The Hirayama Ikuo Volunteer Center (WAVOC) 早稲田大学 平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)

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これまでのあまたんブータン渡航を振り返る~平山雄大のブータンつれづれ45~

これまでのあまたんブータン渡航を振り返る~平山雄大のブータンつれづれ45~

平山郁夫記念ボランティアセンター 平山雄大

あまたんこと「海士(あま)ブータンプロジェクト」は、WAVOCに所属する各教員の専門性を活かし、その指導のもとで活動する早稲田ボランティアプロジェクト(ワボプロ)のひとつです。舞台は島根県隠岐郡海士町とブータンの2ヵ所。地域創生の「挑戦事例」を数多く有する海士からの学びをもとにブータンの地方問題に一石を投じることを目指して、2017年4月にプロジェクトが始まりました(※1)。

メンバーは、これまでに3回(地域調査で2回、スタディツアーの実施で1回)ブータンに渡航しています。

【1回目の渡航】
ブータンの現状や課題を直接確認し、自分たちにできることを詳察するため、より具体的には①首都ティンプーの様子を知る、②都市の現状・課題を知る/産業の構造・みやげものの現状を知る、③(伝統)文化について知る、④農村の現状・課題を知る、⑤学校の様子を知る、⑥同世代の若者の様子を知るために、1年目の春休み(2018年2月24日~3月4日)に、西部(パロ県、ティンプー県、プナカ県、ワンデュ・ポダン県、ハ県)において地域調査を実施しました(※2)。

ティンプーのアパートとハの農家でのホームステイを通して都市と農村双方の生活を体感しながら調査を行いましたが、現地で使える時間をフル活用し、開発の意味やブータンの魅力を再考する貴重な機会となったように思います。特にハでインタビューを行った際の回答に、メンバーは大きな衝撃を受けました。最終的に「ボランティアって何なのか……」という根本的な問いにぶつかった彼らは、自分たちの力でできる「良い」支援について、さらにあまたんが活動することの意味について議論を重ねることになりました。

日本(島根県浜田市)とブータンの繋がりを学ぶ

ツェチュ(お祭り)の会場となっていたプナカ・ゾンにて

お世話になったハの農家のアパ

王立ブータン大学パロ教育カレッジ訪問

パロの農家でお話を伺う

※メンバーの振り返りシートより(抜粋)

  • “ブータンらしさ”の追求の必要性:“文化と発展のバランス”はkeywordだと感じる。発展が文化をつぶすという先入観があったが、キラやゴを若者が手軽に身につけたり、100年前、300年前の歌を若者がコンテストで歌っている場面をブータン人がテレビ(BBS)で目にすることで逆に浸透するなど、発展には文化を残す力がある。
  • 若者の宗教・文化に対する意識の高さ:若者の使うスマホの待ち受けや背景画像が、釈迦だったのは無意識の信仰心の強さのあらわれ。ツェチュに限らず、若者たちがキラ・ゴを自身のファッションにおける個性の表現として選び祭りに着ていく、という過程すらも日本にはない文化の定着度の高さが伺える。
  • 地方創生の意味って?:ハのアパに今後変わっていってほしいか尋ねたら、「物はすぐ手に入るし、電気や道も必要な限り届いている。ハは昔(60年前)に比べて30%くらい変わったけれど、これで十分」と答えてくれた。「人の欲は終わらない、昔の不便さを変えよう変えようとするのはキリがない」、その場所に住む人の幸せや生活環境の充実度を考えると、敢えてそこに手を加えることの違和感がある。
  • 残すことの大切さ:データを残さないことは同じ失敗につながる。農業だけに限らず、急成長するブータンを目にして、またブータン人が石をみんなで砕きながらパロ空港をつくっていたような過去のブータンを比較して、刻々と変化するブータンを記録として残すということそのものに私たちがブータンを訪問した意味を見出せる気がした。

あまたんの活動はメンバーの自発性に重きを置き、活動を巡るほぼすべての事柄をメンバー内で議論しながら確定させていくかたちを採っています。帰国後も話し合いを続け、「AMAワゴン」や「SHIMA探究」といった海士や海士を含む島前地域を舞台にしたスタディツアーの先行事例をうまく参照しながら、地域密着・体験交流型ブータンスタディツアーの企画を通して同国の地方を巡る問題について考える機会を提供することが、現時点で自分たちにできる最大のボランティア活動だという結論に至りました。

【2回目の渡航】
2年目の夏休み(2018年8月6日~13日)には、ブータン東部(サムドゥプ・ジョンカル県、タシガン県、タシ・ヤンツェ県)で地域調査を行いました。「東部は(国際空港がある西部から車で2泊3日もかかるところにあり)訪れる観光客は少ないけれども、ブータンの地方のリアルを肌で感じられる場所だ!」との想いのもと、東部を舞台としたスタディツアーの可能性を探るべく、インドのアッサム州からサムドゥプ・ジョンカル(※3)まで車で北上し陸路入国するというスタイルで目指しました。

このときの渡航メンバー5名の中で唯一西部への訪問経験もあったメンバー曰く、西部では文化保護政策と相対するかのような経済発展の様子を垣間見たけれども、東部はただひたすら時が止まっており、東部を訪問して初めて地域活性化の意義が見出せた気がするとのこと。彼女は、道路インフラや医療制度に明らかな格差を感じ、東部は「すべてが途上にある」との印象を受けたようです。

ナルプンの市場の品揃えを確認する

タシガンの市内

タシガン・ゾンで説明を受ける

村の平和を祈願する法要

崖崩れで通行止めとなった国道

実際このときの調査は、往路・復路ともにサムドゥプ・ジョンカル=タシガン間の道が崖崩れにより通行不能になったり(往路は歩いて崖を登って向こう側へ!)、大雨の影響でタシガンの町中の水道が何週間も止まったままになっていたり、体力的・衛生環境的に少々ハードなものとなりました。ブータンの地方問題を知るうえで東部を訪れることは確かに意義があり大きな可能性を見出せることを実感しましたが、アクセスの難しさやインフラの未整備状況等を総合的に勘案し、東部を舞台としたスタディツアーの実施は(現時点では)難しいという結論に……。

帰国後は、2年目の活動の集大成と当初から位置づけていたあまたん主催「第1回地域密着・体験交流型ブータンスタディツアー」に向けた準備に移行。ブータンの「良さ」を体感すると同時に都市と農村の違いを知り、同国で起きている地方問題を知ることを目的としたこのスタディツアーは、参加費用の面から期間は1週間(2019年2月11日~18日)、利便性の面から訪問地はブータン西部(パロ県、ティンプー県、プナカ県、ハ県)とし、その日程と行き先で最大限のパフォーマンスを発揮できるようメンバー内で話し合いを重ね、航空券手配やアポ取りを行いながら綿密に組み立てました。

【3回目の渡航】
参加者募集に呼応してくれた5名の学生を迎え、3回の参加者ミーティングで結束を固め、出発前日に開催した第100回ブータン勉強会(※4)で学びを深め本番に臨んだスタディツアー。「都市の人々の暮らしを知る」「農村の人々の暮らしを知る」「都市と農村の違いを知る」といった日毎のテーマを設定しつつ、ハとパロでの農家ホームステイ及び移動中・市内散策中の体験交流を重視したものとなりました。また学生の強い希望に応じるかたちで、薬物・アルコール中毒者支援を行っているNGO であるCPA(Chithuen Phendhey Association)の事務所とリハビリテーションセンターにも足を運びました。

プナカ・ドゥプチェン(お祭り)で知り合った学僧たち

お祭りの屋台でクル(ダーツ)に挑む

学校で子どもたちに話を聞く

子どもたちとの交流

ホームステイ中の朝食風景

大雪で通行止めになったチェレ・ラ(峠)にて

※参加学生の感想(抜粋)

  • ハの、文化を守りながら発展するという方針が幸せの国として発展するにはいいことなのかと私は思う。国際社会の中で生きていくには発展は不可避ではあるだろうけど、急ぎすぎない、必要以上を求めない発展の仕方を求めることが幸せにより近いかと思う。何が幸せなのか、自分は何を求めているのか考えるきっかけになるツアーだった。
  • ブータンの一番の魅力は何。人に聞かれて、答えられなくて考えた。ブータンは非日常の世界というわけではない。ブータンは、非日常の中にも日常がある。ネットに夢中の若者たち、SNSは大ブーム、過疎化の農村、脱落すると厳しい学歴社会、社会的弱者への理解のなさ、浮気もよくあるとか。それは私たちの知っている、いかにも人間的な現代社会。しかし、それを取り巻く環境に、チベット仏教という一本の筋が通っている。国王や両親、先生への敬意という一本の筋が通っている。そしてそのすべてを広大な自然が覆っている。ブータンの美しさは、きっとその融合が見えることなのだと思う。
  • 私が見たブータンはほんの一部に過ぎず、きっと地域によってもいろいろな幸せのかたちがあると思うとワクワクする。また今回の旅でブータンが抱えるアルコール、薬物、情報化など様々な問題や課題を目の当たりにした。発展とともに変わりゆく「時間の使い方」。変わってほしくないというのは観光客の一存である。まだまだ知識の少ない私に出来ることは、ブータンに関心を持ち続けることだと思う。

次回の渡航=あまたん主催「第2回地域密着・体験交流型ブータンスタディツアー」は2020年2月5日から13日にかけて実施され、今度はワンデュ・ポダン県のポブジカまで足を運びます。

※1 あまたんのこれまでの活動に関しては、2019年12月にナカニシヤ出版より刊行されたWAVOC編/兵藤智佳、二文字屋脩、平山雄大、岩井雪乃監修『ボランティアで学生は変わるのか―「体験の言語化」からの挑戦―』にも取り上げられています。
http://www.nakanishiya.co.jp/book/b488667.html

※2 日本財団学生ボランティアセンター(Gakuvo)ウェブサイト内での活動報告。
http://gakuvo.jp/katsudou2017/yuruvo09/

※3 平山雄大のブータンつれづれ(第26回)「国境の町のこと―サムドゥプ・ジョンカル編―」
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2018/12/27/3997/

※4 日本ブータン研究所ウェブサイト内での開催報告。
http://www.bhutanstudies.net/workshop/100th/

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