Comprehensive Research Organization早稲田大学 総合研究機構

その他

リスク共有型共生社会研究所
Research Institute for Social Symbiosis Study of Risk Society

研究テーマ

近代社会構造に必然的に付随するリスクの公平負担を通した共生社会の設立の制度的方策の探求

分野:社会システム

研究概要

本研究の課題とする事柄は、近代化の歴史的帰結として出現したリスク社会において必要とされる「共生」のあり方を(a)従来から社会的「弱者」という社会通念によって社会的に位置づけられている人々にとっての必要性という観点から明らかにし、(b)その命題を事例調査並びに統計調査によって検証し、(c)社会学・歴史学・心理学・比較文化論といった学問領域を横断するインター・デシプリナリーな視点から新たな共生社会論の構築を目指す、ということであった。こうした研究目的を達成する上で、特にわれわれは次の点に留意して研究活動を行ってきた。それは、近代社会において生み出されるリスク社会化を促進する要因に関しては、特に資本主義的経済制度の下で生み出される「不平等性」というリスク要因をめぐって議論され、その議論は従来から諸種の社会科学において行われてきた。このことに大方の異論はないものと思われるが、われわれが注目したのは、その議論の仕方は大きくふたつのグループに分類できることであり、それらは(1)社会の近代化に伴って生じる構造的格差からする議論と、(2)心理的・価値的人間特性という視点からする議論であった、ということである。前者の典型例は「社会・経済的階層・階級論」であり、後者のそれは「偏見・差別論」である。それらの研究視点は、共生社会論(従来型の呼称でいえば、格差社会論)において相互補完的な位置づけにあるのだが、それぞれが依拠する理論枠には看過できない異質性が見られるのであり、本研究では、従来型の利害対立的構造に特化する視点への批判的摂取に基づき、後期近代社会の構造論的特性を「リスク社会化」として把握し、その上で「リスク社会」論の視点から社会的共生問題の構造にアプローチするというパースペクティヴを採用したのであった。この視点からの実証研究を実施するために、我われは学術振興会科学研究費補助金を獲得し、その研究成果はいくつかの著作と学術論文に発表してきた。そしてまた、この研究視点をさらに進化させるために、各人がそれぞれの関心に応じて研鑽を積んできた。
新たな研究所における研究もこれまでの研究を踏襲し、それをさらに発展・展開していくことを目的としているのであるが、新たな試みとして次のことを特に指摘しておきたい。それは、従来型の格差社会論においては、(経済的)富の分配に特化した「分配格差」に焦点が当てられ、その格差を生み出す制度的構造欠陥やその格差が生み出す社会病理が研究対象とされてきた。こうした視点のもつ重要性を看過・否定するものではないが、一定程度の豊かな社会を実現してきた後期近代社会においてはむしろ、その豊かさの生産過程で生み出されるリスク要因への対応責任にみられる分配格差の方がより深刻な共生社会構築に対する阻害要因となっている、という認識である。例えば、所得格差というよりは税負担の不公正が、防災・復興における行政と市民の間の責任分担の公平性が、景気回復に向けての雇用形態の柔軟性を生み出す上での企業側の負担責任と就労者側の対応責任に見られる不公正観が、より深刻な社会問題として意識すべきはないか、という認識である。副作用(リスク)を生み出さない制度構造はありえないのである。
さらに、新規研究所においては文学学術院に新たに設立された総合人文研究センターにおける「現代社会における危機の解明と共生社会創出に向けた研究」プロジェクトの中の「共生社会」創出に関わる領域における研究を分担し、当該研究センターにおける共同研究をも推進する計画を付け加えておく。

研究報告

【2015年度】
2015年度においては、総合人文科学研究部門「現代社会における危機の解明と共生社会創出に向けた研究」(代表 浦野正樹文学学術院教授)との間で共同研究活動を進めるとともに、本研究所の客員研究員が主体となって編集・執筆にあたった共生社会論に関する出版を行った。以下は、その著述の紹介である。岡本智周(*)・丹治恭子編著『共生の社会学―ナショナリズム、ケア、世代、社会意識』(太郎次郎社エディタス2016年4月刊行)。「1章 保守言論における『日本』と『危機』」(*)平野直子、「2章 歴史教育内容の現状と、伝統の学び方のこれから」岡本智周、「3章 沖縄におけるネイションの位相と米軍基地」(*)熊本博之、「4章 ジェンダーカテゴリとマイノリティ」(*)笹野悦子、「5章 子育てとはいかなる営みか」丹治恭子、「6章 障害者権利条約から見た新たな意思決定支援」(*)麦倉泰子、「7章 『青壮年/高齢』の区分をめぐって」(*)笹野悦子・丹治恭子、「8章 世代間経済格差と世代間共生―共生策としての共助」(*)和田修一、「9章 『共生』にかかわる社会意識の現状と構造」坂口真康・岡本智周、「10章 戦後日本の社会学にみる学知の更新」大黒屋貴稔。〔(*)は、本研究所の研究員を表す〕

【2014年度】
’14年度においては、本研究所の研究員である大日方純夫教授がオーガナイザーとなって開催された『共生社会構築のための講演と証言の集い:日本軍「慰安婦」(インドネシア)の証言を聞く―過去を知り、現在を考え、未来を展望するために―』(《主催》早稲田大学文化構想学部社会構築論系 《協力》第12回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議・インドネシア「慰安婦」問題協議会・早稲田大学プロジェクト研究所「リスク共有型共生社会研究所」 日時:2014年6月3日(火) 18:30〜20:30 会場:戸山キャンパス36号館682教室)を協賛した。当日は、大日方教授の開会挨拶に引き続き、「慰安婦」問題のDVDが上映され、続いて木村公一氏(牧師・西南学院大学講師/インドネシア「慰安婦」問題協議会会員)による講演「インドネシア「慰安婦」問題」、並びにエカ・ヒンドラティ氏(インドネシア「慰安婦」問題リサーチャー)による講演「マタオリ(繰り返し死ぬこと)を生きる元「慰安婦」たち」が行われ、引き続き「慰安婦」被害者による実体験についての証言「私はまるで馬のように扱われた」によって講演の裏付けが行われた。最後に大日方教授によって「過去を未来につなぐために」という題で全体の総括が行われ、日本人の未来は過去の過ちを反省する上に築かれることを確認した。会場には、本学学生・教員のみならず、こうした問題に日ごろから関心を抱く方々が出席され、教室がほぼ満席となる盛況であった。

所長

和田 修一[わだ しゅういち](文学学術院教授)

メンバー

【研究所員】
和田 修一(文学学術院教授)
大平 章(国際学術院教授)
浦野 正樹(文学学術院教授)
大日方 純夫(文学学術院教授)
小藪 明生(文学学術院助教)

【招聘研究員】
平野 直子(早稲田大学文学学術院非常勤講師)
岡本 智周(筑波大学大学院人間総合科学研究科准教授)
熊本 博之(明星大学人文学部人間社会学科准教授)
笹野 悦子(武蔵大学社会学部非常勤講師)
丹治 恭子(立正大学仏教学部准教授)
麦倉 泰子(関東学院大学文学部准教授)

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