災害研究所【活動終了】
Institute of Disaster and Social Change
【終了】2005~2009年度
研究概要
一般に、社会学的「観点」や「枠組み」から災害を捉える場合、地震、台風、洪水、干ばつ、伝染病などの災害因(Disaster Agents)がもたらす社会システムの崩壊に焦点が当てられる。言い換えれば、災害研究の基本的分析モデルは社会システムと自然環境とが生み出す一連の錯綜した相互作用のプロセスを検証することによって見出すことができる。したがって、災害は自然的影響力によるものであれ、また社会的影響力によるものであれ、そうした要因が社会システムに及ぼす破壊的結果と見なされることとなる。
本研究の重要な目的(ねらい)は、地震、伝染病などの災害因の属性と社会崩壊のパターンに分析の 「焦点」を当て、両者の緊密な連関性を明らかにすることにある。通常、災害は「痛烈で、比較的突発的状況のもとで生起する社会システムならびに下位システム内部における構造的諸制度の崩壊」として規定することができる。この意味において、災害は一連の社会変動の契機をもたらすといってよい。仮に、災害を環境破壊の一類型として規定するならば、?災害(の社会学的)研究と?社会変動・地域変動に関する研究を共通の枠組みを通して分析することが可能となる。
さらに、従来、歴史学、政治学、経済学、社会学などといった既存の学問領域においてほとんどとり取り扱わなかった災害研究の視点や分析枠組みを基に、アジア太平洋地域の社会、文化、国家、国際関係の「変動」に焦点を置くことは、「国際化」に関わる研究の方法やアプローチの多様性を生み出すものといえる。
研究報告
2006年度
研究報告周知のように、平成7年(1995年)1月17日午前5時46分、兵庫県南部地方を震源地とした地震が発生し、神戸海洋気象台と洲本測候所において震度6の「烈震」が記録された。この時、兵庫県と防衛庁との間で行われた(第一回目の)午前8時10分の交信時(社会学的概念では「組織間対応」)に県側のとった対応は、「午前8時10分に姫路駐屯地の陸上自衛隊第3特科連隊から電話がありました。被害は大きくなりそうだから、いずれ知事による出動要請をすることになると答えておきました。」(『阪神・淡路大地震誌―1995年兵庫県南部地震―』 朝日新聞大阪本社)と記されている。また防衛庁側の記録では、「被害の状況を問い合わせたが情報を得られなかった」というものであった。
この点に、災害時における情報システムの運用をめぐる一つの重要な課題が汲み取れる。一般に、行政組織の災害対応行動をみると、とくに「緊急時」(衝撃期)の段階では(一)状況がもたらす緊迫性、(ニ)社会的ストレス状況から生じる予期せぬ状態、(三)(行政)組織間における通信の「途絶」などから、通常の「意思決定のパターン」は機能しなくなる。したがって、一刻を争う「衝撃期」の段階では、通常、既存の「意思決定パターン」の一時的「停止」が余儀なくされる。言いかえれば、災害の被害に見舞われた地域では急激な「社会変動」によって生じる緊張やストレスの処理に迫られ、既存の社会規範の停止と「緊急的規範」(一時的規範、Emergent Norm)に対する強化と対応とに追われる。
この点を考えると、上述の8時10分の段階で県側は災害出動の「要請」を出すべきであったといえる。あえて米国の「災害社会学」(Disaster Sociology)の観点から分析すれば、衝撃期における緊急的処置や対応への異議や反対はほとんどみられないといってよい。例えば、米国の社会学者B・F・マクラッキーは、米国、日本、イタリヤの三カ国を例にとり、「災害は当該の社会に危機をもたらし、通常の意思決定の構造やパターンでは充足することの出来ない(社会システムの)要求が生じる。このため、従来とは異なる新たな<意思決定パターン>の構造やパターンが出現する」といった実証的見解を提示している。したがって、この段階における県側の対応には、緊急時における行動規範を考える上で多くの問題点が含まれているといえよう。それは、行政組織における災害文化(Disaster Culture)の欠如と深く結びついている。
本研究では、米国における研究成果との比較分析を通して、阪神・淡路大震災、鳥取県西部地震、新潟県中越地震の「衝撃期」における通信連絡(組織間調整)の実情を捉え、災害時(とくに「衝撃期)」)における災害情報システムの運用を規定する社会的・政治的・文化的諸要因を抽出し、今後の災害(防災)対策の糧としたい。あわせて、(特定のイデオロギーや社会運動に偏ることのない実証的社会学の)中範囲理論( Middle Range Theory)に基づく「危機管理の社会学」(領域社会学・部門別社会学)の基礎理論等を提示したい。
(これまでの研究過程・成果)以上の視点と災害の社会学的分析の枠組みを基に、?「阪神大震災<衝撃期>直後の行政は何をしたか」(時事通信社、1996年)、「災害情報システムの在り方に関する一試論」(東京都私立学校教育振興会、1998年)等を発表している。
所長
今村 浩[いまむら ひろし](社会科学総合学術院教授)
メンバー
研究員
今村 浩(社会科学総合学術院教授)
研究所員
今村 浩(社会科学総合学術院教授)
研究員
田中 伯知(高等学院教諭)
研究所員
田中 伯知(高等学院教諭)
研究員
加藤 徹(高等学院教諭)
研究所員
加藤 徹(高等学院教諭)
研究員
柳谷 晃(高等学院教諭)
研究所員
柳谷 晃(高等学院教諭)