【最終回】地域おこしの課題を考える
~体験的学習科目「狩猟と地域おこしボランティア」16~
伊藤 優一(国際教養学部4年)
丹波山村における「地域おこし」の課題として気づいたことは3点ある。
まず一点目に、地域おこしが非常に属人的であり、制度として整っていないことだ。今回授業でお世話になった方々は皆、地方自治体の公務員ではなく、丹波山に対してそれぞれの想いを持って、それぞれに丹波山に引っ越して地域おこしをしている人だった。登山中に害獣の被害を見て丹波山にきたサラリーマンや、狩猟に熱い想いを持って東京からやってきた学生など、それぞれが抱えている想いは十人十色であったが、丹波山村に対する想いはとても熱いものだった。
ただ、私はその方々にお会いして、丹波山村の「地域おこし」がとても偶発的に起こったような気がした。たまたま保坂さんが丹波山に入り、同じ想いを持っている人たちと協力しながらここまで丹波山の地域おこしを進めてきたが、果たして保坂さんがいらっしゃらなかったらこのような地域おこしは起きていたのだろうか。現地に行ってわかったことは、地域おこしにはその土地で生まれ育った人よりも、保坂さんのような外部から丹波山を客観的にみて丹波山の価値を見出し、それを外の世界と繋げる人が必要だということだ。これから丹波山村が発展し続けるには、保坂さんのような人が現れ続けることが必要で、それを可能にするためには、偶発的な人の繋がりではなく、政府や自治体としての仕組み作りが必要だ。この課題を乗り越えるためには、政府が地方自治体に投下している予算を、地域おこしに効率的に活用するための人材育成や、ボランティアではなく、社会性がありつつ儲かるビジネスとして地域おこしを発信するなどの努力が必要だろう。保坂さんのようなビジネスマインドを持った人が、効率的に予算運用できる体制を作ることが望ましい。
二点目の課題は、「地域おこし」にはその土地で生まれ育った人の協力が必要だが、案外それが難しいことだ。保坂さんが授業で仰っていて私が驚いたこととして、ジビエビジネスを始める上で、丹波山村とは別の村を訪れた時に、部外者としてあしらわれてしまったということだ。本来なら、保坂さんのような地域をより良くしたいと思っている方を、地方は心地よく受け入れるべきだと、東京で生まれ育った傍観者の私は簡単に思ってしまう。しかし、実際のところ、地域の人々にも彼らの価値観があり、そううまくことは進まないのが課題としてわかった。私が丹波山村に訪れた際にも、関わることができた村の人はハンターの方々のみで、村の人が地域おこしにどのように協力しているのか、本当に地域おこしを望んでいるのかが不明瞭なところがあった。
この課題を解決するために、地域おこしに立候補制度を一旦導入してみるといいと思う。地域おこしをしたい側が、どの地域が外部の人の力を必要としているのかわかることで、地域と外部からの人のミスマッチをなくすことができると考える。丹波山村の場合、たまたま保坂さんがいくつか村を回った結果として丹波山村に行き着いたが、最初から丹波山村が保坂さんのような人材を必要としていると発信していたら、もっと早くから地域おこしに取りかかれていたはずだ。

丹波山村の風景
三つ目に、地域おこしをしたいと思っている学生やボランティアを受け入れる体制や仕組みが整っていないことが課題だ。今回、空き家改修の作業に参加したが、作業工程に手探り感があり、地元の方が学生を上手くマネジメントできていないことに気がついた。と同時に、現地に行く私達学生もなんでもかんでも現地の人が知っている、準備してくれいているだろうと思い込み、旅行気分で行くのではなく、むしろ自分たちで空き家改修の手順を調べ、必要なものを確認してから現地に行くべきであった。この課題を乗り越えるためには、忙しい現地の人ではなく、現地にお邪魔させてもらう外部の人が、あらかじめ徹底的な準備をしていくことが求められる。また、今回の丹波山村の地域おこしの事例など、日本各地で行われている地域おこしの事例をまとめたサイトを作るのもよいだろう。そこから共通して見えてくる成功例や失敗例などをあらかじめ学んでおくことで、外部からのボランティアが、現地で円滑に業務遂行できるだろう。ただ、それぞれの地域によって予測不能なトラブルも必ず発生すると思うので、その時は安全第一で対応することが求められる。

空き家回収作業の後、疲れを取りに温泉へと向かう道
「狩猟と地域おこしボランティア」の連載は、今回で最終回となります。
皆さま、これまでお読みいただきありがとうございました。
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https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2021/10/22/6915/