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海洋下のマントルに由来する岩石中に有機物を発見

海洋下のマントルに由来する岩石中に有機物を発見
―上部マントル中での生物が関与しない有機物合成の証拠―

概要

京都大学大学院理学研究科 三津川到 博士課程学生、三宅亮 同教授、伊神洋平 同准教授を中心とし、早稲田大学教育・総合科学学術院 田口 知樹 准教授、京都大学、広島大学、立命館大学、東北大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)、東京大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所のメンバーで構成される共同研究チームは、南太平洋タヒチ島で採取されたマントル捕獲岩中の包有物から、多環芳香族炭化水素を主体とする有機物を発見しました。地球のマントル内部で生物とは無関係に有機物が合成されている可能性は古くから指摘されてきましたが、海洋下のマントルに由来する天然のマントル物質からそのような有機物を検出した例は極めて限られていました。本研究では、放射光X線CTや顕微ラマン分光法などの分析手法を用いて、マントル捕獲岩中の微小な包有物を解析しました。その結果、包有物内に多環芳香族炭化水素を主体とする有機物が、二酸化炭素や一酸化炭素とともに分布していることを明らかにしました。本成果は、生物が関与しない有機物合成が、海洋下のマントルでも起こり得ることを示すものであり、マントル内における有機物合成過程の全容解明に向けた重要な手掛かりとなることが期待されます。

本研究成果は、2026年1月14日午前10時(英国時間)に英国の国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

図1 (a) マントル捕獲岩とは、マグマが地表に上昇する際に通過する火道の内壁の岩石がマグマ中に取り込まれ、地表に運ばれてきた岩石のことである。 (b) 今回分析した包有物の放射光X線ナノCT画像。マントル捕獲岩の構成鉱物である単斜輝石の中に白金族鉱物、Fe-Ni-Cu硫化鉱物、ケイ酸塩ガラス、CO2+CO+有機物から成る包有物が観察される。

背景

1870年代に、元素周期表で有名なドミトリ・メンデレーエフは、地球のマントル内部で生物が関与することなく有機物が合成される可能性を指摘しました。その後、2000年代以降には、マントル内の高温高圧条件(数百度~数千度、数 GPa)を再現した室内実験により、炭酸塩や鉄酸化物、水などの無機物から有機物が生成されることや、低分子有機物が重合してより複雑な有機物を形成することが示されてきました。一方で、マントル内における有機物合成を直接的に裏付ける証拠としては、マントル由来の岩石中の包有物1から有機物を検出することが挙げられます。しかし、これまでに有機物を含む包有物の報告例は、大陸下のマントルに由来する岩石など、ごく限られた地域にとどまっていました。

研究手法・成果

本研究では、フランス領ポリネシア・タヒチ島産のマントル捕獲岩2中に含まれる単斜輝石3内の微小な包有物(2–3マイクロメートル以下)を対象に、放射光X線ナノCT4、顕微ラマン分光法5、蛍光顕微鏡、走査透過型X線顕微鏡法(STXM)6など、複数の分析手法を用いて詳細な解析を行いました。大型放射光施設SPring-87(BL47XU)における放射光X線ナノCT撮影の結果、包有物は白金族鉱物8、Fe-Ni-Cu硫化鉱物、ケイ酸塩ガラス、およびそれらと共存する軽元素物質で構成されていることが明らかとなりました(図1)。さらに、この軽元素物質について顕微ラマン分光法、蛍光顕微鏡、およびKEKの放射光施設フォトンファクトリー9(BL-19A)に設置されたSTXMを用いて詳細に分析したところ、多環芳香族炭化水素10を主体とする複雑な有機物が、二酸化炭素や一酸化炭素と共存していることがわかりました(図2~図4)。本研究では、鉱物中に完全に包有された状態で有機物を検出したことから、これらの有機物が地表付近や分析過程に由来する汚染ではなく、マントル内部で生成されたものである可能性が高いことが示されました。これにより、生物が関与しない有機物合成が、海洋下のマントルでも起こり得ることが示されました。

波及効果、今後の予定

本研究成果は、これまで十分に解明されてこなかったマントル内における生物が関与しない有機物合成プロセスの全体像を理解するための重要な手がかりとなることが期待されます。特に、地球のマントルの大部分を占める海洋下のマントルに由来する岩石中に有機物が保存されていることが示された点は、極めて意義深い成果です。今後、同様の報告例が蓄積されていくことで、マントル内部で実際に合成される有機物の分子構造や、その形成環境・反応条件について、より詳細な理解が進むと期待されます。また、これらの理解が深化すれば、石油などのエネルギー資源の形成過程や地球規模の炭素循環、さらには生命の起源といった地球科学における根源的な未解明問題の解明にも寄与する可能性があります。今後は、高温高圧実験により今回発見された有機物の特徴を再現し、どのような物理・化学条件下で、どのような反応過程を経て有機物が合成されるのかについて、より詳細に検討を進めていく予定です。

研究プロジェクトについて

本研究は以下の支援により遂行されました。科学技術振興機構(JST)次世代研究者挑戦的研究プログラム (JPMJSP2110)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費(JP20H00198, JP25H00688, JP23K25963)、大型放射光施設SPring-8長期課題(課題番号 2021B0188, 2022A0188, 2022B0188, and 2023B0318)、放射光施設フォトンファクトリー S2課題(課題番号 2023S2-001)。

用語解説

1包有物:鉱物の中にとりこまれた流体、または固体のこと。主に鉱物の成長過程や、鉱物の割れ目が修復される際に取り込まれ、鉱物が形成、あるいは分布していた当時の環境を推定するうえで重要な情報源となる。

2マントル捕獲岩:マントル内から地表へマグマが上昇する際、その通路(火道)の内壁を構成していたマントル物質の一部がマグマに取り込まれ、地表まで運ばれた岩石。掘削では到達不可能なマントルの情報を直接得ることができる重要な試料である。

3単斜輝石:マントル捕獲岩を構成する主要な鉱物の一種。主にカルシウム、マグネシウム、鉄、ケイ素、酸素などにより構成される。

4放射光X線ナノCT:X線CTとは、試料を様々な方向からX線で撮影し、計算機処理によって内部構造を三次元的に再構成する手法である。放射光X線ナノCTでは、放射光と呼ばれる高輝度X線を光源として用い、さらにX線レンズで像を拡大することで、数十~数百ナノメートルの空間分解能で試料内部を可視化できる。

5顕微ラマン分光法:ラマン分光法とは、試料に可視光を照射した際に生じるラマン散乱光を解析することで物質の種類や構造を明らかにする手法である。顕微ラマン分光法では顕微鏡と組み合わせることで、約1 マイクロメートル程度の微小領域からの情報を取得することが可能である。

6走査透過型X線顕微鏡法(STXM):数十ナノメートル程度に集光したX線(放射光)を試料に照射し、試料を走査しながら透過X線を測定する手法。X線エネルギーを変化させながら測定することで、X線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルを取得でき、有機物中の化学結合状態や官能基の情報を解析できる。

7大型放射光施設SPring-8:理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

8放射光実験施設フォトンファクトリー:KEKつくばキャンパスにある放射光施設。電⼦加速器から⽣まれる放射光で、物質・⽣命の構造から機能発現のしくみを明らかにする研究を推進している。PF リング(2.5 GeV)、PF アドバンストリング(PF-AR, 6.5 GeV)という、特徴ある2つの放射光専⽤の光源加速器を有し、KEKで培ってきた放射光技術・加速器技術により世界最先端の研究の場を提供している。

9白金族鉱物:白金(Pt)やイリジウム(Ir)などの白金族元素を主成分とする鉱物。マントル捕獲岩中では産出頻度が低いが、マントル内のプロセスや核-マントル相互作用を解明するうえで注目される鉱物である。

10多環芳香族炭化水素:芳香環が複数つながった化学物質の総称。主に燃焼過程で生成され、大気、水、土壌などの環境中に広く分布する。

研究者のコメント

今回扱ったマントル捕獲岩は、1000 ℃を超える高温と数GPaという高圧が支配する極限環境下に置かれていました。そのような条件下で有機物が合成されているという事実は非常に興味深く、大きなロマンを感じています。今後は、マントル内部で合成された有機物の特性やその形成メカニズムについて、より詳細に解明していく研究を進めていきたいと考えています。(三津川 到)

論文タイトルと著者

タイトル:Abiotic polycyclic aromatic hydrocarbons originating from the sub-oceanic mantle(海洋下のマントルに由来する多環芳香族炭化水素)
著  者:Itaru Mitsukawa, Akira Miyake, Yohei Igami, Tetsu Kogiso, Norikatsu Akizawa, Junya Matsuno, Megumi Matsumoto, Akira Tsuchiyama, Kentaro Uesugi, Masahiro Yasutake, Tomoki Taguchi, Yoshio Takahashi, Shohei Yamashita, Shota Okumura
掲 載 誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-32798-x

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