イスラム科学研究所【第Ⅲ期】【活動終了】
Institute of Islamic Sciences
【終了】2013~2018年度
研究テーマ
イスラム世界を「科学」「技術」のキーワードで分析する
分野:社会システム
研究概要
現代社会と先鋭的に対峙すると見なされがちなイスラム世界を対象とし、宗教論に根ざす伝統的なイスラム観を離れて、科学史と地域史を主軸とした世界観を構築する。イスラム世界とそれを取り巻く世界との間の科学技術の交流の史的展開を踏まえた研究(1.系譜研究)と、現代に至る地域的特性を明らかにして今日的なイスラム問題を分析する研究(2.地域比較研究)の双方を進める。系譜研究では、普遍的な意味を持つ科学技術の相互交流を通じて、異なる世界が長期的には相互依存の関係にあることを明らかにし、地域比較研究では、科学技術に支えられた経済社会の進展の中で地域性が現代社会にどのような特徴と可能性をもたらすかを追求する。
研究報告
【2016年度】
2016年度は、10月まで一般人を対象としたイスラーム理解促進のためのシンポジウム及び研究会開催の準備体勢を整備してきた。しかし、提携先の財団の都合により、対応の変更を余儀なくされ、その後は「東南アジア・イスラームの理解を求めて」に焦点を絞り、アジア・イスラーム研究会を通じて各メンバーの研究内容の発表を積み重ね、2017年度以降に対応することとした。
2016年度後半の上記の研究発表は、1.日本におけるイスラームの歴史的経緯(日本ムスリム協会)、2.アジア文化の中のイスラーム、3.ユーラシアの主要宗教の伝播過程等である。
なお、この間、同研究所顧問の北村歳治早稲田大学名誉教授は、イスラーム経済にも関係する英文ペーパー(Two Shock Waves―Reflections on international accounting and auditing in the early 21st century)を公表した。また、長谷川奏客員教授は「エジプト古代末期社会の終焉とイスラーム文化の形成―赤色光沢土器を中心とする生活雑器と空間構成の移相―」(早稲田大学文学研究科の博士学位論文、2016年11月)とともに、水島司編『環境に挑む歴史学』(勉誠出版、2016年10月)において「地中海、砂漠とナイルの水辺のはざまで-前身伝統と対峙した外来権力の試み-」を載せ、さらに、保坂修司同研究機構客員教授は、中東情勢の複雑化に伴い、対マスコミ、対政治関係者等々に情勢分析、意見提示等の活動を行なう傍ら、『世界経済評論』(2016年60-5号)において「サウジアラビアの構造改革について」等を発表し、研究成果を挙げてきた。
【2015年度】
「2013年度から14年度にかけてイスラム科学研究所の構成メンバーのステータスに異動があったこと等(北村歳治教授の定年退職と顧問への異動、早瀬晋三教授の研究所長就任等)を踏まえ、2014年度には研究所の組織体制等の検討を行なった。2015年度には研究所の拠点を早大19号館内に確保し、資料・データの集中管理を行なうとともに発信体制を確立した。同時に、イスラームを取り巻く不幸な事態の展開を危惧し、これまでのイスラム科学研究所が蓄積してきた知見を基に、日本人の知識層における「イスラーム」理解を本格的に推進するプロジェクトに着手することとし、協力関係を構築できる組織・他大学との協議を進め、2016年度における活動基盤を整備した。」
◆北村歳治
1.Toshiharu Kitamura, “Two Shock Waves −Reflections on international accounting and auditing in the early 21st century−”, (to be published on the website of the Public Interest Oversight Board, www.ipiob.org) 。
2.北村 歳治「監査をめぐる国際論議」『会計・監査ジャーナル』No.716、pp.42-51、2015年3月、No.717、pp.21-33、2015年4月、No.718、pp.33-46、2015年5月、及び、No.719、pp. 33-41、2015年6月。
◆長谷川奏
1.長谷川奏「地中海、砂漠とナイルの水辺のはざまで−前身伝統と対峙した外来権力の試み−」『環境と歴史学』増補版、勉誠出版、pp.149-163(印刷中)。
2.長谷川奏「エジプト西方デルタの景観復元−イドゥク湖南域の遺跡テリトリー−」『オリエント』vol.57-1, 2014/9, pp.76-82。【査読有】
3.長谷川奏「初期イスラーム時代のファイユーム陶器−ベナキ博物館所蔵資料から−」『西アジア考古学』日本西アジア考古学会、第15巻、2014/3、pp.57-60。【査読有】
4.長谷川奏『地中海文明史の考古学−エジプト・物質文化研究の試み−』彩流社、2014/5、174p.
5.春山成子、長谷川奏「ナイルデルタの環境変化」『地理』pp.59-9、古今書院、2014/9、83-87。
6.(獲得研究費)住友財団環境研究助成「「不毛の潟湖」開発をめぐる歴史堆積層の断続−エジプトのイドゥク湖を事例に−」(代表・長谷川奏、助成番号 153067、2015/11-2017/11、総額2,400,000円)
◆保坂修司
1.保坂修司『サイバー・イスラーム越境する公共圏』山川出版社2015/3, pp.392-395。
2.吉岡明子,山尾大編 『「イスラーム国」の脅威とイラク』岩波書店 2014/12。
3.保坂修司「元禄のミイラ取り」『青淵』財団法人 渋沢栄一機関紙 2013/6, pp.24-26。
4.酒井啓子,吉岡明子,山尾大,保坂修司(共著)『現代イラクを知るための60章』「イスラム国とアルカイーダ」 明石書店, 2013/3。
【2013年度】
科研費基盤(A)「科学および地域の史的観点に立つイスラム問題の比較分析 -中東と東南・中央アジア-」(代表:アジア太平洋研究科教授・北村歳治)をベースに、イスラーム問題の分析を行った。このうち、系譜研究では、イスラーム天文学とイスラーム陶器に、また、地域研究では中東(主にエジプトと湾岸を中心に)、東南アジア(インドネシアを中心に)に焦点を当て、それぞれの現況の把握に努めた。さらに、トルコではボアジチ大学において昨今のイスラーム政権に対する対抗勢力の動向を理解するための会議を行い、またエジプトでは「中東と日本を結ぶ歴史的ネットワーク」に関する研究発表会を催した。なお、2013年度は、前記の科研費事業の最終年度であったため、2014年1月24日に「科学と技術で紐解くイスラーム世界 -知の源と社会の変貌-」という表題のシンポジウムを開催した。シンポでは、午前にトルコからの招聘者を含む二つの記念講演の後に、<科学技術の歴史からイスラーム世界を紐解く>と<先端技術の利用によるイスラーム世界の変貌>という二つの発表のセッションが組まれ、会場の参加者を含めて活発な討議も行われた。
所長
早瀬 晋三[はやせ しんぞう](国際学術院教授(大学院アジア太平洋研究科))
メンバー
【顧問】
北村 歳治(国際公益監視委員会ボードメンバー、早稲田大学名誉教授)
【研究所員】
及川 靖広(理工学術院教授)
近藤 二郎(文学学術院教授)
砂井 紫里(高等研究所講師(任期付))
シドリ・ネイサン・カミッロ(国際学術院准教授)
店田 廣文(人間科学学術院教授)
早瀬 晋三(国際学術院教授)
【研究員】
長谷川 奏(客員上級研究員(研究院客員教授))
保坂 修司(客員上級研究員(研究院客員教授))
【招聘研究員】
鈴木 孝典(東海大学清水教養教育センター教授)
樋口 美作(宗教法人日本ムスリム協会名誉会長、サイバー大学世界遺産学部客員教授)
塩尻 和子(東京国際大学国際交流研究所所長)