2023年3月2日(木)、早稲田大学39号館第5会議室を会場として、ワークショップ「地域モデルとしての漢字文化圏人文学の未来の風景を創造する:研究コミュニティとプラットホーム構築にむけてSketching the Future Landscape of East Asian Humanities in Comparative and Global Context: A Platform & Community Building Workshop」が開催された。本ワークショップは、MITにおいてグローバルな比較人文学プロジェクトを実現するために構想されたイニシアティブ(Comparative Global Humanities initiative (MIT))のもと、世界の地域ごとに、古代から現代までを橋渡しする共同研究を行うグループの結成が進められており、その中の「東アジアグループ」を新たに結成することを期して開催されたものである。より具体的には、「The Lives and Deaths of Literary Cultures」をテーマとして、「地域モデルとしての漢字文化圏人文学の未来の風景を創造する」ことを目指し、東アジア古典研究に関わる研究コミュニティとプラットホーム構築にむけて、発表者と参加者が問題意識を出し合い、集中したディスカッションが繰り広げられた。
ワークショップでは、冒頭に、MITのWiebke Denecke教授から、MITのイニシアティブについての紹介がなされた。人文学の危機といわれる現在にあって、人文学は何のために、何を、どのようにしてなされていくべきか、との問いかけとともに、人類全ての経験と記録、記憶から、新しい知を生みだしていくべきこと、また、ビジョン主導、問題解決型の新たな世代の人文学センターの創出が目指されるべきことなど、イニシアティブの理念が示された。そしてワークショップを通じて、今後、漢字文化圏からどのような取り組みが具体的に可能であるか、アイディアを出し合い、共同研究のためのチーム作りにつなげたいという、ワークショップの目標が語られた。
それを受けてワークショップは、1.参加者それぞれの現在のイニシアティブ、現在の活動の特徴や課題について、2.将来の「地域モデルとしての漢字文化圏の人文学の創成」に対してどのような貢献が可能か。実現したいプラン、アイディア、方法、課題について、3.The Lives and Deaths of Literary Culturesのプランに対する意見、提案。今後の具体的活動について、という3つの課題に対して、発表者がそれぞれPPTを用いた5分ずつの発表を行い、ディスカッションを重ねるという形で進行した。
発表者は、Wiebke Denecke氏(MIT)、沈慶昊氏、楊沅錫氏、魯耀翰氏(以上高麗大学校)、山藤夏郎氏(政治大学)、Michael Watson氏(明治学院大学)、緑川眞知子氏(早稲田大学非常勤講師)、山本嘉孝氏(国文学研究資料館)、陣野英則氏、田中史生氏、山本聡美氏、河野貴美子(以上早稲田大学)の計12名であった。ディスカッションにおいては、参加者とともに、漢字文化圏、あるいは東アジアという概念を批判的に検証しながらいかなる枠組みを立ち上げていくべきか、そして、未来の平和な世界を創造していくためにも、正負両面から過去を見据え、未来へと繋ぐことが必要であるなど、新たな人文学を構築していくための目標や理想について、それぞれの専門領域や地域を超えた活発かつ実質的な議論が展開された。
なお本ワークショップは早稲田大学総合研究機構日本古典籍研究所、スーパーグローバル大学創成支援事業早稲田大学国際日本学拠点の主催、MIT School of Humanities, Arts, and Social Sciences(マサチューセッツ工科大学社会科学芸術人文学部)、早稲田大学総合人文科学研究センター角田柳作記念国際日本学研究所、科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)(基盤研究(C)20K00303)の共催により開催された。
(文責:河野貴美子)
参加者感想
本日のワークショップではまず世界中の人文環境に着眼点を置き、「漢字文化圏人文学」「漢籍古典」がこの時代においてどんな意味を持つか、「反古典論」の観点と併せて考えさせられ、自分がしてきた学習や研究をも改めて見直すきっかけになりました。また、「漢字文化圏の人文学」をめぐって、先生方がそれぞれ研究趣向と併せて具体的な企画や提案を提出し、または実施の可能性を討論してくださり、今の自分にはまだ関わりの少ない話もあるものの、現状を把握することができ、またはこれからの自分にできる・してみたいことがよりはっきり見えるようになり、ありがたくも沢山の刺激を受けました。 (シュ イチバク)
本ワークショップを通して、「漢字文化」に関する異なる領域からの学者の取り組みを知ることができ、大変刺激的でした。発表を聞くにつれ、「漢文に正解はあるのだろうか」という疑問が生まれました。漢文の教育を中国で受け、中国から見た周縁諸国の漢文作品を「下手」と切り捨てしまうという断絶を体感してきました。しかし漢字が東アジアに共有される財産であって、文化である以上、そのような断絶を打破して、「漢字文化圏」ないし「東アジア」の定義を再考する必要があると思えました。(馮辰鋮)
イベント概要
- 日時:2023年3月2日(木)10:00~ 17 :00 (JST)
- 会場:早稲田大学 戸山キャンパス39号館5階 第5会議室
- 言語:日本語
- 参加:学生、教員、一般
- 参加費:無料
- 主催:早稲田大学総合研究機構日本古典籍研究所、 スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点
共催:MIT School of Humanities, Arts, and Social Sciences (マサチューセッツ工科大学 社会科学芸術人文学部/早稲田大学総合人文科学研究センター角田柳作記念国際日本学研究所/科学研究費助成事業 (学術研究助成金)(基盤研究(C) 20K00303)