基幹理工学部数学科数学応用数理専攻 博士2年 武内 太貴
1.滞在地
Paderborn大学およびHannover大学 (ドイツ)
- ハノーファー大学
- パーダーボルン大学
2.渡航期間
2023年1月30日から2023年3月15日 (44日間)
3.目的
Michael Winkler教授およびその研究グループを訪問し、走化性方程式系の数学解析に関しての知見を深め、また共同研究などの機会を得ること。
国際研究集会 “The 6th International Workshop on Mathematical Analysis of Chemotaxis (iWMAC6)” に講演者として参加し、自身の研究成果を発表すること。
(URL: https://www.ifam.uni-hannover.de/en/iwmac6)
4.受入教員
Michael Winkler教授 (Paderborn 大学)
5.研究活動
まず初めに、国際研究集会 “iWMAC6” に講演者として参加し、次の講演を行いました。
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また滞在中では、非線形境界条件を持つKeller-Segel-Navier-Stokes方程式系についての研究を行いました。より詳しくは、通常のKeller-Segel-Navier-Stokes方程式系においては未知関数である細胞密度 n と化学物質濃度 c はNeumann境界条件 ∇n∙ν=∇c∙ν=0 を満たしています。一方で、最近ではXueとOthmer (SIAM J. Appl. Math. 70 (2009), no. 1, 133—167) の研究によって新たな数理モデルが提唱されています。このモデルでは細胞密度 n の満たす境界条件 ∇n∙ν=nS∇c∙ν に非線形項が含まれており、これが以前のモデルとは大きく異なる点となっています。この新たなモデルに対して、今回の訪問先であるWinkler教授は関数方程式論の観点から数学解析を行われ、いくつかの研究成果 (J. Evol. Equ. 18 (2018), no. 3, 1267—1289 and Int. Math. Res. Not. IMRN (2021), no. 11, 8106—8152) を発表されてきました。一方で、今回私は最大正則性理論に基づいた時間大域解の一意存在定理を示しました。この結果における重要な点は非線形境界条件 ∇n∙ν=nS∇c∙ν をどのように処理するかということですが、私の手法はこれまでの結果とは異なり、カットオフ関数などを用いた近似方程式系を経由せずに直接解を構成できる点が特徴となっています。
最後に、上記の結果を得たことにより、Winkler教授の研究グループに所属する若手研究者のFrederic Heihoff氏と共同研究をする機会をいただくことができました。本共同研究での目的は、対応する方程式系の新たなblow-up criterionを得ることです。私の結果から解はBesov空間の枠組みで構成できることが分かっているため、対応するblow-up criterionもBesov空間の枠組みで証明できるのではないかと期待しています。なお本研究は現在進行中の課題ですので、帰国後も考察を続けていこうと思っています。
- “iWMAC6”で
- Prof. Michael Winkler と
6.コメント
まず初めに、今回の研究訪問を受け入れてくださったMichael Winkler教授に大変感謝申し上げます。同教授と直接お会いして数学的な議論を交わすことができたことは、私にとって大変光栄なことです。また直接議論ができた結果として、Paderborn大学の若手研究者の方と共同研究をする機会を得ることができました。さらにPaderborn滞在中では、若手研究者の方が手厚くサポートしてくださり、大学での事務手続きやドイツでの基本的な生活周りのことなど、様々な点で親切にしていただきました。そのおかげで、Paderbornでの滞在生活を最後まで楽しむことができました。
Hannoverで開催された国際研究集会 “iWMAC6” につきまして、この場を借りて主催者のJohannes Lankeit氏、石田祥子先生、水上雅昭先生、Mario Fuest氏にお礼申し上げます。今回の研究集会へのご招待のおかげで、初めて海外で主催された国際研究集会で講演をするという経験ができました。研究集会中では、ドイツの研究者に限らず、オーストリア、中国、イタリア、韓国、ポーランド、イギリスといった様々な海外の研究者と交流をすることができました。また、もちろんHannoverのディナーではたくさんのドイツ料理を楽しむことができ、研究に限らず様々な面で素晴らしい体験をすることができました。
最後になりますが、このようなPaderbornと Hannoverへ研究留学をするという機会を得られたことにつきまして、そのご提案をしていただいた小薗英雄先生および資金援助をしていただいた本プロジェクト、早稲田大学SGU数物系科学拠点に厚くお礼申し上げます。また渡航に係る事務手続きに関しましては、事務の石崎由香利様に手厚くサポートをしていただきました。この場を借りてお礼申し上げます。