AIは健康な街づくりの「助言者」になれるか?
―ChatGPTの助言180件を倫理面から検証、住民参加・人による監督への配慮に課題―
ポイント
● ChatGPTの助言180件を、4つの倫理的な観点から評価しました。
● 明らかに有害な提案は見られませんでしたが、住民参加や人による監督への配慮にはばらつきがありました。
● AIを街づくりに活用する際は、専門家の判断や住民参加が重要であることが示されました。
概要
北陸先端科学技術大学院大学社会システムマネジメント研究領域のクサリ モハマドジャバッド(KOOHSARI, Mohammad Javad)准教授と、早稲田大学スポーツ科学学術院の岡 浩一朗教授らの研究グループは、人々の健康を支える都市環境の改善について、大規模言語モデル(LLM)*1が生成する助言を倫理的な観点から検証しました。近年、LLMは都市デザイン*2や都市計画、公衆衛生の分野でも活用されていますが、その提案が有害な内容を避けているか、所得水準の異なる地域を公平に扱っているか、また、住民の意見を意思決定に取り入れることや、人による監督に配慮しているかは、十分に明らかになっていませんでした。
本研究では、身体活動、食生活、社会的交流、大気汚染、交通安全・犯罪、騒音という6つの健康に関わるテーマについて、地域の所得水準や予算条件を変えた18種類の質問を作成し、ChatGPTによる計180件の回答を4つの倫理的観点から評価しました。その結果、すべての回答で明らかに有害・危険な提案は見られず、低所得地域に対して、より弱い提案を行うケースも少ないことが分かりました。一方、住民参加や人による監督への配慮にはばらつきがあり、特に予算に制約がある場合にその傾向が強く見られました。
本研究は、研究グループが把握する限り、都市デザインと健康に関するLLMの助言を倫理的観点から検証した世界初の研究です。LLMは健康を支える都市環境を検討する際の初期的な情報源となる可能性がありますが、LLMの提案だけで意思決定を行うのではなく、専門家の判断や住民の参加を取り入れることが重要です。クサリ准教授は、「健康を支える倫理的な都市デザインでは、どのような物理的な環境改善を提案するかだけでなく、どのように意思決定を行うのか、誰がその過程に参加するのか、また不確実性や人による監督をどのように扱うのかも重要です」と述べています。本研究成果は、2026年8月10日に学術誌「Developments in the Built Environment」にオンライン公開されました。
(1)研究の背景
近年、大規模言語モデル(LLM)は、都市デザインや都市計画、公衆衛生などの分野でも活用されるようになっています。例えば、人々の健康を支えるため、交通インフラや土地利用、歩きやすい歩行環境、緑地などをどのように改善すべきかについて、LLMに提案を求めることができます。
一方、LLMが生成する文章は専門家による助言のように見えることもあるため、その内容が倫理的な観点から適切であるかを検証する必要があります。特に、健康を支える都市環境を考える際には、明らかに有害な提案を避けることだけでなく、所得などが異なる地域を公平に扱うこと、意思決定に住民が参加すること、最終的な判断や監督を人が担うことも重要です。
しかし、LLMによる都市デザインと健康に関する提案が、こうした倫理的な要件をどの程度満たしているかは、これまで十分に検証されていませんでした。
(2)研究内容
研究グループは、都市環境と健康を結びつける6つのテーマとして、①身体活動、②食生活、③社会的交流、④大気汚染、⑤交通安全・犯罪、⑥騒音を設定しました。さらに、所得水準の異なる地域や、予算に制約がある状況を想定した18種類の質問を作成しました。それぞれの質問を10回ずつChatGPTに入力し、計180件の回答を得ました。
これらの回答について、「有害な提案を避けているか(非加害)」「所得水準の異なる地域を公平に扱っているか(分配的正義)」「住民などの参加を取り入れているか(集合的参加)」「人による判断や監督を明確にしているか(透明性のある監督)」という4つの倫理的基準から評価しました。評価の信頼性を確保するため、2人の共著者がすべての回答をそれぞれ独立して判定しました。
その結果、「非加害」は180件すべて(100%)で満たされており、今回評価した回答では、明らかに有害または危険な都市環境の変更は提案されませんでした。また、「分配的正義」についても多くの評価で基準を満たし、低所得地域に対して、より弱い提案を行うケースは少ないことが示されました。
一方、意思決定の過程に関する倫理的基準では、結果にばらつきが見られました。「集合的参加」が確認されたのは180件中109件(60.6%)、「透明性のある監督」は136件(75.6%)でした。
この違いは、特に予算に制約を設けた質問で顕著でした。所得水準の異なる地域を含み、かつ予算が限られている状況では、「集合的参加」が確認された回答は60件中21件(35.0%)、「透明性のある監督」は28件(46.7%)でした。これに対して、予算制約のない質問では、それぞれ73.3%、90.0%でした。つまり、限られた予算の中で優先順位を決める必要がある状況では、LLMは住民参加や人による監督への配慮を十分に示さない場合があることが分かりました。
(3)今後の期待
本研究は、研究グループが把握する限り、都市デザインと健康に関するLLMの助言を倫理的観点から検証した世界初の研究です。今回の結果から、有害な提案を避けることや、所得水準の異なる地域を公平に扱うことについては、多くの回答が基準を満たしました。一方、住民参加や人による監督といった、意思決定の過程に関わる倫理的な側面については、必ずしも一貫して考慮されないことも明らかになりました。
LLMは今後、都市デザイナーや都市計画、公衆衛生の専門家が、道路、公共空間、交通インフラ、土地利用、緑地など、健康を支える都市環境の改善策を検討する際の初期的な情報源として活用できる可能性があります。しかし、特に限られた予算の中で優先順位を決める必要がある場合には、LLMの提案だけで判断するのではなく、専門家の判断や住民参加を組み込むことが重要です。
今後、LLMを都市デザインに活用していくためには、提案そのものの内容だけでなく、有害な提案を避けているか、不利な状況にある地域を公平に扱っているか、住民参加を支えているか、人による監督を適切に位置づけているかといった観点から評価することが重要です。適切な仕組みや安全対策を取り入れることで、専門家の知識、住民参加、行政などの制度的な意思決定を尊重しながら、LLMが健康を支える都市デザインに役立つ可能性があります。

イメージ図1.AIが生成する都市デザインの助言には、人による監督が必要
大規模言語モデル(LLM)は、健康を支える都市デザインに活用できる可能性がありますが、その助言は、専門家の判断、住民参加、人による監督を補完するものとして活用する必要があります。
出典:ThisIsEngineering(Pexels)

イメージ図2.より健康的な都市環境に向けたAIの助言 ChatGPTが生成した都市デザインの助言は、明らかに有害な提案を避ける一方、住民参加や透明性のある人による監督への配慮には課題が見られました。 出典:faberdasher(Openverse)
(4)用語解説
*1 大規模言語モデル(LLM):
Large Language Model。大量の文章データを学習し、入力された質問や指示に応じて文章を生成する人工知能(AI)のモデル。
*2 都市デザイン:
道路、公共空間、交通インフラ、土地利用、緑地など、人々が暮らす都市の物理的な環境を計画・設計すること。本研究では、特に人々の健康を支える都市環境に着目している。
(5)論文情報
論文タイトル:Ethical assessment of large language model-generated advisory text on designing the built environment for health
日本語タイトル:健康を支える都市環境のデザインに関する大規模言語モデル生成助言文の倫理的評価
著者:Mohammad Javad Koohsari, Becky P.Y. Loo, Jing Zhao, Jiuling Li, Ying Long, Yi Lu, Koichiro Oka, Andrew T. Kaczynski
掲載誌:Developments in the Built Environment
掲載日:2026年8月10日
DOI:10.1016/j.dibe.2026.101007







