The Hirayama Ikuo Volunteer Center (WAVOC) 早稲田大学 平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)

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二文字屋の「無為無策でなにが悪い!」(第1回)

二文字屋の「無為無策でなにが悪い!」(第1回)

平山郁夫記念ボランティアセンター 二文字屋脩

こんにちは、WAVOC講師の二文字屋(ニモンジヤ)です。不定期にはなりますが、私が研究しているタイの少数民族(ムラブリ)を中心に(ときどき日本のホームレス)、小話のようなものを皆さんにお届けしていきます。

観光地としても人気のタイ。その北部地域には、「チャオ・カオ(タイ山地民)」と総称される少数民族が数多く暮らしている。丸い金属をあしらった頭飾りをつけたアカ族、無数のビーズを散りばめた帽子を被ったモン族、極彩色に彩られたボンボンのついた腰飾りを纏ったリス族など。みな、目を奪われるほどに煌びやかな民族衣装に身を包んでいる。日本では、棒状の真鍮を首に巻き付けたカレン族、いわゆる「首長カレン族」が有名ではないだろうか。しかし同じ「タイ山地民」でも、非常に質素な外見をもつ少数民族がいるのをご存じだろうか。

男はふんどし一枚に、女は腰布一枚。モノクロ写真でなくともその見た目は実に「地味」である。男は腰に山刀を差し、手に槍を持っているが、決して猛々しいものではない。「武器」というよりは護身用にさえみえる。彼らの名前はムラブリ。「森の人」という意味である。だがタイでこの名前を知る者はほとんどいない。だが「ピー・トン・ルアン」と言えば、事態は大きく違ってくる。タイ人に聞けば、ほとんどが「知っている」と答えるだろう。

「ピー・トン・ルアン」とは、日本語で訳すと「黄色い葉の精霊」という意味になる。タイ語のニュアンスを重視すれば、「ピー」は「精霊」ではなく「お化け」と訳した方がいい。だが彼らはもちろん「ピー」ではない。れっきとした人間である。

そもそも「黄色い葉の精霊(お化け)」という奇妙な名前が付けられたのは、ムラブリの伝統的な生活スタイルにある。ムラブリは動物を狩ったり植物を採集したりして森の奥深くを移動しながら生きてきた。移動の回数は7〜10日に一回。単純計算で少なくとも1年に36回、「引っ越し」をする。引っ越し好きなので、家も極めて簡素だ。竹や木を地面に突き刺して骨組みを作り、その上に面積の大きいバナナの葉を被せるだけ。早ければものの10分で完成する。そんな家屋(?)がいくつか集まって一つのキャンプが出来上がるが、このキャンプが引っ越しするのは、屋根代わりのバナナの葉が乾燥して黄色く変色する頃。引っ越しの時に家を壊したりして後片付けをすることはない。そのままほったらかしにして、次のキャンプ候補地探しで再び森を分け入っていく。なので森に入ったよそ者が目にするのは、誰かがそこで生活していたことをほのめかす痕跡だけで、肝心の人の姿を発見することができなかった。そんなわけで、ムラブリはいつしか「黄色い葉の精霊(お化け)」と呼ばれるようになった。

だがそんなムラブリも、1980年代から始まる「開発」で、大きな変化を経験している。森ではなく村で暮らすようになり、狩猟採集ではなく農作業で生計を立てるようになった。新しい世代も生まれ、彼らを取り巻く環境は目まぐるしいほどに変化している。そんな彼らがどのように暮らしているのか、次回からは少しずつ、彼らの「素顔」に迫っていきたい。

 

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