The Hirayama Ikuo Volunteer Center (WAVOC) 早稲田大学 平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)

命懸けの狩猟の世界 ~体験的学習科目「狩猟と地域おこしボランティア」10~

命懸けの狩猟の世界 ~体験的学習科目「狩猟と地域おこしボランティア」10~

西本 将来 (商学部4年)

命懸けの狩猟で命を頂いている、そう感じた体験だった。
2021年6月と7月の二日間、山梨県の丹波山村に足を運んだ。丹波山村は都心から車で3時間弱、東京都と山梨県の県境にある村だ。2000mを超える山々に囲まれたこの村では、畑作に適した場所が少なく、昔から命を繋ぐ糧として鹿・猪・熊といった山の生き物たちを狩猟によって得てきたという。

私はこの丹波山村で「生き物」が「肉」に代わる瞬間を目の当たりにした。実際にその過程を見る前後では、私が食べていた「肉」に対するありがたみの感じ方は全く違うものとなっていた。

丹波山に着いた私は罠にかかった鹿がいる現場に案内してもらった。そこには右足が罠にかかりながらも必死に生きようと私たちに威嚇する雌鹿と、人が現れたことに驚き逃げ去っていく子鹿の姿があった。2匹は親子だったのだろう。この2匹の姿を見て、どんな生き物にも家族がおり、それぞれが今まで生きてきたストーリーがあるのだ。罠にかかった雌鹿はもちろん、逃げていった子鹿も親なしでは長くは生きられないと聞いたとき、1つの命を頂くことの重みを実感した。

右足が罠にかかりながらも必死に逃げようとする鹿

罠にかかった雌鹿は、その場で銃を使って仕留められ、胸にナイフを刺して血抜きが行われた。銃で頭を撃ち抜かれた瞬間、地面にバタリと倒れ、暴れていた鹿は動かなくなってしまった。そこから血抜きまではあっという間だった。猟師の方が言うにはこの血抜きの素早さが「肉」の味を大きく左右するのだという。

血抜きが終わるとトラックに載せられ、処理場へと運ばれていった。周辺の小規模な畑は3mはあろうかという鉄柵で覆われており、少し不思議な光景だった。処理場では解体を見学させてもらいながら、猟師さんの狩猟に対する思いを聞くことが出来た。まず、猟師は生き物を猟奇的な目的で殺しているわけではなく、獣害問題の解消を一番の目的としているのだという。都会で生活する私たちにとっての鹿は可愛くて珍しい生き物だが、山間部で増えすぎた鹿は森林の植生を破壊し、農作物にも大きな被害をもたらしているのだ。村の畑が鉄柵でおおわれているのも獣害防止のためであり、第一次産業が中心の丹波山村では食料が手に入らなくなると生活が成り立たないのだ。また、罠にかかった獣を長く苦しめないために、たとえ天候が悪くても毎日罠の見回りを行うこと、山の管理者として倒木の処理などを行っていること、ベテラン猟師が熊に襲われ大けがを負った話などを聞いた。猟師とは一方的に生き物の命を奪う存在ではなく、山で生きる存在として、命懸けで自然・生き物と向き合っているのだと感じた。

一連の解体を目の当たりにし、猟師の方の思いを聞いた後、鹿肉を使ったお弁当をいただいた。命をいただいていることを実感しながら食べるお弁当は、今まで食べたご飯で最もずっしりと重く、ありがたく、おいしいお弁当であった。

 

≪体験的学習科目「狩猟と地域おこしボランティア」のこれまでの連載記事はこちらから≫
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2021/10/22/6915/

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