意思決定の進行を映し出す内側前頭前皮質の神経活動
― マウスの脳内で繰り返し現れる活動パターンを発見 ―
鹿児島大学、早稲田大学、理化学研究所の研究グループ(*1)はマウスが視覚情報を手がかりに行動を選択する際、意思決定に重要な脳領域である「内側前頭前皮質」では多数の神経細胞が、課題の進行に沿って、毎回よく似た順序で活動することを明らかにしました。本研究の成果は、多様な神経細胞の活動が課題の各段階に応じて組織化されることで、一連の意思決定が支えられている可能性を示すものです。
本研究成果は、Journal of Neuroscience誌にて2026年7月30日にオンライン先行公開されました。
研究の背景
私たちは日常生活の中で、目や耳から得た情報と、過去に学習した知識を組み合わせ、適切な行動を選択しています。内側前頭前皮質は、このような意思決定や目標に基づく行動に重要な脳領域であることが知られています。しかし、内側前頭前皮質の多数の神経細胞が、情報を受け取り、行動を考え、実際に選択に至るまでの一連の過程において、どのように協調して働いているのかは、十分に分かっていませんでした。
研究の内容
研究グループは、マウスにタッチスクリーンを用いた行動課題を学習させました(図1)。マウスが画面中央に表示されるスタートキューをタッチすると、中央に縦縞または横縞の視覚刺激が表示され、その視覚刺激を見て、左右のどちらかを選択します。縦縞の場合は左、横縞の場合は右を選ぶと、報酬を得ることができます。
課題を行っているマウスの頭部に小型蛍光顕微鏡を装着し、自由に行動している状態で、内側前頭前皮質の多数の神経細胞の活動をカルシウムイメージング(*2)によって記録しました。また、比較対象として、一次体性感覚皮質の神経活動も記録しました。

(図1)
解析の結果、内側前頭前皮質では、異なる神経細胞が課題中のさまざまな段階で活動していました。そして、多数の神経細胞の活動をまとめて見ると、課題の開始から刺激の提示、行動選択へと進む流れに沿って、特徴的な活動パターンが現れることがわかりました(図2)。このパターンは試行ごとに繰り返し現れ、機械学習を用いた位相デコーディング解析により、神経活動から「マウスが現在、課題のどの段階にいるのか」を推定できました。一方、一次体性感覚皮質では、このような課題の進行に沿った繰り返しの活動パターンは、内側前頭前皮質ほど明瞭には認められませんでした。

さらに、内側前頭前皮質では、刺激提示時に活動する細胞、刺激提示後から選択まで持続的に活動する細胞、選択の直前に活動する細胞など、異なるタイミングで活動する様々な神経細胞が存在しました。こうした多様な神経細胞の活動が組み合わさることで、課題進行に沿った集団活動が生み出されていると考えられます。
また、内側前頭前皮質の神経活動から、マウスが左右どちらを選ぶのかを、選択の前後いずれの時点でも、偶然を上回る精度で予測できました(図3)。これらの結果から、内側前頭前皮質では、左右どちらを選ぶかに関わる神経活動が見られると同時に、課題の開始から終了までの進行に沿った共通の活動パターンが、試行ごとに繰り返し現れることがわかりました。

研究成果の意義
本研究は、内側前頭前皮質の神経活動が、「左右のどちらを選ぶか」の情報だけではなく、「課題が今どの段階まで進んでいるか」を表す活動パターンも含まれていることが分かりました。こうした課題の進行に沿った神経活動は、課題の各段階で必要となる情報処理を、順序立てて進めるための仕組みとして働いている可能性があります。さらに、課題の進行に沿って繰り返し現れる活動パターンに、そのときの選択に関わる神経活動が加わることで、状況に応じた行動が生み出されている可能性があります。つまり、内側前頭前皮質では、「課題がどこまで進んでいるのか」と「どの行動を選ぶか」という異なる情報が、多数の神経細胞の活動によって同時に表されていると考えられます。
今後、特定の神経回路や細胞種を選択的に観察・操作する研究を進めることで、課題の進行に沿って組織化された内側前頭前皮質の神経活動が、学習、判断、行動選択にどのような役割を果たしているのかを明らかにできると期待されます。また、本研究の成果は、将来的に、意思決定機能に変化がみられる精神・神経疾患の脳の仕組みを理解する手がかりになる可能性があります。
注釈
*1 研究グループについて:視覚情報を手がかりにした新たなマウス認知課題は、早稲田大学人間科学学術院・掛山正心教授研究室において、鈴木健さん(当時、大学院生;現:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科特任助教)と城宝大輔さん(当時、大学院生、理化学研究所脳神経科学研究センター特別研究員)が開発しました。カルシウムイメージングの実験は鹿児島大学大学院医歯学総合研究科・奥野浩行教授研究室が開発整備してきた実験技術です。今回の研究は、鈴木健さんが大学生時代に鹿児島大学に赴いて数カ月にわたって実験技術を学び、日本医療研究開発機構・脳とこころの研究推進プログラム(革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト)「神経動態の多重スケール機能マッピング法の開発」、「活動痕跡の多重化標識と全光学的検索に基づく回路機能解明技術開発」および科学研究費補助金と日本学術振興会特別研究員の支援を受け、掛山・奥野両研究室の共同研究として実施されました。データ解析や論文作成にあたっては日本医療研究開発機構・脳神経科学統合プログラム「脳データ統合プラットフォームの開発と活用による脳機能と疾患病態の解明」の支援も加わり、今回の発表に至りました。
*2 カルシウムイメージング:神経細胞に、活動すると明るさが変わる特殊な蛍光センサーを導入し、その光の変化から神経細胞の活動を調べる方法。本研究では、頭部に装着した小型蛍光顕微鏡を用いて、自由に行動するマウスから個々の神経細胞の活動を記録・解析しました。
撮影したカルシウムイメージング動画の一部はこちら
<URL >https://waseda.box.com/s/rrvok4xyfl4xqr3pwgklly72ersw540k.
論文情報
論文名: Heterogeneous medial prefrontal cortex ensembles exhibit reproducible internal temporal dynamics during choice behavior
著者: Takeru Suzuki, Daisuke Joho, Hiroyuki Okuno*, Masaki Kakeyama* (*責任著者)
掲載誌: The Journal of Neuroscience
DOI: 10.1523/JNEUROSCI.0358-26.2026






