社会科学に関する世界最大の研究データのアーカイブを所有するICPSR(政治・社会研究のための大学間コンソーシアム)は、毎年、本部のあるミシガン大学で「社会調査の定量的方法」のサマープログラムを開催しています。1960年代から続いているICPSRサマー・プログラムは、ミシガン州アナーバーで開催され、40以上のコースについて3週間の集中講義が行われました。
実証政治経済学拠点では、このサマープログラムに参加する大学院生に受講料の補助を行っています。今年は、政治学研究科と経済学研究科の3名の大学院生がこのプログラムに挑みました。以下はその一人の学生の体験レポートです。
胡 恬歌 (Hu,Tiange)
所属:経済学研究科 修士課程2年
研究テーマ:農業経済学
派遣先・期間: アメリカ・ミシガン大学(2023年7月15日-8月6日)
はじめに
ミシガン大学には、社会科学に関する研究を担当する ICPSR という組織があります。ICPSR のサマープログラムは、世界的に注目される社会科学の研究方法や統計分析を学ぶ短期プログラムです。このプログラムには、世界中から学生や教師、研究者、その他の専門家が集まり、研究能力の向上や新しい手法の学び、さらには研究の経験を共有するために参加します。これまでのプログラムは 4 週間でしたが、今年は初めて 3 週間のプログラムとなっています。私は、その中のセクション2に参加しました。

ICPSR本部にある看板
渡航
大学側が航空券と海外保険の手配をしてくれたおかげで、私が自分で準備する必要があったのはアメリカのビザのみでした。アメリカは既に入国時のワクチン証明を要求しなくなっていたので、手続きが楽でした。私の国はアメリカのビザ免除国ではないため、B1/B2 ビザの取得が必要でした。アメリカ大使館のウェブサイトには詳しいビザ申請の手順が記載されており、そのおかげで申請フォームの記入や面接の予約もスムーズに行えました。面接から 1 週間後には、無事にビザを受け取ることができました。ミシガン大学からはICPSR プログラムへの参加のための招待状をもらっていて、アメリカ入国の際にこれを提示しただけで、問題なく入国を許可されました。
授業の様子
ICPSR プログラムは、さまざまなテーマの授業を展開しています。初心者から上級者向けの内容まで幅広く取り扱っており、統計学や回帰分析、時系列分析、ベイズ統計といったトピックも含まれています。各授業の講師は、その分野での実績があり、高い評価を受けている専門家ばかりです。
ICPSR には「course」と「lecture」という 2 つの形態の授業があります。受講者は、「course」は 4 つまで、「lecture」は全てを選ぶことができます。私自身も、いくつかの「course」と「lecture」を受講しました。
Course: Statistics and Data Analysis II The Basics of Regression
Lecture:
Introduction to Python
Introduction to the LaTeX Processing System Introduction to the R Statistical Computing Environment
Introductory Matrix Algebra, Calculus, and Probability Review
Introduction to Computing for Data Analysis
私の日常の研究では、主にデータの収集や stata を使ったデータ分析が中心です。そのため、R 言語や Python などの他のデータ分析ツールについても学びたいと常に思っていました。ICPSR は、今の主流となっているデータ分析ソフトウェアに関する講義を幅広く提供しており、これが大変役立ちました。講義では、理論だけでなく実際のデータを用いた実践的な演習も行い、その結果、各ツールの使い方についての理解が深まりました。経済学を学ぶ上で、数学は欠かせないと強く感じ、私は数学の授業も受講することに決めました。その中で「Introductory Matrix Algebra, Calculus, and Probability Review」という授業は、ブエナビスタ大学の Timothy McDaniel 先生が担当していました。McDaniel 先生はとても元気でユーモアがある方です。ある日、「今、ハイテクな教室での授業だから、ハイテクなポインタを使うぞ」と言いました。みんながどんな先進的なものを出すのかと期待していると、McDaniel 先生は色とりどりのクリップを取り出し、それを真っ直ぐにして「これが私のハイテクなポインタだ」と冗談を言って、クラス中が爆笑しました。McDaniel 先生は、複雑な数学の公式をわかりやすくするために、時々ジョークを言ったり、面白い絵を描いたりします。その結果、私のように数学が得意でない人も、楽しみながら数学を学ぶことができ、以前は難しく感じた公式も理解することができました。

ハイテクな教室
現地での生活
ICPSR のプログラムは夏休みに開催されるので、ミシガン大学の多くの留学生は帰国し、アパートを安くサブレットすることが一般的です。そこで、SNS でアパートをサブレットしたい留学生と連絡をとり、契約を交わしました。3 週間、彼女のアパートで過ごすこととなり、家具や日常用品が充実していたため、非常に便利でした。特に調理器具や調味料もそろっていたので、毎日の食事は自炊で済ませることができました。週末はバスで大型スーパーに食材を買いに出かけ、日常の食事はアパートで楽しむことができました。

私が住んでいたマンションとウサギちゃん
ミシガン大学のあるアナーバーは、歴史感があって、静かで綺麗な街で、アメリカで最も住みやすい都市の一つとして評価されています。また、たくさんの植物や小動物が見られます。私は小動物が大好きで、アナーバーの街を歩きながら、様々な小動物を探すのが楽しみでした。リスやウサギ、さらにはスカンクを見ることができました。そして、夕方 9 時ごろ、夕日が沈み始めると、ホタルが芝生で舞い上がる様子が見えたことがあり、それはまるで童話の世界にいるような気分にさせられました。

リスちゃん
アナーバーも文化と芸術が根付いている街です。ミシガン大学には博物館や美術館があり、そこではヴァン・ゴッホやピカソの作品はもちろん、驚くべきことに本物のミイラも展示されています。私が滞在していた期間には、年に一度のアートフェアが開催されました。このイベントのために、中心部のいくつかの道路は歩行者天国となり、全国から集まったアーティストが自らの作品を展示や販売していました。普段静かなアナーバーも、この時期は賑やかになりました。

アナーバー アートフェア
今後の展望
ICPSR では、授業だけでなく、さまざまな交流の場も用意されています。たとえば、毎週火曜日には本部でピザランチが開催され、参加者たちが集まっておしゃべりや R 言語の学習をしながら食事を楽しむ時間があります。さらに、水曜日にはドーナツを楽しむことができます。特に第 2 週の週末には近くの公園でのピクニックが計画されており、美味しいタコスや楽しいアウトドアゲームで大いに盛り上がりました。
この 3 週間は、多くの新しい知識を得るだけでなく、素晴らしい教授や研究者との出会いがあり、世界中から来た新しい友達とも親しくなりました。これからの研究活動で、今回学んだ方法をしっかりと活かし、更なる研究の進展を目指します。最後には、先生たちとサポートしてくれた全ての方々に、改めて感謝の気持ちを伝えたいと思います。

大学の様子