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脱細胞化技術を用いた膝前十字靭帯再建用の組織再生型靭帯
無作為化比較対照試験の第1例目を実施

脱細胞化技術を用いた膝前十字靭帯再建用の組織再生型靭帯

無作為化比較対照試験の第1例目を実施

~製造販売承認に向けた有効性検証段階へ~

発表のポイント

  • 従来、膝前十字靭帯の再建手術では患者自身の腱の採取が必要でしたが、ウシ腱の優れた組織構造を利用した「組織再生型靭帯」により、採取部位の痛みや機能低下を軽減し、再断裂、後十字靭帯損傷、複合靭帯損傷など、これまで十分な治療が難しかった患者にも新たな治療の選択肢となる可能性があります。
  • 本研究は初期コホートで安全性が確認されており、現在、全国6医療機関での多施設共同無作為化比較対照試験において、有効性と長期安全性の検証段階に移行しています。
  • 本技術は膝前十字靭帯にとどまらず、肩の腱板断裂や、野球選手などに行われる肘の内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術)、足関節靭帯損傷などの治療への応用も期待されています。
  • 本技術は、スポーツ外傷から加齢に伴う運動器疾患まで幅広い疾患への応用が期待できる再生医療の基盤技術となる可能性があります。健康寿命の延伸やスポーツ・社会活動への早期復帰に貢献し、運動器治療に大きな変革をもたらすと期待されています。

東京女子医科大学、CoreTissue BioEngineering株式会社との共同記者会見
写真左から、城倉洋二社長、伊藤匡史講師、岡崎賢教授、岩崎清隆教授、今井伸哉助手

概要

膝前十字靭帯再建術を受ける患者は、日本で年間約1万9千人、世界では年間80万人以上いると推定されています。膝前十字靭帯再建術においては、患者自身の健康なハムストリング腱(太ももの裏側にある腱)や膝蓋腱等を採取し、それを加工して靭帯を再建する、体に負荷のかかる治療が世界的な標準治療となっています。

早稲田大学理工学術院の岩﨑 清隆(いわさき きよたか)教授、東京女子医科大学の岡崎 賢(おかざき けん)教授、伊藤 匡史(いとう まさふみ)講師、CoreTissue BioEngineering株式会社(代表取締役 城倉 洋二(じょうくら ようじ))、早稲田大学理工学術院の今井 伸哉(いまい しんや)助手らの研究グループでは、生体組織を材料として用い、免疫反応の原因となる細胞成分を除去する脱細胞化処理技術と、組織の劣化を抑えながら保存・滅菌を可能にする技術の 2 つの技術を基盤とし、膝前十字靱帯再建後に患者自身の細胞が再建組織の内部へ浸潤し、新たな自己組織が形成され、最終的には患者自身の靭帯組織へと置き換わる新しい医療機器を開発しています。

本開発品の中核となるのは、早稲田大学の岩﨑教授らが開発した「厚い生体組織でも組織損傷を抑えつつ細胞成分を除去できる脱細胞化技術」と「組織の劣化を抑制する凍結乾燥・滅菌技術」です。これらの技術により、再建した組織が体内で患者自身の靭帯へと再生される世界初の「組織再生型靭帯」の実用化が可能となります。

2024 年には、本開発品に関する治験届が独立行政法人医薬品医療機器総合機構に受理され、東京女子医科大学治験審査委員会の承認を経て、本開発品の安全性を確認する初期コホートを実施しました。2024年 12 月より、東京女子医科大学病院において 7 例の患者を対象に治験を実施し、安全性を確認しました。

このたび、初期コホートで安全性が確認されたことを受け、全国6医療機関での多施設共同無作為化比較対照試験(RCT)にて治験機器の有効性と長期の安全性を実証する段階へと進みました。本治験で有効性が確認されれば、患者自身の腱を採取することなく、体内で自己組織へと再生する新たな靱帯再建治療として、靱帯損傷に対する治療の選択肢を大きく広げることが期待されます。

(1)現在の治療方法における課題

膝関節にある前十字靭帯は大腿骨と脛骨をつなぎ、膝の安定性を保つ重要な組織です。前十字靭帯を損傷した場合には、靱帯を再建する手術が行われており、日本では年間約1万9千件、米国では年間17万件の手術が実施されています。しかし、治療後であっても再び損傷するリスクがあることが課題となっています。

現在の前十字靭帯再建術では、グラフトと呼ばれる靭帯の代替組織を骨に開けた穴に固定します。グラフトには、患者さん自身のハムストリング腱(太ももの裏側の腱)や、骨の一部を付けた膝蓋腱(膝のお皿の下の腱)等が用いられています。再断裂のリスクを低減するためには、十分な太さのグラフトが必要であり、国際的には直径8mm以上が望ましいとされています。しかし、ハムストリング腱の太さには個人差があり、必要な太さを確保できない患者さんも少なくありません。また、ハムストリング腱の採取に伴って、筋力低下や神経障害が生じることもあります。膝蓋腱を採取した場合には、術後の膝前面の痛みが長引いたり、ひざまずき動作がしづらくなることもあります。さらに、再断裂や複数の靭帯を損傷した患者さんでは、再建に必要な自己組織が不足し、十分な治療が困難となる場合もあります。

(2)今回の研究で新しく開発した技術

本研究グループでは、こうした課題を解決するため、患者の腱を採取することなく、ウシ腱が持つ優れた組織構造を利用した「組織再生型靭帯」を開発しました。

哺乳類の腱は、主成分であるコラーゲンの構造が共通しており、ウシの腱は十分な太さと強度を備えていることから、前十字靭帯再建用の材料として適しています。一方で、そのまま再建に用いると、炎症などの免疫反応を引き起こします。そこで本研究グループは、組織の強度や微細構造を損なうことなく、過度の免疫反応の原因となる細胞成分を効率的に除去する独自の脱細胞化技術を開発しました。さらに、脱細胞化した組織を凍結乾燥・滅菌した後でも、強度を保ちつつ本来のしなやかな組織へ復元できる独自技術の開発にも成功しました。

ヒツジを用いた前十字靱帯再建モデルで検証したところ、脱細胞化したウシ由来の腱は骨と強固に癒合し、安定した固定が得られることが確認されました。さらに、術後3カ月と1年後の再建組織を比較した結果、1年後にはコラーゲン線維の密度が高まり、組織構造がより成熟していることが明らかとなりました。これは、再建した組織の内部にヒツジ自身の細胞が浸潤し、新たな組織を形成しながら再建組織が生体組織として機能していることを示しています。

つまり、本技術では、再建した組織が単なる「代替材料」として存在するのではなく、患者さん自身の細胞によって生きた組織へと再生・置換されていく可能性が示されました。人工材料では実現が難しい「組織再生能」を有していることが、本開発品の大きな特徴です。

(3)研究の波及効果や社会的影響

前十字靭帯損傷により再建手術を必要とする患者さんは、世界全体で年間約80万人に上ると推定されています。特に、スポーツ活動や身体活動の盛んな若年層に多く発生することから、治療成績はその後の競技生活や就労、日常生活の質に大きな影響を及ぼします。

今回開発した「組織再生型靭帯」が実用化されれば、患者さん自身の腱を採取することなく再建治療を行うことが可能となり、採取部位の痛みや機能低下といった身体的負担の軽減に加え、再建治療の質の向上が期待されます。また、再断裂、後十字靭帯損傷、複合靭帯損傷など、これまで十分な治療が難しかった患者さんに対しても、新たな治療の選択肢となる可能性があります。

さらに、本技術は膝十字靱帯にとどまらず、60歳代では約25%、70歳代以上では約50%に認められる肩の腱板断裂の治療や、野球選手などに行われる肘の内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術)、足関節靭帯損傷の治療などへの応用も期待されています。本技術は、スポーツ外傷から加齢に伴う運動器疾患まで幅広い疾患への応用が期待できる再生医療の基盤技術となる可能性があります。健康寿命の延伸やスポーツ・社会活動への早期復帰に貢献し、運動器治療に大きな変革をもたらすと期待されています。

(4)研究者のコメント

私たちはこれまで、多くの患者さんが、「自分の腱を採らなければならないことへの不安」や「もう一度切れてしまうのではないか」という心配を抱えながら治療を受けている姿を見てきました。

開発した「組織再生型靭帯」は、単に切れた靭帯を置き換えるための材料ではありません。患者さん自身の細胞が再建組織の中に入り込み、新たな組織を形成しながら、やがて患者さん自身の靭帯へと置き換わっていくものです。

私たちが目指しているのは、「失った靭帯を置き換える医療」から、「患者さん自身の組織を再び育てる医療」への転換です。

スポーツに真剣に取り組むアスリートにとっても、日常生活を大切にされる方にとっても、「もう一度思い切り体を動かしたい」、「好きなことをあきらめずに続けたい」という願いは共通しています。ご自身の腱を採取する負担がなく、再び競技や仕事、日常生活へ戻ることができることは、かけがえのない価値につながるはずです。

この技術によって、患者さんが将来への不安から解放され、再び自分らしく豊かな人生を歩む手助けとなれば、研究者としてこれほど嬉しいことはありません。一人でも多くの方々に希望と安心を届け、「もう一度挑戦したい」という思いを支える医療につながることを心から願っています。

(5)用語解説

※1 脱細胞化技術
動物組織から免疫反応を引き起こす可能性のある細胞成分を除去し、体内に移植するとそれを足場として自己の組織を再生させる技術1),2)

1) 岩﨑清隆, 脱細胞化組織による生体内自己組織構築, バイオマテリアル, 42(4), 2024
2) Itoh M, Imasu H, Takano K, Umezu M, Okazaki K, Iwasaki K, Time-series biological responses toward decellularized bovine tendon graft and autograft for 52 consecutive weeks after rat anterior cruciate ligament reconstruction, Scientific Reports 12:6451, doi:10.1038/s41598-022-10713-y, 2022

(6)研究助成

本研究開発は、日本学術振興会 研究成果最適展開支援プログラムA-STEP FSステージ探索タイプ「自己治癒能力を引き出す再生促進型滅菌済無細胞腱:無細胞ウシ腱を用いたラット前十字靭帯再建実験による再生・安定性評価」(2011)、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)「自己治癒能力を引き出す無細胞化組織実用化のための総合的基礎研究」(2012)、文部科学省 イノベーションシステム整備事業 大学発新産業創出拠点プロジェクト(プロジェクト支援型)「前十字靭帯再建手術に用いる動物由来無細胞化腱の事業化」(2014-2016)、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)「無細胞化技術と生体組織滅菌技術による自己組織化する前十字靭帯再建デバイスの開発」(2014-2016)、基盤研究(B)「脱細胞化組織を用いた膝前十字靭帯再建大動物実験による生体内靭帯化に関する研究」(2017-2019)、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)医工連携事業化推進事業「治験実施に向けた膝前十字靭帯再建術に用いる脱細胞化動物組織由来の医療機器の開発」(2019-2021)、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)「膝前十字靭帯再建術に用いる脱細胞化動物組織由来の医療機器の開発・治験の実施」(2021-)の支援を受けています。

2026年6月24日 TWInsにて開催された記者会見の様子

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