保険・共済総合研究所【活動終了】
Waseda Research Institute on Insurance by Companies and Cooperatives
【終了】2017~2018年度
研究テーマ
会社保険と協同組合保険の同質性と異質性
分野:社会システム
研究概要
わが国の保険業法は、保険事業の実施主体を株式会社と相互会社に限定しているが、実際には各種協同組合もそれぞれの監督法規の下で「共済」という名称を用いて、実質上の保険事業を営んでいる。本研究所では、「共済」=「協同組合保険」と捉え、株式会社、相互会社による「会社保険」とあわせて研究対象とする。
会社保険も協同組合保険も、その事業内容が「保障の提供」であるという点では共通しているが、本研究所の中心テーマは、「両者には相違があるか否か、またあるとすればそのアイデンティティは何か」である。
協同組合保険は元来、相互扶助という目的を共有する個人が集まって形成される協同組合が行う保険事業であるが、その業容が会社保険と遜色のない程度に拡大する中で、両者は私的保障市場において競争関係をもつようになった。
会社保険と協同組合保険はともに保険技術を採用しており、契約者・組合員と保険者側の保険料・保険金の授受という点では、ともに「相互扶助の仕組み」ではないといってよい。契約者・組合員はリスク処理を望んだのであり、それ故、彼らが交換するのは、確率によって示された保障額の数学的期待値に等しい料率と、保障の確約である。それが保険の基礎的機能であって、相互扶助や助け合いを意識する必要のないことを示している。
以上が両者の同質性であるが、両者の異質性を―もしそれがあるとすれば―を引き出す今日的・政策的な意味は、たとえば過去長年にわたって「在日米国商工会議所」が主張する「イコールフッテング」論への対抗である。すなわち、同会議所は、両者の相違を認めず、協同組合保険も保険業法の規制下に入り、金融庁の監督を受けるべきであると政府、関係団体に機会を捉えて要請してきた。そして平等な競争条件が確立されるまで、協同組合保険の事業拡大は許されるべきではないと、その経営行動を牽制する立場をとっている。
われわれは、大学設置の研究所としての中立的な立場で、両保険の相違の有無、さらに相違があるとすれば、それぞれのアイデンティティはいかなるものか、またいかなるものであるべきか、こうした問題についてアカデミックにアプローチしていく。基本的な研究スタンスとしては、伝統的な理念論に限定されることなく、実務を日々行っている保険会社、共済団体との真摯かつ詳細な「対話」を通じて、具体事例を分析しながら、今日的な「会社保険・協同組合保険比較論」を展開していく。
研究報告
【2017年度】
本研究所は、2017年12月6日(水)、一般社団法人日本共済協会との共催で、米国最大の「フラタナーナル組合」(日本の共済団体に類似)であるスライベント・フィナンシャル(以下、スライベント)の対外政策担当 カレン・ヒムレ副社長と専属エコノミスト タンウィアー・アクラム氏の来日に合わせて公開講演会を実施した(14号館201教室)。
まず所長の江澤が開会の挨拶をし、聴講者(一般の方、学生含め100程度)の理解のため、スライベントの概要・特徴について簡単に紹介した。その後、その内容を含め講演者お二人から、スライベントの詳細、また米国金融サービス業界の諸課題についてお話しいただいた。例えば、同組織の構成メンバーである組合員には、キリスト教徒であるという共通の絆(コモンボンド)があり、他の「フラタナール組合」と同様、法人税の免税措置を受け、その税免除相当額は組合員からの提案をもとに種々の社会活動、慈善活動に使用されている実態について報告していただいた。
最後に参加学生から、「米国では保険会社と協同組合のいずれが有利か」、「日本の協同組合に不足していることは何か」といった忌憚のない質問も出され、互いにやりとりする等、講演者、聴講者ともに有意義な講演会とすることができた。
所長
江澤 雅彦[えざわ まさひこ](商学学術院教授)
メンバー
【研究所員】
江澤 雅彦(商学学術院教授)
大塚 忠義(商学学術院教授(任期付))
大塚 英明(法学学術院教授)
広田 真一(商学学術院教授)
【招聘研究員】
植村 信保(キャピタスコンサルティング株式会社)
崔 桓碩(八戸学院大学ビジネス学部専任講師)
姜 英英(明治大学商学部非常勤講師)
劉 宏(上海汽車集団保険銷售)