社会科学に関する世界最大の調査データアーカイブを保有するICPSR (Inter-university Consortium for Political and Social Research) は、本部のあるミシガン大学で1960年代から統計・データ分析のサマープログラムを実施しています。今年度のICPSRサマープログラムはアナーバーキャンパスでの対面授業とZoom中継によるハイブリッド開催となり、40以上のコースについて4週間にわたる集中講義が行われました。SGU実証政治経済学拠点では、例年このサマープログラムに参加する大学院生に受講料の補助を行っています。今年は政治学研究科と経済学研究科から2名の大学院生がこの長丁場のプログラムに挑みました。
王 宇鵬 (WANG, Yupeng)
所属:経済学研究科 博士課程3年
研究テーマ:食料・農業経済学
派遣先・期間:アメリカ・ミシガン大学(2022/6/20-7/15)
ミシガン大学は世界の名門大学(QS2022ランク:23位)の一つで、社会科学分野、特に政治経済学はエースのエースと言っても過言ではありません。今回私が参加したプログラムは、Inter-university Consortium for Political and Social Research (ICPSR) プログラムと呼ばれ、社会科学の研究コミュニティにデータアクセス、キュレーション、分析方法に関するリーダーシップとトレーニングを提供するプログラムです。ICPSRは、社会科学・行動科学分野の研究に関する25万件以上のメガデータベースを所有し、教育、高齢化、刑事司法、薬物乱用、テロリズムなど21種テーマの専門的データコレクションを提供しています。また、研究デザイン、統計手法、データ分析、社会方法論など短期集中講義を行い、幅広いカリキュラムを開設しています。私がICPSRプログラムに参加した目的の一つは、この集中講義を通して実証研究のスキルを向上させることであり、二つ目はアメリカの現地のキャンパスライフを体験することです。

キャンパスの風景
コロナ禍での渡航

入国審査
航空券の予約と海外渡航保険はすでに大学側から手配頂きましたので、こちらの渡航準備は主に英語のウォーミングアップでした。私の出身国はアメリカのビザ免除対象国ではありませんが、今回のプログラムの渡航は6年前に申請したアメリカのビジネス・観光マルチプルビザ(B1/B2)でも認められました。また、プログラムの開始日一週間前にアメリカの入国PCR陰性証明書の提出義務も中止され、ワクチン接種証明書の提出のみで大変スムーズにアメリカに入国できました。

オリエンテーションの様子
アメリカでは、マスク着用の要請が殆どなく、入国審査官から大学授業の関係者まで、マスクを着用する人は少なく、日本とはかなり違うイメージでした。マスクすると病人の象徴とみられ、郷に入っては郷に従うべきですが、私はアメリカ滞在の間に授業の間にマスクを外したことはありませんでした。
授業の様子
私はプログラム期間中、「Advanced Empirical Modeling of Social Science Theory(上級社会科学実証モデリング理論)」と「Machine Learning: Applications in Social Science Research(機械学習:社会科学研究応用)」の2コマの講義を受講しました。講義は基本的に対面で行われましたが、教室にはリアルタイムの録画設備があり、zoomでオンライン受講も可能です。
講義のAdvanced Empirical Modeling of Social Science Theoryは、ミシガン大学政治経済学部教授で副学部長のRobert J. Franzese先生が担当した、今回のプログラムの最上級レベルの講義です。授業の内容は実証分析の理論と数学原理の解明で、授業ディスカッションは殆どありませんでしたが、受講生は授業の間にいつも積極的に質問していました。
授業は現代の社会科学理論を特徴づけるcausal heterogeneity(因果的異質性)、context-conditionality(コンテキストの条件性)、over-time and cross-unit dynamics (オーバータイムとクロスユニット)、 (inter-)dependence((相互)依存性)そしてthe ubiquitous endogeneity (causal simultaneity) (遍在内生性(因果的同時性))に関わる実証モデルの仕様、推定、解釈、そしてプレゼンテーションに関する講義です。毎週、(1)パラメータ不均一性、相互作用効果、コンテキストの条件性;(2)時間的・空間的なダイナミクスと相互依存性、(3)現代の政治・社会科学にある共同内生性などいずれも一つのトピックに注目して講義を行いました。また、多くの読み物、ラボセッションと課題も沢山あります。経済学専攻の私には、実証分析は上手くできましたが、政策背景や分析結果を解釈する際に、政治学の知識がかなり不十分であるため、休日の時にも、図書館で政治学の関連リーディングをよくしていました。このコースは、私の長い学生生活の中で最もチャレンジングなコースの一つであったと思います。
現地での生活

図書館の様子
ミシガン大学が位置するアナーバー市は、とても美しく、閑静な都市です。アナーバーの犯罪率はアメリカの全国平均に比べてかなり低く、治安の問題についてはあまり心配しなくても構いません。自分のアナーバーでの生活のキーワードは、「シンプル」と「充実」の二つと言えます。講義に付随した実験とリーディングがかなり多く、授業以外の時間はほとんど図書館で過ごしました。平日は、朝8時にコーヒーショップで朝食をとり、図書館でリーディングと予習をしました。午後1時から5時まで教室で受講、講義が終わるとまた図書館に戻って復習、課題、ラボセッションを済ませました。日曜日にはよく現地の友達に連れられ、車で博物館やミシガンの自然公園を訪れ、その周辺の特色ある料理を食べに行きました。

アナーバーの街の様子
今後の展望
私はこのプログラムで沢山の有益な理論知識と実証研究方法を修得し、世界各国から参加した大学院生とよく交流できました。これからはこの経験を活かして、現在の研究手法を改善し、より有意義な研究成果を得られるように努力していきたいと思います。