考古学資料と民族誌比較に基づく縄文社会の解明を研究課題にする。
縄文社会に対する関心の高まりは、最近の考古学における大きな特徴にひとつである。関心の背景には、土器型式による編年学的研究が、ある程度の成果を生み出し、また生業研究なども大きな研究成果を生み出しているのに対して、縄文社会の解明ははなはだ遅れているとの認識に起因する。縄文人が属した親族組織や婚姻組織、地縁的組織、宗教的・秘密結社などの組織が、いかなるものであったか、また社会がどのように組織立てられ構造化されていたのかなどは、いずれ将来、解明されねばならない喫緊の課題である。従来は考古資料が不足したままの状態で、縄文社会を推測したが、今日では、関連するコンテクストで、未開社会の状態を観察することにより、その欠を補っている。パプア・ニューギニアや、北米北西海岸インディアンなどの民族誌を考古学者の目で調査し、比較の端緒を得ることも、重要な任務と考えている。
※先史考古学研究所
2011年10月01日〜2016年09月30日までの活動に関してはこちら
http://www.kikou.waseda.ac.jp/WSD322_open.php?KenkyujoId=5N&kbn=0&KikoId=01
※先史考古学研究所
2001年12月01日〜2006年11月30日までの活動に関してはこちら
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2008年度
研究報告 2008年度、先史考古学研究所は、主に学振科研費関係、アジア研究機構関係、日本考古学協会関係の活動をした。具体的には以下の通りである。
(科研費関係):8月9日から2週間で、パプア・ニューギニアのミルンベイ州イーストケープにおいて未開社会における家庭的土器生産の実態と型式の成立、親族構造の把握を目指してフィールド調査を行った。また縄文土器型式との比較を行うために千葉県印旛村戸ノ内貝塚を発掘調査した(8月30日〜9月24日)。それらの成果は『史観』第160冊と文学研究科紀要第54輯に発表した。また南山大学で開催されたパプア・ニューギニアシンポジウム(2009年1月25日)で今までの研究成果について発表した。
(アジア研究機構関係):アジア研究機構関連の調査として、2009年2月27日から10日間、台湾原住民社会の調査・研究のために台東県(東興村)と屏東県(三地門・霧台)に出かけ、パイワン族、ルカイ族の社会について研究した。2007年度の成果について『東アジアの歴史・民族・考古』を編集刊行した(新川登亀男氏と共編)。
(日本考古学協会関連):日本考古学協会第74回総会(東海大学)で、戸ノ内貝塚の調査について研究発表したほか、同協会60周年記念事業講演会(明治大学)で関東地方の縄文後期社会について講演した。
2007年度
研究報告2007年度は、文部科学省の科学研究費(2カ年)に採択されたのを契機に、下記の個別テーマにしたがい、研究を実施した。
1.昨年に引き続き、パプアニューギニアにおける民族考古学的調査。8月11日〜25日までの2週間、ミルンベイ州、イーストケープのトパ村に滞在して、未開社会における家庭的土器生産の実態とその空間分布について調査した。GPSで村落と家屋の正確な位置を地図に落し、家族毎にどのような土器を保持しているか、製作者は誰か、親族組織や婚姻にいたるまで、聴き取り調査を行った。これにより、日本の縄文土器型式の地理的空間分布について知るための材料を得る事ができた。
2.千葉県印旛郡印旛村戸ノ内貝塚の第4次発掘調査を実施した。文学部考古学専修の考古学実習にあわせて、縄文後・晩期の遺構を発掘し、晩期の姥山2式、安行3b式の竪穴住居を調査した。
3.東京大学の安斎正人博士と、昨年に引き続き「縄文社会をめぐるシンポジウム ?ー縄文社会の変動を読み解くー」を10月14日に開催した。7名の発表者に加えて、100名近くの研究者が参加した。2007年度の研究論文などは以下の通り。
高橋龍三郎他「パプア・ニューギニアにおける民族考古学的調査4」『史観』第158冊2007年3月
高橋龍三郎他「千葉県印旛郡印旛村戸ノ内貝塚第3次発掘調査概報」『早稲田大学大学院文学研究科紀要』第53輯 2007年3月
高橋龍三郎「縄文社会理解のための民族誌と理論」『縄文社会をめぐるシンポジウム?』2007年10月
高橋龍三郎「関東地方中期の廃屋墓」『縄文時代の考古学9』同成社 2007年5月
高橋龍三郎「総論 縄文時代の社会組織」『縄文時代の考古学10』同成社 2007年3月
高橋龍三郎・岩崎卓也(編著)『現代の考古学1 現代社会の考古学』朝倉書店 2007年9月
高橋龍三郎・安斎正人(編著)『縄文時代の社会考古学』同成社 2007年12月
Ryuzaburo Takahashi 2007 Palaeolithic Culture and Society in Nile Rivwer Valley, ORIENT Vol. XL?
2006年度
研究報告昨年から開始したパプア・ニューギニアのミルンベイ湾周辺における民族誌調査を継続した(8月5日〜8月19日)。昨年はヤバム島を中心とする調査であったが、2006年度は本島の最東端部に当たるイーストケープ地方の民族誌調査を重点的に実施した。縄文社会との比較を前提に、母系制社会の諸様相を探る中で、特に親族組織の把握に重点を置き、出自、クラン、婚姻などについて調査した。またこの地域は昨年までの調査研究で、自家消費用の土器生産を手作りで行っている事は判明していた。女が製作する多量の素焼きの土器群は、器形、装飾内容において、明確に土器型式を成立せしめている。しかも母親から伝統的な製作技術を伝習する形で娘が型式を継承するのである。また友人や姉妹との接触、さらに師匠の教えた土器内容が型式の基盤となる。また婚姻に基づく製作者女性の移動(婚入、婚出)が型式分布の大きな営力となっていること、さらに交易や交換、贈答が重要な契機になっていることが予測された。それらの民族誌調査は、縄文土器型式の成立、分布現象を理解する上で、大変重要な手掛かりを当ててくれるのである。
◎ 主要著作論文
○編著「総 論」『アジア地域文化学の発展―21世紀COEプログラム研究集成』雄山閣 2006年11月
○編著「総 論」『季刊考古学』第98号 雄山閣2007年1月
○「縄文社会の変革と堅果類利用」『民俗文化』第19号 2007年3月
○「パプア・ニューギニアにおける民族考古学調査(三)」『史観』第156冊 2007年3月
○「千葉県印旛郡印旛村戸ノ内貝塚第2次発掘調査概報」『早稲田大学大学院文学研究科紀要』第52輯 2007年3月
○書評「『千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)』」千葉県史料財団 2006年6月
◎ 講演会・シンポジウムなど
○岩宿博物館岩宿大学講演会 9月5日
○西東京市教育委員会考古学講演会 11月25日
○調布市文化事業センター考古学講座4月15日、22日
○文部科学省採択事業「ひらめきときめきサイエンスー古代文明と考古学ー」12月10日
○縄文社会をめぐるシンポジウム? 10月7日、8日
○21世紀COE国際シンポジウム 2006年10月28日、29日
「研究成果の総括と“アジア地域文化論”」『国際シンポジウム アジア地域文化学の構築?』
高橋 龍三郎[たかはし りゅうざぶろう](文学学術院教授)
新宿区戸山1−24−1早稲田大学文学部 高橋龍三郎研究室
研究所コンタクト先:
E-mail: [email protected]
研究所員
高橋 龍三郎(文学学術院教授)
菊池 徹夫(文学学術院教授)
岡内 三眞(文学学術院教授)
近藤 二郎(文学学術院教授)
工藤 元男(文学学術院教授)
寺崎 秀一郎(文学学術院准教授)
招聘研究員
鈴木 正博(自由業)
小林 圭一(山形県埋蔵文化財センター主任調査研究員)
金子 昭彦(岩手県文化振興事業団埋蔵文化財センター文化財調査員)
中沢 道彦(長野県県庁農政部農村振興課主査)
細谷 葵(早稲田大学オープン教育センター非常勤講師)
佐々木 由香(?パレオ・ラボ)
植月 学(山梨県立博物館学芸員、早稲田大学教育・総合科学学術院非常勤講師)