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男性研究者の育児休職における割り切れない気持ちと喜び 文学学術院・田辺俊介准教授

連載 ワークライフバランス挑戦中! 第14回

男性研究者の育児休職における割り切れない気持ちと喜び

文学学術院准教授 田辺俊介

初めての授乳:なんとも手慣れないおぼつかない様子
First nursing: finding my way with unsteady hands

社会学を専門にしている関係上、ジェンダー不均衡やワークライフバランスなどの問題について、一通りの知識をもっているつもりであった。しかし実際に妻の妊娠、出産、その後の育児となっていく各段階で、思いのほかの自身の「頭の硬さ」に気づかされた。また双方の親に頼れず、妊娠期や出産後に妻の体調不良が続く場合、男性の育児休職は、とれたら「望ましい」ものなどではなく、必要不可欠なものであることを、身をもって体験することとなった。

実は私も、妻の妊娠当初は、自分が育児休職を取得せずとも、講義や会議の時間調整で対応可能だと考えていた。また育児休職を取得することに、どこか罪悪感を抱いてもいた。プライベートを仕事より優先してはいけない、などという「昭和男」の発想は縁遠いつもりだった。だが実際は、育児を私事と考え、そのために周囲に仕事上の迷惑をかけてはいけない、という思いが頭から離れなかった。とはいえ、いざ出産や育児に関わると、講義や会議などの予定に合わせて動けるという考えが、いかに甘いものであったかを痛感した。妊娠、出産や育児は、予定通りにいかないだけではなく、むしろ妻や子供の状況によって自分の意志や計画が遮られ続ける中でこなす仕事なのである。

そのような状態の中で、実は(育児休職どころか)「産休」を男性がとれないのは制度上の不備ではないかとも感じられた。妊娠中の経過が良好ではなく、妻に心身両面のサポートが必要な時期、自分も「産休」をとることができればどれだけ助かるだろうと思うことも多かったのだ。さらに出産時にもトラブルがあり、1週間ほど自分も病院に泊まり込み、妻と娘にはりつくことになったが、出産予定日が夏期休業期間であったことが幸いしてなんとか対応できた。しかし、これが授業期間のただ中であった場合、対応不可能であったと想像される。

そのように自身の経験を思い起こしてみると、男性が育児休職を取らずに済んでいる場合、妊娠・出産時の経過の良好さに加え、妻側の過重負担を前提とした上で、頼りになる身近なサポート手段の存在も必須であると思われる。しかし、そうした状況が許されない人は社会において決して少数ではないだろう。さらにはいわゆる「保活」での苦戦も経験し、これでは日本社会の少子化が進むわけだ、と身をもって実感する日々であった。

また男性の育児休職は、あくまで育児の「補助」程度に考えられている、と感じることも多かった。しかし私の場合、先述のように妻の出産時のトラブルなどもあり、私自身が「主たる育児者」として頑張ることが必要な状態であった。そのため子供が生まれてから3ヶ月目ぐらいまでは、3時間おきのミルク授乳で睡眠不足が続き、「連続して3時間寝るのが一番の夢」という状況であった。しかし笑えない笑い話として、この「ワークライフバランス挑戦中!」という本記事の執筆依頼は、最初はまさにその時期に頂いたのである(その時は「とても無理です」

最近の授乳:出先でも(お互い)力を抜いてできるように
Recent nursing: on the go but both my daughter and I are relaxed

とお断りし、育児休職終了後の現在執筆させて頂いている)。他にも研究職の場合、育児休職を取得して大学の業務を休んでいても、各種学会業務や科研費など外部資金による研究課題、はては社会貢献の類いは「休職」にならないことが多い。育児休職を理由に「これ以上周囲に迷惑をかけてはいけない、かけたくない」という気持ちと、これが女性の育児休職の場合でも同じようなことを求められるのだろうかという気持ちで、悶々とすることも少なくなかった。

ここまで育児休職中に感じたマイナス面の話ばかりを書いてきたが、もちろんその期間に得たものも非常に大きかった。日々変わっていく子供の成長を見ることができたこと、そしてそうした日々の些細なことを含めた時間と記憶を妻と共有できたことは、今後の人生や家族関係におけるかけがえのない財産となったのではないかと思っている。

略歴

東京都立大学人文学部卒。東京都立大学にて社会学修士、同大社会学博士号を取得。学術振興会特別研究員(PD)、2007 年東京大学社会科学研究所助教、2009 年同准教授を経て、2013 年より現職。

専門領域

社会学(経験社会学、社会意識、社会調査方法論)

家族構成

妻と娘1 人の3 人家族

育児休職

2015 年9 月~2016 年3 月

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