2017年8月3日、SGU国際日本学拠点では、早稲田大学戸山キャンパスにて、詩人・伊藤比呂美氏によるイベントを開催しました。
第1部のテーマは「アメリカと私、『日系』人としての私」。伊藤氏は40代の頃アメリカに移って以来カルフォルニア在住ですが、当時、未婚のまま子供を連れてアメリカに渡るということは、「まるで貝が剝き身のまま太平洋を泳ぎ渡るようなものだった」と、移住の苦労や日系人の悲哀を語りました。
途中、英語・日本語両バージョンによる詩の朗読を挟み、第2部は人生相談の達人でもある伊藤氏が参加者から集められた相談に即興で答えていく「人生相談ライブ!万事OK」のコーナー。思春期や就職活動にまつわる学生の相談から、娘を育てることの難しさといった親目線の相談のほか、理不尽な職場からの逃げ方、父の新しい恋人との距離感、親の遺物の処理方法など、幅広い年代からのありとあらゆる悩みに対して、温かくユーモアを交えながら、また時折自身のエピソードを紹介しながら回答していました。
「母を孤独死させてしまったからか、死ぬのが怖いです」という相談には、「孤独死というものは気にする方がおかしい。メディアに操作されているだけ」と、孤独死をネガティブなものとして取り上げる現在の風潮を一蹴。さらに、死ぬことへの恐怖を乗り越えるには死ぬという生理現象をよく知ることが大事だと続けました。
「死についてもっともっともっと考えること。死とは何か、どうやって死ぬのか、どうやって生体は死んでいくのか、なんで我々はこれが嫌なのか。そして、人間は今まで、どんな文学作品あるいは哲学で死について考えてきたのか、こういうのを調べるんです。」
死への恐怖から生まれたものが宗教なのではないか、と考える伊藤氏は、お経の翻訳も行っており、質疑応答のあとには般若心経の新訳の朗読も披露されました。般若心経の「ト書き」が読み上げられると、笑いに包まれていたそれまでの会場の雰囲気は一転、緊張感が広がり、まるで演劇を観ているようなダイナミックな余韻を残したまま、イベントは終了しました。