スーパーグローバル大学創成支援実証政治経済学拠点は、2023年1月に中央ヨーロッパ大学(CEU)のLevente Littvay教授をお迎えし、「Advanced Quantitative Methods in Social Sciences」と題してワークショップシリーズを開催しました。Levente Littvay教授は、世論調査データの分析を通じ、ポピュリズムや陰謀論などを研究対象とした論文を数多く出版されている方です。これらの分野に限らず、Levente Littvay教授は、社会科学における方法論の発展にも大きな貢献をされてきました。その中でも方法論教育にもご尽力しており、European Consortium for Political Research (ECPR) Methods SchoolsのAcademic Convenors (2015-2021)を務めた他、MethodsNETを設立するなど、国際的に活躍されています。同教授による今回のワークショップシリーズは、参加者にとって社会科学で必要とされるデータ分析の力を大いに涵養できる充実したプログラムとなりました。

左:政治経済学術院 日野愛郎教授 右:Levente Littvay教授
さらにLevente Littvay教授は、「Conspiracy Beliefs, Politics, and the COVID-19 Pandemic」と題した特別セミナーにおいて、コロナ禍の欧州社会調査とそ以前に収集したデータを分析した陰謀論的思考とポピュリスト的態度や暴力との関連について発表しました。著名なLevente Littvay教授の最新研究に直接触れることのできる貴重な機会となり、多くの学生が真剣に耳を傾けていました。以下はセミナーの様子です。
ワークショップとセミナーに参加した学生のコメント
政治学研究科修士課程1年 貫井 光
今回参加した Littvay先生の「Advanced Quantitative Methods in Social Sciences」は、「Advanced Regression」「Multilevel Modeling」「Structural Equation Modeling」の3つのコースに分けられ、それぞれの内容について2日間、合計6日間で学ぶという充実したワークショップでした。
最初の2日間は、回帰分析に関するコースでした(「Advanced Regression」)。このコースでは、回帰分析について復習を行い、その後、ロジットモデルや多項ロジットモデルなどを学びました。Littvay先生は、回帰分析の仮定などの基本的な内容についても、一つずつ丁寧に説明してくださったため、回帰分析の理解に不安がある方でもわかりやすい内容になっていたと同時に、既習者にとっても良い復習になったのではないかと思います。
3日目〜4日目は、マルチレベルモデルについて学びました(「Multilevel Modeling」)。社会科学で扱うデータは、個人がグループごとにネストしており、階層性を有することが多々あります。このコースでは、このような階層性のあるデータを扱う場合、どのようにモデルを組むべきかを検討しました。コースの前半部分では、2レベルの線形モデル・非線形モデルについて詳細に説明が加えられ、その後、3レベル以上のモデルや個人が複数のグループにネストしている場合などの発展的な内容まで学ぶことができました。そのため、本コースを通じ、基本的なマルチレベルモデルの考え方はもちろん、今後の応用可能性についても考察することができ、非常に示唆的な内容だったと思います。
社会科学では、リサーチクエスチョンが、多くの共変量を含む場合があります。最後の2日間では、このような共変量を考慮した上でモデルを組む方法、構造方程式モデリングについて学びました(「Structural Equation Modeling」)。講義の前半部分では、SEMの考え方、モデルを組む際の注意点、パス図によるモデルの表現方法などを扱いました。その後、それをRのパッケージ、” lavaan”を用いて、どのように実践するかをレビューする内容でした。「Multilevel Modeling」のコースと同様、本コースを通じ、SEMの基本的な理解を学べたことは、今後マルチレベルSEMや因果推論などの発展的な内容を学習するモチベーションとなり、非常に有意義なコースとなりました。
各コースの講義は、前半部分で理論的な説明が加えられ、後半部分で事前に配布されたRのコードをレビューする形で進められました。Littvay先生は、常に参加者からの疑問やコメントに回答してくださり、活発な議論が行われるワークショップになりました。また講義では、Littvay先生が方法論に限らず、研究一般に関する実践的な助言も散りばめてくださったため、多くの参加者にとって、今後の研究を進める上で学びの多いワークショップとなったと思います。
現在、私は政党や候補者の感情的アピールが有権者の投票行動に与える影響を研究しています。この研究では、階層性のあるデータを扱っているため、特に「Multilevel Modeling」の内容は、より精緻な分析を行うために非常に有用なものでした。今後、今回のワークショップを通じて学んだ内容を基に、さらに研究や勉強を進めていきたいと思います。
また、Littvay先生の滞在最終日に開催された「Conspiracy Beliefs, Politics, and the COVID-19 Pandemic」では、各国における有権者の陰謀論支持についての研究発表が行われました。国ごとに有権者の陰謀論に対する支持が異なるという傾向を指摘されていた点が、特に印象的でした。今後、詳細な分析を行うということでしたので、さらにどのようなことが明らかになるのか非常に興味深く感じられました。
本ワークショップとセミナーの英文報告(Student’s report on the workshop series and seminar by Peter Chai)はこちら