アンチ・ドーピングQ&A
みなさんも「ドーピング」という言葉をニュースで聞いたことがあると思います。スポーツにおいてドーピングは、不正な行為として禁止されています。ドーピングとは何か、またアンチ・ドーピングとは具体的にどのようなことでしょうか。Q&Aで考えてみましょう。
Q1.どうしてドーピングは禁止なのですか?
A:ドーピングはスポーツの魅力を損なうからです。あなたはスポーツにどんな魅力を感じますか?スポーツは行う人にも見る人にも感動を与えます。それは、スポーツが公平な条件のもとで一定のルールに従って正々堂々と勝敗を競うものだからです。選手は厳しいトレーニングを積み、心技体を鍛えて試合に臨みます。その努力の結果であるから、試合の勝者の喜びは大きく、敗者も結果を受け入れることができ、見る人に感動を与えます。もし試合の勝者がドーピングをしていたとわかったら、どうでしょうか?ドーピングによって、その選手は努力の結果を超えた競技能力を得ていたのです。敗者は試合結果を認めることができませんし、見ていた人もがっかりして、そのスポーツに魅力を感じなくなってしまうでしょう。アスリートは自分が懸命に取り組んでいるスポーツの魅力を損なうドーピングをしてはいけないのです。
Q2.アンチ・ドーピングはどのように行われますか?
A.世界アンチ・ドーピング機構がアンチ・ドーピング活動を統括しています。全てのスポーツの共通規則として世界アンチ・ドーピング規程があり、その下に禁止表国際基準(禁止物質と禁止方法のリスト)などの規則が定められています。禁止表国際基準はスポーツ界統一のリストで必ず毎年見直しされます。日本のアンチ・ドーピング活動は日本アンチ・ドーピング機構が統括します。
Q3.ドーピング違反をしたら、どうなりますか?
A.試合時の違反の場合は、個人競技では試合結果(記録)が取り消しになります。チーム競技では原則として1人のみの違反では試合結果は無効になりません。試合時の違反でも試合に関係ない違反でも、違反した選手は競技資格停止になります。違反の種類によりますが、標準的には4年間の競技資格停止です。競技資格停止というのは、試合に参加できないだけではなく、チームの練習にも参加できません。
Q4.治療薬に禁止物質がありますか?
A:医師の処方する医薬品や薬局で購入できる医薬品にはドーピング禁止物質が入っていることがあります。アスリートは医師に禁止物質を処方しないように話さなければいけません。風邪、花粉症、鼻炎、せき、ぜんそくの薬は禁止物質を含むことがあります。血圧、心臓病、糖尿病、痛風、骨粗鬆症、乳がん、不妊症の薬にも禁止物質があります。貼り薬にも注意が必要です。治療のために禁止物質を使わなければならない場合には「治療使用特例(TUE)」という許可をとる手続きが必要です。詳しくは、日本アンチ・ドーピング機構のホームページ(JADAと検索)のアスリートサイトで確認できます。薬局の医薬品では、風邪薬、鼻炎薬、胃腸薬、滋養強壮薬に禁止物質を含むものがあります。ドーピング禁止物質に詳しい薬剤師のスポーツファーマシストに必ず相談して購入してください。スポーツファーマシストは全国に約6000人いてJADAのアスリートサイトから検索できます。
Q5.サプリメントを使うときの注意はなんですか?
A:禁止物質を含んでいるサプリメントが売られています。とくにネットで購入するのは危険です。サプリメントは成分が全て表示されているとは限りません。成分表示には禁止物質がないのに、中身を検査すると禁止物質が検出される製品があります。効果を高めるために禁止物質を加える製品もあると言われています。派手に筋肉隆々の効果を謳うような製品は避けるべきです。本当にすごい効果があるとすれば、ドーピングとして禁止されています。JADAが禁止物質を含まないと認定した製品がJADAのホームページに掲載されています。
Q6.漢方薬は安心ですか?
A:漢方薬のなかには禁止物質を含むものがあり、それが原因でドーピング違反になったアスリートもいます。漢方薬は自然のものから作られるので禁止物質は含まない、という考えは誤りです。成分に麻黄(マオウ)を含む葛根湯(かっこんとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、肥満症や便秘に使われる防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、ホミカを含む胃腸薬などを試合時に服用すると違反になります。カタカナの製品名で漢方とは気がつかない製品もありますので、注意してください。
Q7.アンチ・ドーピングについて、わからないことはどこに聞けばいいですか?
A:まずは、JADAのWebサイトを見てみましょう。早稲田大学の学生は、スポーツ科学部の「スポーツ医科学クリニック(内科担当:赤間)」に問い合わせてください。
参考Webサイト
執筆者プロフィール
赤間 高雄(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)
略歴
1982年 筑波大学医学専門学群卒業
1988年 筑波大学大学院博士課程修了、医学博士
1989年 筑波大学臨床医学系講師
2000年 日本女子体育大学助教授
2004年 早稲田大学助教授
2006年 早稲田大学スポーツ科学学術院教授
スポーツ関係
2004年 第28回オリンピック競技大会(アテネ)日本代表選手団本部ドクター
2008年 第29回オリンピック競技大会(北京)日本代表選手団本部役員(医務担当)
2012年 第30回オリンピック競技大会(ロンドン)日本代表選手団本部役員(医務担当)
(公財)日本体育協会公認スポーツドクター/日本臨床スポーツ医学会理事/日本体力医学会評議員/(公財)日本オリンピック委員会情報・医・科学専門部会副部会長/(公財)日本アンチ・ドーピング機構副会長、TUE委員会委員長/(公財)日本ラグビーフットボール協会アンチ・ドーピング委員会委員長/(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会メディカルディレクター
著書
「〈はじめて学ぶ健康・スポーツ科学シリーズ〉スポーツ医学【内科】」編集(化学同人)ほか