このたび、早稲田大学の研究者6名が、科学技術分野で顕著な功績があったとして、「令和7年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰」を受賞しました。
日本の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った者を表彰する「科学技術賞 研究部門」では、240件の応募から52件(69名)が選ばれ、人間科学学術院の浅川達人教授、政治経済学術院の齊藤有希子教授および多湖淳教授、理工学術院の辻川信二教授および森達哉教授が受賞しました。
また、青少年をはじめ広く国民の科学技術に関する関心及び理解の増進等に寄与し、又は地域において科学技術に関する知識の普及啓発等に寄与する活動を行った者を表彰する「科学技術賞 理解増進部門」では、26件の応募から9件(29名)が選ばれ、理工学術院の田中香津生主任研究員が受賞し、部門を代表して壇上で表彰を受けました。
以下に、各受賞者のコメントを掲載いたします。
科学技術賞 研究部門
受賞業績:標本調査と社会地区分析の結合によるフードデザート問題研究
人間科学学術院 浅川 達人 教授
受賞コメント
この度は、文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)をいただきまして、誠に光栄に存じます。まずは、推薦および評価に関わってくださった全ての関係者のみなさまに謹んでお礼申し上げます。本研究では、都市社会学研究と階級・階層研究を結びつけ、地理学や栄養学とも協働しつつフードデザート問題という社会問題の解決に向けて研究、提言して参りました。複眼的・学際的な研究を、アカデミズムに閉じることなく社会問題の解決に向けて取り組んできた点を評価していただけたものと、大変光栄に感じております。このような研究活動に取り組むことができたのも、都市社会学という自分の専門分野のみならず、他分野のみなさまから複数の共同研究プロジェクトにお誘いいただき、議論を交わす機会を与えていただいたからであり、これまでの共同研究に関わってくださった全てのみなさまに心より感謝申し上げます。今後も変わらぬご指導、ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
受賞業績:地理空間上の企業間ネットワークとマクロ経済変動の研究
政治経済学術院 齊藤 有希子 教授
受賞コメント
この度は、文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)を戴きまして、光栄に存じます。これまで、様々な形でサポートして下さった方々に感謝しております。学生時代は物理学を学んでいましたが、自然科学と社会科学に共通して現れる普遍的現象に興味を持ちました。物理学において、ミクロな粒子の相互作用からマクロな特性が説明されるように、経済学においても、ミクロな企業間のネットワークからマクロ現象が説明されます。個々の企業がどのような意思決定のもと、ネットワークを構築し、利益を得るのか、地理空間との関係、波及のメカニズムを明らかにしてきました。
経済学は経世済民。これからも、「Cool heads but Warm hearts」で研究活動、教育活動に尽力したいと思います。
受賞業績:サーベイ実験の非欧米圏での実証と比較を通じた国際政治研究
政治経済学術院 多湖 淳 教授
受賞コメント
文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)を受賞することがかない、誠に光栄に存じます。2019年2月に「非覇権国の視点の導入を通じた国際政治学の科学的研究の拡張」という選定業績のもと、日本学術振興会賞を戴きましたが、今回の受賞テーマは特に国際政治学分野における実験手法の応用に関して評価をいただいた結果となります。2015年のBritish Journal of Political Science論文からはじまり、サーベイ実験の手法で書いてきた論文はすべて複数著者によるものです。共同研究を一緒に実施してくださった先生方・共著者のみなさんに厚く感謝の気持ちを申し上げます。今回の受賞を励みとしてさらに精進したいと思います。今後も変わらぬご指導、ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。
受賞業績:宇宙の創世から現在の加速膨張に至る包括的な宇宙論の研究
理工学術院 辻川 信二 教授
受賞コメント
この度は、文部科学大臣賞・科学技術賞 (研究部門)をいただき、大変光栄に存じます。私の研究は、宇宙の創生から現在に至る進化を、相対性理論やそれを拡張した理論をもとに解明するものです。私が大学院生であった1990年代の後半から、超新星や宇宙背景輻射などの観測によって、宇宙初期と後期に起こったとされる2回の加速膨張の物理が検証できるようになってきました。私の研究は、宇宙初期のインフレーションと現在の加速膨張を引き起こす暗黒エネルギーの起源を、多様な観測データを用いて明らかにしようとするものです。国内外の多くの共同研究者の協力も得て、理論的に有効な模型の構築と観測データから模型に制限をつける数値コードの開発を行い、観測的に好まれる模型を選別することが可能になりました。今後も、重力波を始めとする様々な観測が進行中であり、理論と観測の双方から宇宙の創生と進化の謎を明らかにしていきたいと思います。今までご協力・ご助言をいただきました皆様に感謝申し上げるとともに、今後も変わらぬご指導を何卒よろしくお願いいたします。
受賞業績:能動的セキュリティ対策技術に関する研究
理工学術院 森 達哉 教授
受賞コメント
この度は、文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)を賜りまして、誠に光栄に存じます。学生時代、商用インターネットの黎明期を経験したことがきっかけで情報技術に強い関心を持つようになりました。そして、情報技術が普及・発展するとともに、これらの技術が必ずしも正当な目的にのみ使われるわけではないことに気づき、セキュリティ研究へと関心が向かいました。当初は防御技術に焦点を当てていましたが、真に効果的な対策には「攻撃者の思考」を理解する必要があると考え、オフェンシブセキュリティの研究に取り組んでまいりました。この分野では、システムやサービスの脆弱性を科学的な方法論で検証し、根本的な対策技術を開発することが不可欠です。
人工知能や自動運転車など新興技術を対象としたオフェンシブセキュリティの研究で成果を上げることができたのは、多くの共同研究者と学生の協力あってこそです。この場をお借りして心より感謝申し上げます。
科学技術賞 理解増進部門
受賞業績:中高生を対象とした素粒子探究活動の普及啓発
理工学術院 田中 香津生 主任研究員
受賞コメント
この度は、文部科学大臣表彰・科学技術賞(理解増進部門)を頂きまして誠に光栄です。私は6歳ごろから素粒子に魅せられ、関連する本を読み漁りましたが、高校生になっても本を読む以外にできることがないことに悶々としておりました。その後、技術発展で手のひらサイズの素粒子検出器が作れるようになり、このような中高生に探究の機会を提供したいという思いから、素粒子検出器の貸与とオンラインによる探究サポートを始めました。
その後、コロナ禍で直接会ったことがない状況にもかかわらず、参加した中高生はさまざまな興味深い探究を生み出してくれました。この経験を通じ、検出器に加えて、オンラインを通した仲間や研究者とのつながりがあれば、これまで「本の中の世界」であった素粒子探究を中高生でも楽しめるようになると確信しました。
この取り組みは国内外の研究者によるご助力、大学生メンターの献身的なサポート、参加した中高生の想像を超える活力によって支えられてきました。この場をお借りして心より厚く御礼申し上げます。また、さらなる機会創出のため、これからも多くの方々にお力添えいただければ幸甚に存じます。