学生災害支援ボランティアの心得10か条はなぜできたのか
早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター 兵藤智佳(准教授)
早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)が学生災害支援ボランティアの心得10か条を作成した背景には、多くのボランティアたちのエピソードと学びがあります。
私は学生ボランティアと一緒に活動してきた教員として現地への貢献だけでなく、たくさんの失敗も経験しました。もちろん、失敗や傷つきはできるだけ避ける努力は必要ですし、この10か条もつくりました。しかし、もっと大切なのは「誰かのために何かをしたい」という一人ひとりの真剣な気持ちと行動であり、失敗したり、迷惑をかけたら相手に真摯に謝る勇気なのだと思います。
第9条エピソード 子供と力一杯遊ぶケンタ
週末を利用して避難所の支援ボランティアに来たケンタ。
ケンタ「今日は1日みんなと全力で遊ぶぞ~。思いっきり楽しい時間にしようね」
子ども「わーい!大学生のお兄さんが1日遊んでくれるなんてうれしい!」
母親「やれやれ、今夜も興奮して寝なくなっちゃうのかしら、お兄さんが帰ってしまった後は会いたいって泣き出すだろうし。でも一生懸命やってくれる気持ちはありがたいし、そんなに張り切らないでとはやはり言えないわ」
“第9条 子どもと遊ぶときなどは過度に喜ばせようとしない”
ボランティア活動では、相手の気持ちや事情への想像力が大切です。しかし、困っている誰かのためになりたい情熱や使命感が強いと目の前のできることしか見えなくなりがちになります。当事者には一人ひとりに、事情や置かれている立場があります。そして、助けてもらう立場の人は、自分たちのために働くボランティアには言えないこともあるのです。
第5条エピソード 避難所の運営をすすんでやったヒロミ
ボランティアとして避難所の運営支援を担当することになったヒロミ。
年配の被災者が配膳をしている。
ヒロミ「私にぜひそれやらせて下さい!」
被災者「あ、そうなの。やってくれてありがとうね」
少し寂しそうに避難所の自分の寝場所にもどっていく被災者。
被災者「お手伝いのボランティアはありがたいけど、私が今日、みんなのためにやれることがなくなってしまったわ」
“第5条 被災者が自分たちでやる仕事を取らない”
現場では自分ができる活動を探さなくてはなりません。一方で、実際の活動では「相手にとってどういう意味があるのか」を常に考える力が必要です。当事者や被災者は困っている人でもありますが、自ら立ち上がろうとする人でもあります。ボランティアがやるのは、「できることをやってあげる」だけではありません。「自らやろうとする人をどうしたら応援できるか」を考え、行動することです。
第6条エピソード 片付けで涙が止まらなくなったヤスコ
地震で被害を受けた家の片付けを担当することになったヤスコ。
家の持ち主「実は、妻が箪笥の下敷きになって死んでしまったんだ。妻を助けられなかったことが毎日辛くてしかたない、さぞ苦しかったろうに」
涙を流しながら嗚咽する男性。
ヤスコ「愛の妻を失ったこの男性の気持ちを思うと……」
涙が止まらなくなって仕事ができないヤスコ。
家の持ち主「君、そんなに泣いていて大丈夫かい?」
“第6条 涙が止まらなくなったら活動をやめる”
相手の喪失体験に伴う強い感情に触れる機会は、時として自分でも気づかないうちにボランティアにも心の傷をもたらします。相手の痛みや苦しみに共感するのは大切ですが受け止め切れない場合も多いのです。相手と自分の気持ちの区別がつかなくなったり自分の気持ちがコントロールできない事態も起こります。現場ではそのことを知った上での判断が重要であり、それは相手をさらに傷つけないためでもあります。
この10か条を守ろうとしてもボランティア活動では一生懸命なあまりに相手を傷つけてしまったり、自分が傷つくこともあります。人生経験の少ない若者であればなおさらです。そのことをわかっておきながら、もしあなたも傷ついたら、一人で抱えないで信頼する人に助けてもらってほしいです。自分の心を大切にすることは相手の心も大切にすることにつながっています。
ボランティア活動は「人が助け合って生きる」ための実践であるはずです。
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