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ダイバーシティ推進室、開設10周年を迎えて

ダイバーシティ推進室、開設10周年を迎えて

  • #WASEDA レビュー
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Fri 28 Aug 26

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Fri 28 Aug 26

記念シンポジウム「Be Different, Be Together : 違いをチカラに、未来を拓く」開催

 

2026年7月20日、早稲田大学は「ダイバーシティ推進室 開設10周年記念シンポジウム~Be Different, Be Together : 違いをチカラに、未来を拓く~」を開催しました。創立150周年記念事業の一環として開催された本シンポジウムでは、京都大学大学院法学研究科法政策共同研究センター特定助教の小宮理奈氏、パラリンピック金メダリストの河合純一氏が基調講演を実施。また学内関係者とともにパネルディスカッションを行い、未来に向けたダイバーシティ推進の指針を、多くの参加者と共有しました。

本記事では、当日のレポートをお届けします。

 

※登壇者の発言は、抜粋や要約によるものです。

撮影=早稲田キャンパス 小野記念講堂

撮影=早稲田キャンパス 小野記念講堂

ダイバーシティ推進における早稲田大学の歩み

早稲田大学は2008年度、「男女共同参画推進室」を開設。その取り組みを継承しつつ、障がい者やLGBTQ+の支援を含む包括的なダイバーシティ推進を実現すべく、2016年に同室を「ダイバーシティ推進室」へと改組しました。各種シンポジウムの開催、UDマップの発行、「くるみん認定(※1)」の取得、「PRIDE指標(※2)」ゴールド認定の取得など、さまざまな施策に取り組み、今年で10年を迎えます。

節目の年にあたり、過去の歩みを振り返りつつ、本学のダイバーシティ推進における意義や課題を共有し、次の10年へ向けたメッセージを発信するのが、今回のシンポジウムの目的です。会場の小野記念講堂には、学生をはじめ多くの参加者が集いました。

早稲田大学の中長期計画「Waseda Vision 150」では、ダイバーシティ・男女共同参画の推進を達成すべき課題として位置づけ、学生・教職員の女性比率、外国人比率などの数値目標を掲げている

早稲田大学の中長期計画「Waseda Vision 150」では、ダイバーシティ・男女共同参画の推進を達成すべき課題として位置づけ、学生・教職員の女性比率、外国人比率などの数値目標を掲げている

冒頭では田中愛治総長が、ビデオメッセージにより開会の挨拶を述べました。

田中「シンポジウムのテーマ『Be Different, Be Together : 違いをチカラに、未来を拓く』は、早稲田大学が創立以来育んできた精神を表しています。本学は、多様な背景や価値観を持つ人々を受け入れ、互いに学び合うことで、新たな知を創造してきました。性別、国籍、障がいの有無、価値観などの違いを超えて、全ての構成員が尊重される大学を目指す上で、実践において中心を担ってきたのが『ダイバーシティ推進室』です。設立以来、障がいのある学生や教職員への合理的配慮の充実、女性研究者・教職員への支援、育児・介護などの両立支援、LGBTQ+への理解促進、コロナ禍における学習環境の維持など、多岐にわたる取り組みを重ねてきました。ただし、ダイバーシティの実現にゴールはなく、不断の挑戦が必要。本シンポジウムで、本学の課題が率直に議論され、次なる時代に向けた可能性も見据えることで、参加者一人一人が行動を起こす機会となることに期待します」

田中愛治総長

田中愛治総長

つづいて、ダイバーシティ推進室で室長を務める石田京子教授が挨拶を述べました。

石田「今日、社会のグローバル化や急速な技術革新により、人々の価値観や社会的課題は大きく変化しています。多様な人材を大学のコミュニティへ包摂するためには、新しい課題に柔軟に向き合い、制度や文化そのものを不断に見直していかなければなりません。ダイバーシティ推進室開設10周年にあたり、過去の歩みを振り返ることは大切です。しかし、それ以上に重要なのは、今なお存在する見えない壁に目を向け、この節目を未来への出発点にすることです。制度を整えるだけでなく、一人一人の意識や大学の文化を育て続けていくことが、これからの10年に求められる使命だと考えています」

ダイバーシティ推進室室長 石田京子教授(法学学術院)

ダイバーシティ推進室室長 石田京子教授(法学学術院)

※1 くるみん認定…厚生労働大臣による子育てサポート企業としての認定
※2 PRIDE指標…一般社団法人work with Prideが策定する、職場における性的マイノリティへの取組みの評価指標

“普通”を問い直し、中心そのものを作り替えていく大学へ

基調講演の一人目は、小宮理奈氏です。小宮氏は早稲田大学法学部を卒業後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスにて人権学、オックスフォード大学で国際人権法の修士号を取得。UNHCRなどの国連機関、NGO、日米の財団、内閣府において、国際協力や人権、ダイバーシティに関する実務に携わってきました。ウガンダやケニア、タンザニア、ヨルダンなど海外での経験も豊富で、現在は京都大学大学院で研究・教育活動に取り組んでいます。

講演のテーマは、「異なる経験が響き合う大学へ――『普通』を問い直すダイバーシティのこれから」。小宮氏は「学生時代、ダイバーシティという言葉が、今ほど一般的に使われていなかった」と伝え、自身の歩みを振り返ります。

小宮「小学校5年生の時に女性の教頭が就任し、『女性でも偉い人になれるんだ』と、子供ながらに驚いたのを覚えています。私の“普通”を揺るがした最初の出来事となったのは、ジェンダーのステレオタイプが明確に存在したからでしょう。大学入学時は、留学することを目指しながら、国際法の模擬裁判を行うサークルに所属し、アジア各地の友人ができました。しかし私のジェンダー観は、歪んでいたと思います。『女性の社会進出が進んでいないとすれば、個人の能力や努力が足りないからだ』と考えていたのです。法律に関しても、『理論的な男性、あるいは選ばれし女性しか学べない』という意識がありました。今振り返ると、穴がったら入りたい気持ちになります」

小宮理奈氏(2010年法学部卒業)

小宮理奈氏(2010年法学部卒業)

卒業後に進学した海外の大学で、専門的かつ批判的な女性教官やクラスメイトと出会った経験から、「見ていた世界は普通ではなかったと感じた」と語る小宮氏。その後も多くの場面で、差別や偏見に遭遇してきました。

小宮「国連職員だった当時、同僚の男性のお葬式に行こうとした際、女性という理由で止められたことがありました。アイルランド人の同僚に、中国人と間違えつづけられたこともありました。日本では結婚した時、働きながら国民健康保険に加入し、世帯主は私、姓を変えたのは夫だったのですが、その関係は役所で理解されず、何度も説明を求められたこともありました。一個人ではなく、“誰かの妻”として扱われることに『完敗だ』と感じ、膝から崩れ落ちそうになりました」

小宮氏は、法律などの制度の「前提」自体を問うようになり、人類学の研究を開始。現在は、タンザニアの難民キャンプ、日本で暮らすムスリム移民の子どもたちと学校給食の問題などを研究しています。

小宮「制度は、人を守るためにあるものです。しかし同時に、常に誰かを標準として作られており、うまく合致しない人にとっては壁にもなり得ます。包摂やダイバーシティを考える時、私たちは制度の有無だけでなく、生活のレベルで何が起こっているかを見つめなければなりません。例え同じ制度でも、実際に人がどう扱われているかは、同一ではないからです。病気、妊娠、出産、介護、障がい、国籍、経済状況など、私たちはいつでも“標準的な”人間でなくなる可能性を抱いています。だからこそ、ダイバーシティは『特定の誰かに優しくする』ためのものではなく、社会や組織に対し想像力を広げ、『何が普通とされてきたのか』を問うものであるべきです。早稲田大学には、周縁にいる人を中心に招き入れるだけでなく、中心そのものを作り替えていく大学を目指してほしいと期待しています」

小宮氏は「これからの10年で見てみたい早稲田大学」として、「女性総長の誕生」「学生や教員におけるジェンダーバランス」「LGBTQ+の学生・教職員が安心できる環境」などを提示。それらの前提として、多様な人が「いる」だけでなく、中心そのものを作り替えていく大学になることを強調した

小宮氏は「これからの10年で見てみたい早稲田大学」として、「女性総長の誕生」「学生や教員におけるジェンダーバランス」「LGBTQ+の学生・教職員が安心できる環境」などを提示。それらの前提として、多様な人が「いる」だけでなく、中心そのものを作り替えていく大学になることを強調した

パラスポーツから考える、ダイバーシティの新たな眼差し

基調講演ではつづいて、河合純一氏が登壇しました。河合氏は、パラリンピックに6大会出場し、金メダル5個を含む計21個のメダルを獲得。日本人として初めてパラリンピック殿堂入りを果たした水泳競技者です。その後は日本パラリンピック委員会委員長などを歴任し、現在はスポーツ庁長官を務めています。今回は「多様性が響き合う未来へ ~早稲田から始まるイノベーション~」をテーマに講演を行いました。

河合「私は生まれつき左目の視力がなく、中学3年の頃に全盲になりました。そうした中でも5歳で始めた水泳を続け、高校2年生の時にバルセロナ大会でメダルを獲得した後、早稲田大学に進学しました。当時、障がいのある学生が競技に挑むのは稀でしたが、アトランタ大会での金メダルを目標に、キャンパスのプールで必死に練習していました。早稲田大学には、自分から要望を伝えると、周囲が前向きに検討してくれる環境がありました。また、個性あふれる学生が他にもたくさんいたため、『目が見えないことは、たいした個性ではない』と感じたほどです。目標であったメダル獲得を達成できた学生生活は、今でも忘れません」

河合純一氏(1998年教育学部卒業。2005年大学院教育学研究科修了)

河合純一氏(1998年教育学部卒業。2005年大学院教育学研究科修了)

河合氏は、東京2020パラリンピック競技大会開催前に発足した人権運動「WeThe15(※3)」を題材に、障がい者が地球上の人口の15%を占めることについて、改めてシンポジウムの参加者に伝えました。

河合「パラリンピックは、こうした事実を認識できる一つの機会でもあります。また、不可能を指す『Impossible』に『’』を加えた『I’m POSSIBLE』という造語は、国際パラリンピック委員会が開発した教材の名称にも使用されています。ちょっとした視点の変化や工夫を加えれば、不可能を可能にできることを、パラスポーツは教えてくれるのかもしれません。その工夫は、視覚障がいの水泳であれば『タッパー(※4)』、身近なところでは車椅子におけるスロープなどが該当します。障がいの理由や責任を障がい者本人でなく、社会の側に存在するものと見直していくことで、世界は変わっていくのです」

また河合氏は、「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」の捉え方について、自身の考えを述べました。

河合「ダイバーシティは、『静止画』に近い概念です。障がい者雇用率やや女性管理職比率のように、写真の中に写り込んでいればクリアとされる側面があります。一方のインクルージョンは、“動画”のイメージに近いです。そこに登場する人々が、インタラクティブに行動し、有機的に動くことで互いを理解し合い、共鳴する状態です。『ダイバーシティとは、パーティーに招待されること。インクルージョンとは、ダンスに誘われること』と例えた米国の研究者もいました。皆が一緒に踊りやすいように、エクイティの考えのもとで合理的配慮や環境調整を行なっていくという意味が込められているのでしょう。どのような“動画”を作っていけるかは、皆さん一人一人の選択にかかっています。シンポジウム参加者の皆さんには、『knowing(知る)』『Doing(行う)』を経て、意識せずとも行動が生まれる状態が当たり前になる『Being(あり方)』の三つのステップで、共生社会を実現してほしいです」

※3 WeThe15…東京2020パラリンピック競技大会を前に行われたキャンペーン。地球上の人口の15%を占める障がい者を代表して、史上最大規模の人権運動を展開し、障がい者に対する差別をなくすことを目的としている

※4 タッパー…競技中にプールの壁を知らせるため、プールサイドに立ち、棒で競技者をたたく人

早稲田大学の課題と次の10年への指針

パネルディスカッションでは、小宮氏、河合氏に加え、前ダイバーシティ推進室室長の所千晴教授、スチューデント・ダイバーシティ・センター(SDC)長の秋葉丈志教授が、早稲田大学のこれまでの10年を振り返りつつ、次の10年に向けた指針について、意見を交わしました。

秋葉「SDCは、『学生相談センター』『GS(ジェンダー・セクシュアリティ)センター』『アクセシビリティ支援センター』『異文化交流センター』を包括し、学生にダイバーシティの考えを根付かせるべく活動を行っています。小宮さんが提示された『これからの10年で見たい早稲田』の中では、特に『LGBTQ+の学生・教職員が安心できる環境』や『留学生・移民的背景・宗教的実践を持つ学生の包摂』において、サークルへの理解浸透や異文化交流イベントの開催など、学生を主体とした取り組みを推進してきました。また、障がいのある学生に向けた合理的配慮では、対話を通じた合意形成プロセスを重視してきました」

秋葉丈志教授(国際学術院)

秋葉丈志教授(国際学術院)

小宮「近年は“タイパ”や“コスパ”が重視されがちですが、ダイバーシティ推進は短期で成果が出るものではありません。施策がうまくいかなくても、時間をかけ、皆で話し合いながら進めていく姿勢が、大学には求められると思います。そして『中心そのものを作り替えていく』という点では、10年後にはダイバーシティ推進室という中心機関そのものがなくなり、人事や経理のような日常業務として扱われることが、理想形だと思います」

「私がダイバーシティ推進室の室長を務めていた当時、『ようやくダイバーシティという言葉に難色を示す人がいなくなった』という状況でした。そこから現在、ダイバーシティは、大学における全ての構成員のウェルビーイングの実現、より良いリーダーを育成する上で、一つのエンジンになっています。この変化を、どのような力に変えていくか。時間をかけて対話をするという、人間の基本から逃げずに、相互理解に向け永久的に取り組むことが次の10年なのでしょう」

所千晴教授(理工学術院)

所千晴教授(理工学術院)

河合「障がいとジェンダーが、類似した歴史を歩んできたことを、小宮さんの講演を聞いて感じます。はるか昔、障がいのある人にスポーツをさせること自体を、酷使や虐待とする時代もありました。中心的な機関自体が要らなくなる社会を目指すなど、近年は方針や解決策の手立てにも共通項が生まれていると思います」

小宮「類似する歴史を歩んできたことに、強く同感します。過去には、選挙権や出産において、まるで人間として扱われてこなかった経緯もありました。少しずつ人間としてのあるべき姿に近づいてきたのでしょう。しかし現在も、まだ見逃しているニーズや属性、聞き取れていない声は存在します。そこを見逃さない姿勢が、今後の大学において重要なのだと思います」

河合「大学のような組織において、ダイバーシティ推進の過渡期には、多少の数値目標やアファーマティブアクション(※5)も必要になるでしょう。そうした施策を、『不平等』と捉えるか、『早稲田をより魅力的な場所に変えていくために必要なもの』と捉えていくかは、議論も含めて考えていくべきです。そこに早稲田大学の次のフェーズがあるのかもしれません。そして、『自分のルーツの一つを大学の4年間で獲得できた』と感じて卒業できる学生を、もっと増やしてほしいです」

ダイバーシティ推進室で初代室長を務めた矢口徹也教授(教育・総合科学学術院)は、「ダイバーシティの定着を感じる一方、一部の人々の善意と献身に支えられている。より多くの人が、早稲田をより良くしていくマインドの醸成も必要」と課題意識を述べた

ダイバーシティ推進室で初代室長を務めた矢口徹也教授(教育・総合科学学術院)は、「ダイバーシティの定着を感じる一方、一部の人々の善意と献身に支えられている。より多くの人が、早稲田をより良くしていくマインドの醸成も必要」と課題意識を述べた

※5 アファーマティブアクション…構造的な差別により不利益を受けている人々に対する優遇措置

対話を通じ、長い視点でダイバーシティを実現する

最後に早稲田大学の篠原初枝理事が、閉会の挨拶を述べました。

篠原「小宮さんの『完敗』、河合さんの『一緒に踊る』という言葉は、特に印象的でした。新たに浮かび上がった大学の課題も、学生も巻き込みながら、具体的に対応していくことが、今後の肝となるのでしょう。会場で配布したパンフレットには、色鉛筆のデザインを施しています。絵の具のように交わって同化するのではなく、それぞれの色をそのままに生かすことを表現しました。素晴らしい視点を備える関係者の皆さま、理念を深く理解するダイバーシティ推進室の教職員が育成されたことは、本学の力強さの一つです。これからも諦めることなく、ダイバーシティを息の長い取り組みとして捉え、対話とともに着実に前進させていきたいと思います」

篠原初枝理事(国際学術院教授)。ダイバーシティ推進、国際広報、国際学生寮WISH担当

篠原初枝理事(国際学術院教授)。ダイバーシティ推進、国際広報、国際学生寮WISH担当