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)で、20年にわたって学生とともに社会課題の解決に取り組んできました。そして、2026年3月をもって大学を早期退職し、4月からは、タンザニアでのゾウ被害対策に専念します。本セミナーでは、①早稲田大学でのボランティア教育と、②タンザニアでのゾウ被害対策について、20年の活動を紹介します。

【第一部】実践型ボランティア教育の20年

私は2005年にWAVOCに着任しました。WAVOCの教員は、通常の大学教員と異なり、授業に加えて、課外活動として「ボランティアプロジェクト」を実践することに特色があります。教員、学生・現地の方々が現場で寝食をともにしながら社会課題に取り組むこと――それが、WAVOCならではのボランティア教育です。

WAVOCでの20年間で、私は4つのボランティアプロジェクトを立ち上げました。①「エコミュニティ・タンザニア」(タンザニア、ゾウ被害対策)、②「ボルネオプロジェクト」(マレーシア、無国籍の子どもへの教育支援)、③「狩り部」(千葉県鴨川市、獣害対策)、④「ソーシャルビジネス起業プロジェクト」(社会課題をビジネスで解決)といった、多様な挑戦を行ってきました。

活動の成果としては、企業と連携した物資の寄付(①)、活動地の現地大学生を巻き込んだ仕組みづくり(②)、卒業後も課題に取り組み続ける人材育成(①②③④)、地域への関係人口創出(③)などがあり、ささやかながら現地に貢献できたのではないかと思っています。

WAVOCで取り組んできた4つのボランティアプロジェクトを示すスライド。

一方で、その成果を単純に数値だけで測ることは難しいです。地域にどのような変化が生まれたのか、学生にどのような学びが残ったのかは、必ずしも分かりやすい数字には表れません。それでも卒業生たちは、それぞれの場所から「世界をちょっとでもよくしたい」という思いを持ち続けて行動していることを、私に伝えてくれます。そこに、教育の成果が確かに息づいていることを感じています。

「世界をちょっとでもよくしたい」:学生に伝えてきた二つの視点

私の教育目標は、「卒業後も『世界をちょっとでもよくしたい』という想いを持ち続ける人材」を育てることでした。そのために、学生に伝えてきた大切な視点は二つあります。

第一は、「社会課題に唯一の正解はない」ということです。社会課題は、歴史や宗教、政治、経済格差など、さまざまな要因が複雑に絡み合って生じています。簡単に解決できるものではありません。だからこそ、複雑さの前で立ち止まるのではなく、自分なりの「暫定的な解」を持って行動してみようと、学生の背中を押してきました。

学生に伝えてきた視点の一つ『社会課題に唯一の正解はない』を示すスライド。

第二は、「現地によりそいたい」という想いを持ち続けることです。支援や実践を行うときには、それが現地の人びとにどう受け止められるのかを想像し、問い続けることが欠かせません。現地には多様な立場の人がいて、歓迎する人もいれば批判する人もいます。そして、どれだけ相手を理解しようとしても、自分がその人そのものになることはできません。だからこそ、「よりそいたい」という想いは終わりのない問いです。そして、問う度に新しい側面が見えてきて、おもしろくもあり、相手に一歩近づけたと感じる喜びになります。そうした葛藤と喜びを、私は学生に伝えてきました。

学生に伝えてきた視点の一つ『現地によりそいたい』を示すスライド。

【第二部】タンザニアで深刻化するゾウ被害

私は、ボランティア教育に大きな手応えと喜びを感じてきましたが、今後は深刻さを増しているゾウ被害に全力を注ぎます。活動地は、タンザニアのセレンゲティ国立公園に隣接する農村です。この地域では26の村、約7万人が日常的にゾウ被害にさらされており、年間100日以上、ほとんど毎日のようにゾウが村の畑を襲います。さらに、タンザニアでは年間約50人がゾウによって命を落としており、日本のクマによる死亡被害13人(2025年)と比較しても、深刻な状況にあります。

ゾウが畑に入り、トウモロコシを食べている様子。

ゾウが畑のトウモロコシを食べてしまっている

ゾウの襲撃で全滅した畑の前で、農民が立ち尽くしている。

一晩のゾウの襲撃で全滅した畑と、呆然とする農民

ゾウが人を襲う際の危険な動きを説明する図版または写真。

ゾウが人を襲う時、鼻と頭で地面に押さえつける

被害拡大の背景には三つの要因があります。第一に、保護政策と密猟対策の強化によるゾウの個体数の増加です。第二に、狩猟禁止を背景に、ゾウが人を怖がらなくなっていること、いわゆる人慣れです。第三に、人口増加に伴う農地の拡大によって、国立公園のすぐ近くまで畑が広がっていることです。こうした条件が重なり、栄養価の高い餌(作物)を求めてゾウが村へ入り込む状況が生まれています。

このように、セレンゲティ国立公園の外側では、農村の人びと(貧困層)が生活を支える作物をゾウに奪われ、命の危険にもさらされています。一方、国立公園の内側では、世界中の観光客(富裕層)が豊かな野生動物を楽しむために訪れています。私の活動地は、「世界の格差が目に見える場所」でもあるのです。

国立公園の内外で生じる格差を示したスライド。

試行錯誤を重ねて見えてきた支援のかたち

ゾウ被害に対して、私は20年にわたり、さまざまな対策を試みてきました。三菱自動車工業株式会社の協賛によるパトロールカーの寄贈、W-BRIDGE(早稲田大学と株式会社ブリヂストンが連携して設置した研究プロジェクト)の産学連携研究プロジェクトとして推し進めた養蜂箱フェンス(ミツバチロープ)の導入、ワイヤーフェンスの設置など、取り組みは多岐にわたります。しかし、被害の拡大や現地条件の厳しさのなかで、どの方法も十分とはいえない現実がありました。

寄贈されたパトロールカーの前に現地関係者が並んでいる。

三菱自動車工業株式会社寄贈パトロールカー

養蜂箱フェンスの設置現場で、関係者が集まっている。

W-BRIDGEによる産学連携研究プロジェクトで設置した養蜂箱フェンス(ミツバチロープ)

ワイヤーフェンスの設置作業の様子。

ワイヤーフェンス

追い払い隊を支援する見張り小屋の建設現場。

追い払い隊支援の見張り小屋建設

その試行錯誤を経て、現在の中心的な活動となっているのが、村人が結成した「追い払い隊」を支えることです。追い払い隊は、夜間に村へ近づくゾウの気配を察知し、爆音機を用いて群れを国立公園へ戻します。ゾウの動きや群れの広がり、進行方向を細かく観察しながら配置を工夫して追い払うその技術には、高い経験と身体感覚が求められます。私は、現地の人びとの観察力、創意工夫力、そして勇気を深く尊敬しています。

夜間パトロールに向かう追い払い隊と岩井准教授。

夜のパトロールに行く追い払い隊と共に

ただし、この方法も万能ではありません。被害は一定程度抑えられているものの、追い払い隊の負担は非常に大きく、夜を徹した活動が続いています。根本的な解決のためには政策レベルでの対策が必要ですが、タンザニア政府は十分に効果のある施策を打ち出せていません。

「野生動物との共存」を考える際の三つの視点

ここで、みなさんにぜひ知ってほしい、「野生ゾウと地域住民の共存」を考えるうえで重要な三つの視点をお伝えします。

野生動物との共存を考える三つの視点を示すスライド。

第一は、野生動物との共存には「距離を取った棲み分け」が必要であるということです。飼育動物と野生動物は、同じ「動物」であっても前提が異なります。野生動物には、人間を恐れさせ、一定の距離を保つことが必要になります。

第二は、状況に応じて管理の方法を変えていく「順応的管理」が必要であるということです。自然を完全に人間の思い通りにすることはできません。それは、都市住民が陥りがちな「人間の奢り」です。野生動物の個体数や自然環境の変化に応じて対策も見直していくことが求められます。それが順応的管理です。

第三は、「動物」や「人間」を一括りにしないことです。同じゾウでも、飼育されたゾウと野生のゾウでは取るべき対応が異なります。また、同じ人間でも、被害を受けている村人と観光や税収の恩恵を受けている人びととでは立場が異なります。誰が利益を得て、誰が被害を受けているのか。その違いに目を向けることが、この問題を考える出発点になるのです。

伝えることもまた、実践の一つ

ゾウ対策として私にできることは、現地で追い払い隊を支えることに加えて、こうして、日本のみなさんにこの問題を伝えることも、実践の一つです。野生動物との共存をどう捉えるのか、そのイメージそのものを問い直してもらうことが、今後の被害対策の推進に必要です。私は、これも自分にできる大切な取り組みであると考えて、本セミナーを開催しました。

今後は、NPO法人アフリック・アフリカ「アフリカゾウと生きるプロジェクト」の責任者として、さらに現場での実践に力を注いでいきます。一方で、早稲田大学の研究員としての立場も継続しながら、日本とタンザニアを行き来する生活を始めます。これからも、ゾウ被害問題に関心を持ち続けてください。

アフリカゾウと生きるプロジェクトのタイトル画像。

【関連情報へのリンク】
岩井雪乃准教授の今後の活動はこちらから
Instagram: https://www.instagram.com/yukinoiwaiwa/
特定非営利活動法人アフリック・アフリカ「アフリカゾウと生きるプロジェクト」
ウェブサイト: https://afric-africa.org/africa/

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