連載 ワークライフバランス挑戦中! 第16回
諦めず、働き続けられる環境をつくること
スポーツ科学学術院教授 岡浩一朗
週末の公園で、保育園のお迎え時、就寝時一緒に布団に入るとき、子どもの笑顔にほっとする。任された仕事やこれと決めた研究は一生懸命に、しかしある種の諦めや潔さを持って働き、今この時にしかない子どもの成長を楽しみながら、ひとときでも一緒の時間を大切に過ごしたいと考えている。
分刻みのスケジュール共有
子どもが生まれる前も、私は現職、同業の妻も常勤で仕事に就いており、それぞれ自分の時間を自由に使って好きなように働くことができた。しかし、妻の出産を期に一転した子ども中心の生活は、絶対的に時間が足りない。この状況は今でも変えられないが、「仕事と育児の両立ができています」とはまず言えない。遠方に住む両親には頼れない状況のなか、妻はまもなくフルタイムで復職したが、認可保育園に入れないという結果も重なり、毎日が綱渡りで不安であるのが率直な感想だ。
妻は夜間開講授業を担当することが多く、夕方以降の授業や仕事をやりくりするための家族間の綿密なスケジュール共有は欠かせない。限られた時間の中で互いのスケジュールを擦り合わせ、仕事を調整することや、やむなく断る判断をすることはあるが、責任が大きく優先すべき仕事も多くある。現在は、家庭のことや育児について妻に任せている割合がとても大きい。
支え合う研究室
研究はチームで進めているため、自身のスケジュールはプライベートを含めて研究室のメンバーにも共有するようにしている。「研究」という特殊な業種において、ワークライフバランスを保ちながら進めるためには、仲間同士で個々の状況を共有し理解し合うことが大切なことなのではないかと感じている。研究室外からスカイプなどを用いた対応も可能ではあるが、コミュニケーションは生身でなければならないことも多く、毎日少しの時間でも研究室の学生らと言葉を交わすことを大事にしている。また、研究室には女性がとても多く、私以外にも育児中の研究者がいる。これまで、子育て等を理由に研究を継続することができず断念した女性研究者を何人も見てきたが、そうあってはいけない。今、私は研究室のメンバーに本当に助けられているのだが、互いの状況を理解し合い仲間同士のつながりを意識して、気持ちよく研究ができるような環境、だれもが働きやすい環境を作っていきたいと思っている。
家族の絆
時間が限られるからこそ家族間・研究室内でのスケジュール共有を徹底するし、海外の学会に子どもを連れていくこともしてきたように、子どもがいるからといって仕事を諦めることはしたくない。研究室の運営や所属箇所の教務主任という役職上の仕事など責任をもって果たすべき仕事が多いなか、これまでなんとかやってくることができたのは、仲間の理解、そして同業の妻の仕事への理解があってこそだと感謝している。子どもが生まれる前までのかなり無理な仕事の仕方や、健康管理状況を思い返すと、今は子どもと共に就寝する習慣から得られた睡眠時間の確保や朝型の生活スタイルへの転換など、健康的な生活を送るうえで子どもに助けられていると思うこともずいぶんある。仕事を軸として考えたとき、子育てはどうしても自分の思うようにならないこともあるが、家族の一体感や家族に対する責任感は確実に増した。
子育てをしながらの綱渡りと感じる生活の中にも多くの喜びがある。もし子どもの誕生が、自身がキャリアを積んで実績を上げることに時間を費やさなければならない時期であったなら、今と同じようにはできていなかったかもしれないが、研究で関わる仲間はもちろん、これから研究者を目指す人々が子育てを理由に研究継続を諦めることはしてほしくない。両立を支援する施設や環境がさらに充実し、所沢キャンパスそして早稲田大学が、子育て・介護等に携わる研究者にとってより働きやすい環境となることを一構成員として願っている。
略歴
1999 年に早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程を修了し、博士(人間科学)の学位を取得。早稲田大学人間科学部助手、日本学術振興会特別研究員(PD)、東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)介護予防緊急対策室主任を経て、2006 年4 月に早稲田大学スポーツ科学学術院に准教授として着任。2012 年4 月より現職(2016 年9 月より、教務担当・教務主任)。専門は、健康行動科学、行動疫学。
岡浩一朗オフィシャルWebサイト▶http://www.f.waseda.jp/koka/