早稲田大学ダイバーシティ推進室は、2026年7月20日、「開設10周年記念シンポジウム ~Be Different, Be Together : 違いをチカラに、未来を拓く~」を開催しました。 ※イベント概要はこちらから
本シンポジウムは、これまでの取り組みを振り返りながら、大学におけるダイバーシティ&インクルージョン(DEI)の未来を展望する場として企画されました。当日は、学内外から多様なバックグラウンドを持つ登壇者が集い、大学が次の10年に向けて進むべき方向性について活発な議論が行われました。
開会挨拶

冒頭では、田中愛治早稲田大学総長によるビデオメッセージを上映しました。田中総長は、本シンポジウムが早稲田大学創立150周年記念事業(Global Citizenship推進事業)の一環として開催されることを紹介するとともに、本イベントが次の150年に向けた新たな一歩を踏み出す機会にもなることへの期待を述べました。
また、早稲田大学が創立以来掲げてきた「多様性を力に変える精神」に改めて言及し、女性活躍の推進や障がい学生支援、LGBTQ+への配慮、国際化など、大学が進めてきた多様な取り組みを「大学の競争力を高める戦略」として位置づけました。早稲田大学が目指すのは、世界中から多様な人々が集い、一人ひとりが「しなやかな感性」を持って互いの違いを尊重しながら、それぞれの能力を最大限に発揮できる大学であり、多様性は「誰かのための特別な支援」ではなく、大学構成員一人ひとりの力を引き出し、大学全体の可能性を拡げる基盤であるとの考えを示しました。
さらに、異なる背景や価値観を持つ人々が共に学び、共に挑戦し、共に未来を創る環境からこそ、真に革新的な教育・研究が生まれ、それこそが、早稲田大学の建学の理念である『世界人類への貢献』につながるものと確信しているとして、今後の取り組みへの期待を語りました。

次に、主催者を代表して石田京子ダイバーシティ推進室長が挨拶を行いました。石田室長は、早稲田大学が創立以来、多様な人材を受け入れ、その力を教育・研究の発展へと結び付けてきた歴史を振り返るとともに、その精神を受け継ぎながら、新たな時代にふさわしいダイバーシティの在り方を考えていく責任が私たちにはあると述べました。
また、創立者・大隈重信が明治30年に女子教育の重要性を説いた「男女復本位」の考え方を紹介し、その先進的な理念が、今日のダイバーシティ推進にもつながっていることに触れました。さらに、本学のダイバーシティ推進宣言に言及しながら、性別、障がい、性的指向・性自認、国籍、年齢などにかかわらず、誰もが尊厳を尊重され、自らの能力を十分に発揮できる環境づくりが、大学や社会の発展に不可欠であるとの考えを示しました。
さらに、社会のグローバル化や技術革新の進展に伴い、多様性を取り巻く課題も変化していることから、制度を整備するだけでなく、多様性を尊重する文化や意識を醸成していくことの重要性を強調しました。そして、ダイバーシティ推進室開設10周年という節目を振り返るとともに、今なお残る見えない壁にも目を向け、この節目を未来への新たな出発点としていく必要性に言及しました。
そのうえで、本シンポジウムの基調講演やパネルディスカッションを通じて、多様性の本質や今後の大学に求められる視点について理解と議論が深まることへの期待を表明しました。最後に、本日の学びが参加者一人ひとりの新たな気づきと行動につながり、早稲田大学がより包摂的で豊かなコミュニティへと発展していく契機となることを願い、挨拶を締めくくりました。
第一部:基調講演
基調講演①:「異なる経験が響き合う大学へ ―『普通』を問い直すダイバーシティのこれから」
講演者:小宮理奈氏
ダイバーシティ推進を考えるうえで欠かせない視点の1つが、「普通」という言葉です。私たちはしばしば無意識のうちに「普通」を基準として物事を判断します。しかし、その基準は誰が決めたのか、どのように形成されてきたのかを問い直すことが重要です。

多様性とは、単に異なる属性の人々が集まることではありません。異なる経験や立場がそこに存在することを前提に、自分たちが「普通」としてきた基準や制度を問い直していくことです。
地理的に遠くへ移動する「水平の旅」を重ねても、それだけで自分の中の思い込みや「普通」から自由になれるわけではありません。むしろ必要なのは、同じ社会の中にいながら、自分とは異なる条件や立場、現実を生きる人々の世界に触れる「垂直の旅」です。
また、包摂とは、周縁にいる人を既存の中心へ迎え入れることだけを意味するものではありません。社会や組織には、無意識のうちに「当たり前」とされてきた価値観や基準、すなわち“中心”が存在します。
しかし、その中心が特定の人々の経験や視点を前提としている場合、周縁にいる人をそこへ加えるだけでは十分ではありません。むしろ重要なのは、「誰が中心にいるのか」「誰の声が当たり前のものとして扱われているのか」を問い直し、多様な人々の経験や視点を踏まえながら、中心そのものを変えていくことです。周縁にいる人を少しずつ中心に招き入れるのではなく、中心そのものを作り替えていく大学であってほしい。早稲田大学にはそのために必要な批判的思考と、自由な精神が備わっていると信じています。
基調講演②:多様性が響き合う未来へ ~早稲田から始まるイノベーション~
講演者:河合純一氏
スポーツ政策の現場での経験から、社会におけるダイバーシティの推進は、共生社会の実現に欠かせない視点だと考えています。多様な人々が互いの違いを理解し、対話を重ねながら社会を築いていくことが重要です。
その過程では、時間やコストがかかることもあります。しかし、そのプロセスこそが新しい可能性を生み出し、組織の創造性や活力を高める原動力となります。

また、障がいを個人の問題ではなく社会の課題として捉える「社会モデル」の考え方も重要です。バリアフリー化や合理的配慮を進めることで、誰もが能力を発揮できる環境を整えることは、社会全体の責任といえます。
多様性を考えるうえでは、「同質性の罠」にも注意が必要です。似た価値観や経験を持つ人だけで構成された組織は、多様な視点を取り込めず、重要な気づきを見落とす可能性があります。一方で、多様な人材が参画する組織は、より高い成果やイノベーションを生み出す傾向があります。ただし、その効果は短期間で現れるものではなく、長期的な投資として捉えることが大切です。
スポーツ基本法の改正からも、インクルージョンの拡がりを読み取ることができます。デフリンピックやスペシャルオリンピックスが法制度に明記され、スポーツは競技の枠を超え、障がい者支援や社会課題の解決に貢献するものとして位置付けられつつあります。

ダイバーシティとは「ダンスパーティーに招待されること」、インクルージョンとは「一緒に踊ること」です。単に多様な人が集まるだけでは十分ではありません。合理的配慮やバリアフリー、さらには公平性(エクイティ)の視点を取り入れ、誰もが参加しやすい環境を整えることが、真のインクルージョンにつながります。
「Waseda Vision 150」が掲げる、学生・教職員一人ひとりの健康とウェルビーイングの実現は、教育や研究の発展にもつながります。インクルージョンは目的そのものではなく、より良い社会やイノベーションを生み出すための手段です。心理的安全性が確保され、多様な背景や価値観を持つ人々が自由に意見を交わせる環境こそが、新たな発想や変革の土台になります。
共生社会の理想像は「ミックスジュース」ではなく「フルーツポンチ」です。それぞれの個性を均質化するのではなく、一人ひとりの違いや持ち味を生かしながら共に生きる社会が求められています。早稲田の「進取の精神」を体現していくためにも、インクルージョンは不可欠です。卒業生の一人として、皆さんと共に、誰もが活躍できる豊かな社会づくりに貢献していきたいと思います。
第二部:パネルディスカッション
第一部の内容を踏まえ、大学内外の実践者がダイバーシティ推進の現在地と未来について議論しました。
◆登壇者◆
ファシリテーター:石田京子ダイバーシティ推進室長
パネリスト:河合純一氏、小宮理奈氏、所千晴前ダイバーシティ推進室長、秋葉丈志スチューデント・ダイバーシティ・センター長

まず、所前ダイバーシティ推進室長が自己紹介ともに、自身が室長を務めた2018年から2022年までの取り組みを振り返りました。

メンター制度の導入や「くるみん認定」の取得、さらに「PRIDE指標」におけるシルバー認定の取得とゴールド認定への挑戦など、大学のダイバーシティ推進への姿勢を社会に示すさまざまな取り組みが紹介されました。
続いて、秋葉SDCセンター長は、自身の幼少期の経験も交えながら、「学生一人ひとりが多様性を考える大学でありたい」という思いを共有しました。SDCの組織構成として、「アクセシビリティ支援センター(ARC)」、「異文化交流センター(ICC)」、「ジェンダー・セクシュアリティセンター(GSセンター)」、「学生相談センター(SCC)」の4つの組織を紹介。また、GSセンターが学生の提案をきっかけに設立された組織であることにも触れました。

さらに最近の取組みとして、GSセンターの学生スタッフが主導し、LGBTQ+を含むすべての学生が安心してサークルや課外活動に参加できる環境づくりを目的とした「サークル・課外活動 ジェンダー・セクシュアリティ DE&I ガイドブック」を発行したことを紹介しました。また、ICCの学生スタッフの提案を受けて学生食堂にヴィーガン食が導入された事例を紹介し、「学生の声が大学を動かす」早稲田らしさに言及しました。

パネルディスカッションでは、石田室長の進行のもと、基調講演を行った小宮氏、河合氏を交え、「これからの早稲田大学におけるダイバーシティ推進のあり方」について議論が行われました。
最初のテーマとして、石田室長から、小宮氏が基調講演で語った「ダイバーシティ施策では『多様な人を増やすこと』に目が向きがちだが、『中心そのものを作り替える必要がある』」という考えを踏まえ、「早稲田大学が本当に変わったと言えるのは、どのような状態になったときか」という問いが投げかけられました。これに対し小宮氏は、「逆説的ではあるが10年後にダイバーシティ推進室がなくなっている状態こそ成功だと考えている」と述べました。現在は専門部署が担っているダイバーシティ推進が、将来的には各部署の日常業務の中に自然に組み込まれ、特別な推進組織を必要としなくなることが理想だという考えです。さらに、タイパやコスパが重視される時代だからこそ、時間をかけた対話や合意形成を大切にし、多様な人々を巻き込みながら議論する文化を大学に根付かせることが重要であると指摘しました。
秋葉センター長は、将来さまざまな分野でリーダーとなる学生たちが、多様性やインクルージョンを自然に実践できる力を身につけることの重要性を強調しました。また、障がい学生支援の現場には「唯一の正解」は
存在しないことに触れ、当事者と教職員が対話を重ねながら合意形成を図ることの重要性を説明しました。そのうえで、インクルージョンの実現には継続的な対話が欠かせないとの考えを示しました。

所前室長は、ダイバーシティという言葉そのものへの理解を広げる段階から、現在はウェルビーイングやより良い社会の実現に向けて活用する段階へと議論が進んできたことを振り返りました。そして、自分と異なる価値観や背景を持つ人々との対話を継続することこそが重要であると述べました。

河合氏は、小宮氏の意見に共感を示し、障がい者施策とジェンダー施策には課題の構造や歩んできた歴史に多くの共通点があると指摘しました。さらに、「パラリンピックの父」とも呼ばれる中村裕医師の取り組みを紹介し、ダイバーシティ推進の究極的な目標は、特別な施策や組織がなくても、多様な人々が自然に活躍できる社会や組織を実現することにあると述べました。そして、「その存在が不要になることを目指す」という発想は、小宮氏の「ダイバーシティ推進室がなくなっている状態こそ成功」という考え方と重なるものであると語りました。

続いて、河合氏が基調講演で紹介した「社会モデル」と「同質性の罠」をテーマに議論が展開されました。石田室長は、「障がいを生み出している社会の構造そのものが、まさに『同質性の罠』に陥っている状態ではないか」と問題提起しました。似た価値観や経験を持つ人同士の集団は、一見すると居心地がよく感じられます。しかし、その『心地よさ』に安住することで、自分たちと異なる人々を無意識のうちに排除し、結果として多くのバリアを生み出す社会構造につながっているのではないかと指摘しました。そのうえで、「こうした『同質性の罠』を乗り越え、早稲田大学が真にイノベーションを生み出していくために必要な多様性とは何か」と問いかけました。
これに対し河合氏は、自身の学生時代を振り返り、視覚障がいがあること以上に、多様な個性を持つ人々が当たり前に存在する早稲田の環境に安心感を覚えた経験を紹介しました。そして、学生が在学中にさまざまな人と出会い、自らの居場所やルーツを見出しながら成長できることが大学の大きな価値であると述べました。また、女性教員・学生、留学生、障がいのある教員・学生をはじめ、多様な背景を持つ人々が共に学び合う環境をさらに発展させていく必要があると語りました。
所前室長は、理工系分野では依然として女性比率が低い現状に触れながら、イノベーション創出には性別だけでなく、国籍、専門分野、世代などを含む幅広い多様性が必要であると述べました。また、近年はタイパやコスパを重視する傾向が見られる一方で、ダイバーシティ推進には時間とコストが必要であると指摘しました。大学は企業ほど短期的な成果に縛られないからこそ、多様性が新たな価値創造につながるプロセスそのものを学生に示せる貴重な場であるとの見解を示しました。

秋葉センター長は、早稲田大学にはすでに豊かなダイバーシティが存在していると評価したうえで、今後の課題はそれをいかにインクルージョンへと発展させるかにあると述べました。そして、学生に対し、居心地の良い環境からあえて一歩踏み出し、新たな人々や未知の価値観に触れる経験の重要性を呼びかけるとともに、SDCとしてもそのような機会を創出していきたいとの考えを示しました。

最後に小宮氏は、多様性はイノベーションを生み出すための手段ではなく、すでに社会に存在している現実そのものであると指摘しました。そして、大学に求められているのは、どの多様性が必要かを論じるのではなく、むしろこれまで見落としてきた声やニーズに気づき、それらを認識し尊重し続ける姿勢であると述べ、議論を締めくくりました。
パネルディスカッション終了後には、ダイバーシティ推進室の初代室長を務めた矢口徹也教育・総合科学学術院教授がフロアからコメントを寄せました。矢口教授は、2007年の男女共同参画推進室の立ち上げから、その後のダイバーシティ推進室の設立・発展に至るまで携わってきた経緯を紹介しました。

そのうえで、ダイバーシティ推進の理念そのものは早い段階から共有されていたものの、実際の活動として大学全体に定着し、拡がり、深化していくまでには多くの試行錯誤があったと振り返りました。また、現在はさまざまな取り組みが着実に根付きつつあることを評価しながらも、なお多くの課題が残されていると指摘しました。
特に、ダイバーシティ推進は依然として一部の関係者の善意や献身によって支えられている側面があると述べ、教員・学生・職員を含む大学コミュニティ全体が主体的に関わることの重要性を強調しました。そして、「早稲田大学をより良くしたい」という共通の思いを多くの構成員が共有することで、取り組みはさらに発展していくとの期待を示しました。
さらに、ダイバーシティ推進に限らず、大学のさまざまな活動は多くの関係者の協働によって支えられてきたことにも言及しました。そうした協力の積み重ねが大学全体の成長につながるとの考えを示し、今後10年間のさらなる発展への期待を語ってコメントを締めくくりました。
最後に、パネリストそれぞれから、これからの早稲田大学への期待を込めたメッセージが寄せられました。小宮氏は、「早く行きたいなら一人で行け。遠くへ行きたいならみんなで行け」というアフリカの格言を引用し、タイパやコスパだけを重視するのではなく、多様な人々と対話しながら共に歩んでいくことの大切さを語りました。河合氏は、世界を目指して戦うアスリートの間にある「現状維持と安定は負け」という考え方を紹介し、早稲田大学がこれからも日本、そして世界をリードする存在であり続けるためには、多様な分野で挑戦を続けることが必要であると述べました。所前室長は、ダイバーシティ推進の意義を一人ひとりが「自分事」として捉え、社会の変化と向き合いながら考え続けることの重要性を強調しました。秋葉センター長は、今回のシンポジウムを契機として、次世代の学生たちが大学を変革する担い手となり、新たな価値を創造していくことへの期待を示しました。
それぞれのメッセージには、多様な人々が互いを尊重しながら挑戦を続けることこそが、早稲田大学、そして社会のさらなる発展につながるという共通の思いが込められていました。
閉会挨拶
閉会挨拶では、篠原初枝理事(ダイバーシティ推進担当)が、本シンポジウムを通じて「大学は何を目指し、どのようにダイバーシティ&インクルージョンを推進していくべきか」という問いに対する多くの示唆が得られたと振り返りました。まず、基調講演で紹介された身近な場面に潜む無意識の偏見や差別、そして河合氏が示した「Dance Together and Be Happy」というメッセージに触れました。

そのうえで、インクルージョンとは単に多様な人々を招き入れることではなく、誰もが共に参加し、共に活動できる状態を実現することであると説明しました。そして、早稲田大学が、多様な人々が共に踊ることのできる「大きなダンス会場」のような存在になることが理想であるとの考えを示しました。
また、本シンポジウムで共有されたさまざまな課題や提案を踏まえ、ダイバーシティ推進は短期間で成果が見えるものではなく、時間をかけて継続的に取り組むべきものであると強調しました。そのためには、一つひとつの取り組みを粘り強く積み重ねていくことが重要であると述べました。
さらに、来場者に配付されたリーフレットのデザインにも触れました。裏表紙に描かれた色鉛筆には、「絵の具」のように色が混ざり合って一つになるのではなく、それぞれが固有の色を保ちながら共存する姿こそがダイバーシティの本質であるというメッセージが込められていると紹介しました。最後に、登壇者やシンポジウム運営に携わった関係者への感謝を述べるとともに、早稲田大学が今後も多様性を尊重しながら歩みを進め、誰もが活躍できる大学であり続けることへの期待を語り、閉会挨拶を締めくくりました。

▲左から、秋葉丈志国際学術教授(スチューデント・ダイバーシティ・センター長)、篠原初枝理事(ダイバーシティ推進担当)、石田京子ダイバーシティ推進室長(法学学術院教授)、河合純一氏、小宮里奈氏、矢口徹也教育・総合科学学術院教授(初代ダイバーシティ推進室長)、所千晴理工学術院教授(前ダイバーシティ推進室長)
◆ 広報課でも本シンポジウムに関する記事を掲載しております。
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開設10周年記念リーフレット
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