実証政治経済学拠点ではスーパーグローバル大学創成支援事業の一環として、CEFM(金融市場実験研究センター)と協働で大学院博士課程の学生を海外の有力大学に派遣し、現地研究者と交流を深めながら研究に専念する機会を提供するためのプログラムを実施しています。この派遣により、研究者間の交流や共同研究のスタート、大学院教育の連携強化などの成果が期待されています。今年度の派遣学生としてエコール・ポリテクニック(フランス)で2か月間の研究活動を終えて帰国された村上勇気さんの報告をお届けします。
経済学研究科博士課程1年 村上 勇気
スーパーグローバル大学創成支援事業と CEFM(金融市場実験研究センター)の支援によって 9 月 22 日から12 月 15日まで、フランス・エコールポリテクニックに滞在する機会を頂きました。
参加動機
研究指導と、共同研究の加速のため、パリに滞在する機会をうかがっていたところ、CEFMにおいて 派遣プログラム が提供されていることを知りました。また、指導教官である早稲田大学の濱野正樹教授がサバティカルでパリに滞在していらっしゃることもあり参加を決めました。これまで海外経験がなく、海外の研究者との交流もあまりなかったため、良い機会だと思い参加しました。
渡航までの準備
アパートの水道・ガス・電気の一時休止や不動産会社への届け出など、3 か月不在にするのに必要な手続きを行いました。スーツケースを購入し、クレジットカードと国際運転免許証を作成しました。
研究の様子
Center for Research in Economics and Statistics (CREST)の共同研究室に席を確保して頂きました。平日はキャンパスで研究を行っていました。大学や学生の雰囲気を知りたかったので、研究室にこもるのは避け、図書館や共有スペースでも研究していました。週末はパリ市内のSainte-Geneviève 図書館や、フランス国立図書館 Richelieu 館で研究していました。
- Office
- Bibliothèque Sainte-Geneviève
滞在中は、濱野教授の研究指導を受けつつ、共著論文”Optimal Government Spending in a Collateral-Constrained Small Open Economy” の分析を進めました。この論文では、担保制約に直面する小国開放経済における政府支出の役割について、議論しています。滞在中に必要な分析が完了し、原稿を 5 割ほど書きあげました。この論文の作成において 、エコールポ リテクニックの Jean-Baptiste Michau 教授、 Olivier Loisel 教授と議論する機会を頂き、有益なアドバイスを頂きました。
Michau 教授からは、担保制約や政府支出の定式化といったモデルの細部のみならず、プレゼンの際の図の見せ方や学術誌での出版に向けて行うべき追加の分析について、有益なコメントを頂きました 。特に、リサーチクエスチョンに対して必要最小限なシンプルなモデルを用いて議論を行うこと自体は良いが、それを意識するあまり議論が特定の環境に依存しすぎているように感じる、一般性とのバランスも考慮したほうが良い、とのコメントはこれから研究を行っていく上で心がけていこうと思いました。
Loisel 教授とは、特に分析結果の頑健性について議論しました。結果が成り立たなくなったり、異なる結果になったりする可能性があるケースを指摘して頂き、その部分において 頑健性のチェックを行った方が良いとのアドバイスを頂きました。
両教授との議論は論文の質を高めるのに非常に有益でした。その他、毎週行われるセミナーに出席し、第一線の研究者の、学術誌での出版前の研究に触れ、多くを学ぶことができました。
現地での生活
現地での住居は B 線の Palaiseau-Villebon 駅近くに Airbnb で手配しました。Chambre という形態で、大家の家の 2 階にベッドと簡単な机がある寝室があり、キッチン、洗面所、シャワー室等は共有でした。大家や Airbnb の他の滞在者と一緒の生活でしたので、 文化の異なる 人々の生活を垣間見ることができ、良かったです。キャンパスまでは徒歩で片道 30 分ほどでした ので良い運動になりました。週末はパリ市内を散策しました。パリの街並みは新鮮で、歩くだけでも十分楽し いです。レストランでの食事はかなりの出費となるのでなかなかできませんでしたが、ケバブは比較的安価でボリュームもあるため、よく食べていました。
- Roasted chicken
- Gyro sandwich
帰国して
初めての海外での長期滞在でしたが、特にストレスもなく、新鮮で刺激的な日々を送りました。現地の研究者や大学院生と交流し、学術的なことのみならず様々なことを学びました。派遣を 受け入れて頂いた郡山幸雄教授、 CEFM コーディネーターの 船木由喜彦教授、同時 期に CREST に滞在されていた石川竜一郎教授、また指導教官の濱野教授には大変お世話になりました。
今後の展望
滞在中に進めた論文”Optimal Government Spending in a Collateral-Constrained Small Open Economy” について、学会発表を行っていく予定です。また滞在中に濱野教授との別の共同研究を開始しましたので、研究を加速させる ため再度パリに滞在する 機会を伺いたいと思います。