【開催レポート】早稲田大学ボランティア・アカデミー 2025年秋冬セミナー「災害復興×未来 ボランティア」
2025年10月19日(日)、GCC Common Room(27号館・早稲田キャンパス)において、早稲田大学ボランティア・アカデミー 2025年秋冬セミナー「災害復興×未来 ボランティア」を開催しました。
大学生が当事者意識を持って一歩を踏み出した被災地での活動体験を、現場での経験として語り合いました。東日本大震災(2011年)や能登半島地震・豪雨(2024年)における災害復興支援ボランティア活動の経験を踏まえ、未来へつながる出発点として「行動し続けるための視点」をともに考える機会となりました。
本学学生および金沢大学の学生によるパネルディスカッションとポスター展示を実施し、能登半島地震の復旧・復興を軸に、発災直後の泥かきや家屋の片付けから、仮設住宅でのコミュニティ形成、そして東日本大震災の被災地における長期的な追悼と記憶継承の場づくりまで、学生たちが実践してきた取り組みと、そのなかで生まれた変化や思いを共有しました。
登壇した団体は、本学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)の「災害ボランティア研究会」「ソーシャルビジネス起業プロジェクト」「陸前高田プロジェクト」に加え、金沢大学の「ボランティアさぽーとステーション」です。重機が入れない神社での瓦礫撤去と再訪時の変化、民家の泥出しに伴う無力感と達成感、仮設住宅での交流会による孤立の緩和、「光ノ碑(ひかりのいしぶみ)」の企画・運営を通しての被災者理解など、具体的な事例が報告されました。進行を務めた岩井准教授からは、参加学生に向けて「学生の力は微力だが無力ではない」こと、そして「継続」と「対話」の重要性が強調されました。
当日のパネルディスカッションの様子をお伝えします。
パネルディスカッション
テーマ:災害ボランティアで大学生はどんな貢献ができたのか — 東日本大震災から能登半島地震・豪雨まで
開会・趣旨説明 岩井雪乃准教授(平山郁夫記念ボランティアセンター):

これから約1時間、「災害ボランティアで大学生はどんな貢献ができたのか」をテーマにパネルディスカッションを行います。大学生の声を聞きながら、どんな貢献ができたのかを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
私は早稲田大学 平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)の教員の岩井と申します。本日の進行を務めます。
WAVOCは、早稲田大学の学生がボランティア活動を通じて社会に貢献し、同時に学生自身も成長することを目指す組織です。社会貢献を現場で実践するプログラムを授業および課外活動として展開し、「学術の知」と「現場での体験知」をつないでいくセンターとして活動しています。2024年度の授業履修者数は約1,700名、課外のボランティア活動に参加した学生数は約6,600名です。
WAVOCは、災害ボランティアにも取り組んできました。直近の大きな災害としては、昨年の能登半島地震とその後の豪雨がありました。亡くなられた方も多く、現在も仮設住宅で暮らしている方が2万人近くいらっしゃいます。WAVOCによる能登半島地震への学生ボランティア派遣では、この1年半で延べ約260名を現地に送り出しました。東日本大震災でも多くのボランティアを派遣し、9年間で延べ約8,700名という規模の活動実績があります。
災害が発生すると生活環境は大きく損なわれ、復旧・復興の過程で必要な支援は、時間の経過とともに変化していきます。初期は瓦礫の片付けや泥出し、次に仮設住宅でのコミュニティづくりの支援、さらに年月が経過した地域での関わりも求められます。今日は、発災直後から長期に至るまでの段階ごとに、大学生が復興支援にどのように関わってきたのか、限界や無力感も含めてお伝えします。前半は4つの団体から各5分ずつの活動紹介、後半は登壇学生5名の体験をもとに、会場の皆さんとパネルディスカッションを行います。
団体紹介(前半)
災害ボランティア研究会(早稲田ボランティアプロジェクト) 上遠野永生さん:

早稲田大学社会科学部2年の上遠野です。高校3年の冬に能登半島で地震が発生し、自分が災害に備えられているのかどうか不安になったことをきっかけに、防災への関心が高まり、入学後に本プロジェクトに加入しました。
普段は「防災まち歩きマップ」を作り、実際にまちを歩いて危険箇所を確認する活動をしています。今年2月には大分県中津市で実施しました。早稲田キャンパス周辺でも同様の取り組みを検討しています。
もう一つ、子ども向けの防災本を制作しており、会場に試作を展示しています。生活のなかで災害に遭遇したときの対応を、子どもにも読みやすい文章でまとめています。
能登での災害ボランティアには、昨年8月と今年9月の2回参加しました。昨年は1週間、避難所として使われた公民館での廃棄物の撤去、物資配布、新たな避難所(学校体育館)での段ボールベッド設営などに関わりました。発災直後、公民館には約180人が集まり、廊下で座って寝る方もいたと伺い、強く印象に残っています。
今年9月には、かつて避難所だった深見小学校に宿泊し、復興の進み具合を実感しました。輪島市の重蔵神社では、禰宜の方が発災直後から炊き出しや支援者の受け入れなどに取り組んでこられたこの1年数か月間の活動についてお話を伺いました。
ソーシャルビジネス起業プロジェクト(早稲田ボランティアプロジェクト) 宮代航汰さん:
教育学部1年の宮代です。団体の正式名称は「ソーシャルビジネス起業プロジェクト」ですが、長いので「ソービズ」と呼んでいます。WAVOCが設置するボランティアプロジェクトで、「社会課題をビジネスで解決する」ことを目指す団体です。2022年に発足し、WAVOC教員の岩井先生が担当しており、現在約40名が所属しています。
他団体が特定地域にフォーカスすることが多いなかで、私たちは地域ではなくビジネスという視点から課題設定と活動を行っています。活動内容は、毎週の対面ミーティングでのワークショップやディベート、ビジネスコンテストや各種コンペへの参加、外部講師による講演・研修などです。
能登半島の七尾市中島地区では、災害後の復興作業にも関わってきました。今秋は、早稲田祭での能登関連商品の物販、ボランティア×ビジネスコンテスト、アクティブシニアとのワークショップなどを予定しています。
金沢大学ボランティアさぽーとステーション 喜多見浩介さん/湯澤実柚さん:
喜多見さん:
金沢大学理工学域・地球社会基盤学類2年の喜多見です。メディアでの出来事を傍観するのではなく、自分で何をすべきかを確かめたいと思い、現地に入ったことをきっかけに活動を始めました。
湯澤さん:
金沢大学人間社会学域・地域創造学類2年の湯澤です。私は石川県白山市の出身で、県内外からたくさんの方が支援に来てくださっているにもかかわらず、受験期で何もできていない自分の状況がすごくもどかしく、大学に入って時間ができたらボランティア活動に参加したいと考え、サークルに入りました。
喜多見さん:
「金沢大学ボランティアさぽーとステーション」は、東日本大震災の発生をきっかけに2011年12月に発足し、東日本大震災、西日本豪雨、2019年の台風19号、石川県内の豪雨などの復旧・復興支援の活動を重ねてきました。今回の能登半島地震では、当初は余震等の影響で立ち入りが遅れ、2月22日に初めて被災地に入りました。七尾市では落下した瓦の撤去や土嚢袋に入れた瓦礫の搬出、輪島朝市通りでは大火が発生した地区での篩作業による貴重品捜索、能登町では津波の漂流物撤去などを行いました。2025年9月末までに、延べ約2,100人の学生を派遣しています。
また、昨年9月の奥能登豪雨では、9月20日から3日間で、1か月分の平年降水量の2倍以上となる雨が降りました。奥能登豪雨の被災地での活動としては、液状化の被害があった内灘町と輪島市で、これまで計48回の活動を行っています。他にも、写真洗浄や海岸清掃の活動も継続しています。
陸前高田プロジェクト(早稲田ボランティアプロジェクト) 村上彩さん:

法学部4年の村上です。祖父母の家が陸前高田市にあり、遠方に住んでいたこともあって、今まで何もできなかったので、大学生となった今、地域のために何かしてみたいと思い、参加しました。
私たち陸前高田プロジェクトは、岩手県の陸前高田市で、地域住民や他大学の学生とともに地域のニーズに応える活動に取り組んでいます。メンバーは約10名で、週1回のミーティングを行い、年2〜3回の現地活動を実施しています。主な活動は「光ノ碑(ひかりのいしぶみ)」プロジェクトです。高田松原津波復興祈念公園の防潮堤をライトアップする催しで、3月8日から11日までの4日間にわたって実施しました。
昨年6月からアンケートなどで住民の方々の声を伺い、地元の団体の方との連携を図りながら、岩手大学の学生や地域の方々と趣旨や企画を決定しました。来場者がメッセージを書いて貼る「光ノ手紙」という企画も実施しました。訪れていただいた方々からは「静かだけれど寂しくない、いろいろな思いの人や多様な世代が集まっていた柔らかい場所」との声をいただきました。
パネルディスカッション(後半)
「現場の体験から生まれる感情と学びへ」
岩井准教授:
ここからは、より具体的な体験やそこで生まれた感情、学びに踏み込みます。まず、初動期の瓦礫撤去や泥出し作業に関わった上遠野さん、宮代さんからお話をうかがいます。
上遠野さん:

重蔵神社の社は階段を上った先にあり、重機が入れません。バールやハンマーで崩し、人力で階段下の重機が入れる場所まで運搬しました。短期間の参加では見える成果が限られ、終わりが見えない無力感も強く感じました。
ただ、翌年再訪すると完全に片付いており、新しい建屋の整備が進んでいました。自分は小さなことしかできなかったようでも、積み重なっていけば確かな進展になるのだと実感しました。継続的に足を運んだからこそ得られた気づきでした。
宮代さん:

今年の7月に1泊2日で災害ボランティアに参加しました。現地では、輪島の民家で床下の泥出しを行いました。豪雨で裏山が崩れ、家の裏側から土砂が一気に流れ込んでしまった状況でした。家主の方から「思い出の詰まった家にもう一度住みたい」という思いを直接お聞きして、その願いを叶えたいと思いました。しかし、4〜5時間の作業を行っても、家の一角分しか進みません。先が見えず、なかなか進まないことに無力感を覚えました。それでも、活動の最後に感謝の言葉をいただけたことで、少しでも貢献できたのかなと感じました。
また、現地に行かないと分からない現実が多く、報道で取り上げられなくなった後も課題は残ることを強く実感しました。
岩井准教授:
ボランティアの力を表現するときに、「微力だが無力ではない」という言葉があります。お二人の体験からは、できたことは少なかったかもしれないけれど、その小さな関わりによって被災地の方が小さな喜びや希望を持てることが伝わります。また同時に、その小さなボランティアの関わりが積み重なって、大きな成果につながることを示していると思います。
岩井准教授:
次に、仮設住宅でのコミュニティづくりに取り組む金沢大学のお二人に、実際に被災者の方々と深く関わりながら関係性を築いてきた体験を紹介してもらいます。
湯澤さん:

私たちは、「寄ってきまっし交流会」を昨年9月から内灘町で月2回、今年3月からは輪島市の南志見地区・鳳至町で月1回開催しています。交流会では、前半に自由なおしゃべりで関係性をつくり、後半に折り紙やスポーツレクリエーション(ボッチャ)などのワークショップを組み合わせています。
仮設住宅では誰が隣人か分からない状況が生まれやすく、新しいコミュニティづくりの場が求められています。初参加の方が涙ながらに「一人で過ごしがちだが、大学生や地域の方と笑い合って楽しく過ごせた。また来ます」と言ってくださり、人と人の温かいつながりが心の支えにつながっていると感じます。
喜多見さん:
私たちは、被災地に近い大学だからこそ、継続的に「通い続ける」ことができます。参加者の方に「若い大学生とおしゃべりするのが楽しい。元気がもらえる」と言ってもらえたことが、とても嬉しかったです。若者ならではのスマホ教室の開催もニーズが高く、大学生だからこそできる支援もあると感じました。
一方で、参加者層に偏りがあり、男性や子どもの参加が少ないという課題があります。子ども向けイベントや、他サークルの協力など、工夫を検討しています。クリスマスイベント、二次避難の方向けの交流会も実施しました。公費解体など専門的な相談への対応は、学生には限界があるため、できる支援とできない支援を明確にしつつ、伴走を続けています。
岩井准教授:
最後に、長期フェーズの関わりとして、陸前高田プロジェクトの村上さんに、活動に込めた思いをぜひ伝えてもらいたいと思います。記憶の継承と追悼の場づくりを通して、住民の方々とどのように対話されましたか。
村上さん:

私たち陸前高田プロジェクトは、震災から14年が経過した陸前高田市で、東日本大震災の追悼の場をつくる光ノ碑プロジェクトを実施しました。この活動を続けるなかで、貢献できたと強く感じた出来事が一つあります。
当日(2025年3月11日)、見に来てくださった方が、わざわざ私のところまで来てくださり、目に涙を浮かべながら「開催してくれてありがとう」と声をかけてくださいました。このライトアップの催しを企画するにあたって、「これが震災から14年経った今、行う活動として適切なのか」「私たち外部の大学生が担う活動としてふさわしいのか」、さまざまな葛藤がありました。そうしたなかで、地元の方々から感謝の気持ちを直接伝えていただき、「やってよかった」という思いとともに、「地域の方々に少しは貢献できたのかな」という達成感がありました。
一方で、震災後に沿岸に建てられた祈念公園が、市民のためのものというより観光客のための場所になってしまっていること、さらに内陸部の市街地まで市外から訪れた方に足を運んでもらえていない現状も伺いました。その話を聞き、4日間の催しだけでは、地域住民の方が日々感じている課題に十分応えられなかったのではないかという無力感も覚えました。現在は、2026年3月の開催に向けて、より持続的で住民に寄り添ったかたちを検討しています。
質疑応答
会場参加者:
陸前高田以外に、宮城や福島などへの展開予定はありますか。
村上さん:
私たちは「陸前高田プロジェクト」として陸前高田に軸足を置いています。他県での開催は現時点では考えていません。ただ、岩手大学などとの連携を通じて、活動の考え方が他地域の学生に広がり、各地の催しのきっかけになればと思います。
会場参加者:
金沢大学ボランティアさぽーとステーションは50〜80人規模と伺いました。大所帯の運営の難しさはありますか。
喜多見さん:
活動ごとに「写真洗浄」「災害派遣」「傾聴(交流会)」などの班を設け、班長に現地調整や会場の鍵の受け渡しなどを任せています。高い熱量で活動している中核のメンバーは30名弱で、役割分担により運営負荷を抑えています。複数のサークルを掛け持ちする人も多く、関わりの濃淡があっても参加しやすいように設計しています。

兵藤智佳准教授(平山郁夫記念ボランティアセンター):
男性高齢者の参加促進は、「してあげる」という発想だと難しいことが多いです。「教えてください」という学びの姿勢でお願いすると足が向きやすい、というケア現場の知見があります。電気配線、習字、工具の使い方など、先生役になっていただくような場の設計が有効です。
喜多見さん・湯澤さん:
大変参考になります。次の企画で取り入れていきます。
会場参加者:
自分の防災だけでなく、地域や他の人のことも考えることが大事だと感じました。
岩井准教授:
その気づきはとても大切です。たとえば小学校に防災絵本を持っていき、地域で一緒に考える場をつくることも有効です。
会場参加者:
災害ボランティアの経験が、自分に影響を与えてくれたり、何か考え方が変わったと感じることはありましたか。
登壇者(順に):
現地に行かないと分からないことが多いと実感しました。報道が減っても課題は続くという前提で物事を見るようになりました。(宮代さん)
ボランティア活動は、「してあげる」という一方向のものではなく、自分たちも元気をいただく場だと捉えるようになり、継続の動機づけになっています。(喜多見さん)
多様な他者と協働する経験が、日常のチーム活動にも活きています。苦手意識が薄れ、地域の消防団にも参加しました。(上遠野さん)
多様な立場の方と企画をまとめる経験を通じて視野が広がりました。大学の活動でも、合意形成や対話の姿勢を意識するようになりました。(村上さん)
まとめ
岩井准教授:
本日は、学生による災害ボランティアの多様な実践を共有しました。初動の瓦礫撤去や泥出し、仮設住宅でのコミュニティづくり、そして14年を経た被災地での記憶の継承と追悼の場づくりなどの紹介がありました。学生の皆さんが大学のキャンパスを飛び出して、多様な年代の方々、あるいは立場の異なる方々、意見の違う方々と出会い、まさに社会課題が生じている現場のなかで、自分たちができることに向き合っていました。
共通していたのは、「継続」と「対話」です。短期では進展が見られず無力感を覚えることもありますが、再訪して初めて見える変化があります。専門性の限界がある場面では、できること/できないことの線引きを明確にし、地域の方やNPOと補完し合うことが重要です。長期フェーズでは、誰のための場かを問い直し、日常に接続する仕組みが求められます。
金沢から駆けつけてくださった喜多見さん、湯澤さん、そして発表・議論を準備してくれた上遠野さん、宮代さん、村上さんに、改めて拍手をお願いします。会場には各団体のポスターや展示があります。登壇者もこの後しばらく会場におりますので、ぜひ直接声をかけ、具体的な質問やコラボレーションの相談をしてみてください。ここから新たな実践が生まれることを期待しています。
本日はご参加ありがとうございました。





