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運動は子供の脳を育てる/紙上 敬太(スポーツ科学学術院講師)

子供の体力の低下

2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定し、スポーツに対する興味・関心が高まってきていると思います。そのような中、「前回の東京オリンピックが開催された1964年に比べて、現在の子供の体力は向上している」といった内容の記事をよく見かけます。しかし、ここだけを読んで喜ぶのは早合点かもしれません。なぜなら、これらの記事には「子供の体力は1985年ころがピークだった」とも書かれているからです。

体力テスト(「スポーツテスト」から1998年に「新体力テスト」に名称変更)は1964年(東京オリンピックの年)に開始され、子供の体力は徐々に向上していき、1985年ころにピークを迎えています。それ以降、低下傾向もしくは横ばいが続き、現在も依然としてピーク水準を大きく下回っています1)。一方で、子供の身長・体重の増加傾向は1985年以降も続いており、子供の体格は大きくなっています2)。すなわち、最近の子供は体格が大きくなっているにもかかわらず、体力が低下しているのです。通常、体格が大きくなれば体力は向上すると考えられますので、現在の子供の体力低下は由々しき問題であると言わざるを得ません。

このような子供の体力低下の原因は、運動不足にあると考えられています。運動が健康の保持・増進に効果的であることをご存知の方は多いだろうと思います。つまり、運動不足が蔓延している現状を踏まえれば、このような「運動が健康によい」という知識は、特に子供の場合、実際に運動を行う(もしくは行わせる)強いモチベーションにはならないと言えるのかもしれません。では、「運動をすれば頭がよくなる」のであればどうでしょうか?少しは運動をやってみようか、子供に運動を勧めてみようかという気になりませんか?

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運動をすれば頭がよくなる?

近年のいくつかの研究では、運動量が多い子供ほど、もしくは体力が高い子供ほど、学力が高いことが示されています3,4)。これらの研究に従えば、「運動をすれば頭がよくなる」と言えるのかもしれません。しかしながら、子供の運動量と学力が関係していないことを示した報告もあります5)。運動量や体力よりも強く学力に影響を与える要因(例えば勉強時間など)はいくつかあると考えられますので、研究遂行上これらの要因をうまく制御できなければ運動量・体力と学力の関係を見つけることはできないのかもしれません。いずれにしろ、これでは「運動をすれば頭がよくなる」のかどうか怪しいものです。このような関係を明らかにするため、最近では、学力と密接に関わる「実行機能」と呼ばれる高次脳機能に焦点を当てた研究が行われています。つまり、子供の運動量・体力と実行機能が関わっているのであれば、運動量・体力が学力と関わっていても不思議ではないと考えることができます。

実行機能とは、目標を達成するために思考や行動をコントロールする高次脳機能の総称です。ちょっと分かりにくいかもしれませんが、具体的には論理的思考、計画性、問題解決能力などが含まれます6)。これらの能力が学力と関わるというのは容易にイメージできるのではないでしょうか。過去5年以上に渡る研究によって、運動量・体力が子供の実行機能に関わっていることが明らかにされてきました。つまり、これらの研究では、体力が高い子供ほど実行機能が優れていることが示されています7)。さらに、最新の報告では、9ヶ月間の運動教室が実行機能を向上させたことが示されています8)。これらの研究結果から、上述した運動量・体力と学力の関係は間違いないだろうと考えることができます。

まとめ

このように、運動習慣を身に付けて体力を高めることは、子供の脳を健全に育てるために重要であると考えられます。また、ここでは子供の研究を中心にお話ししましたが、運動量・体力と実行機能の関係は子供~高齢者まで年齢にかかわらず認められています9)。しかし、「大人になれば学力なんて関係ないし…」と思われるかもしれません。上述したように、実行機能には論理的思考、計画性、問題解決能力が含まれます。よって、実行機能は、学力に対してだけではなく、精神的・身体的健康、QOL(生活の質)、仕事上の成功、円満な家族生活など、我々の生活のありとあらゆる面に対して重要だと考えられています6)。いかがでしょうか?運動を習慣化して、実行機能を鍛えてみませんか?このような研究成果によって、親子で運動・スポーツを楽しむ姿が少しでも増えることを願っています。

文献

  1. 文部科学省.子どもの体力向上のための取組ハンドブック.Retrieved from http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/kodomo/zencyo/1321132.htm. Accessed May 28, 2015.
  2. 文部科学省.学校保健統計調査‐平成26年度(確定値)の結果の概要.Retrieved from http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/kekka/k_detail/1356102.htm. Accessed May 28, 2015.
  3. Centers for Disease Control and Prevention. (2010). The association between school-based physical activity, including physical education, and academic performance. Retrieved from http://www.cdc.gov/healthyyouth/health_and_academics/pdf/pape_executive_summary.pdf. Accessed May 28, 2015.
  4. Singh A et al. (2012). Physical activity and performance at school: a systematic review of the literature including a methodological quality assessment. Arch Pediatr Adolesc Med 166:49-55.
  5. LeBlanc MM et al. (2012). Adiposity and physical activity are not related to academic achievement in school-aged children. J Dev Behav Pediatr 33:486-494.
  6. Diamond A. (2013). Executive functions. Annu Rev Psychol 64:135-168.
  7. Khan NA, and Hillman CH. (2014). The relation of childhood physical activity and aerobic fitness to brain function and cognition: A review. Pediatr Exerc Sci 26:138-146.
  8. Hillman CH et al. (2014). Effects of the FITKids randomized controlled trial on executive control and brain function. Pediatrics 134:e1063-1071.
  9. Hillman CH et al. (2008). Be smart, exercise your heart: exercise effects on brain and cognition. Nat Rev Neurosci 9:58-65.

執筆者プロフィール

Kamijo紙上 敬太(スポーツ科学学術院講師)。
2006年筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科体育科学専攻修了。博士(体育科学)。専門は健康・スポーツ科学、健康・運動心理学。日本学術振興会特別研究員(DC2)、筑波大学大学院人間総合科学研究科研究員、産業技術総合研究所特別研究員、早稲田大学スポーツ科学学術院助手を経て、2009年から3年間イリノイ大学で博士研究員(2009-2010の2年間は日本学術振興会海外特別研究員)。2012年早稲田大学スポーツ科学学術院助教、2015年より現職。2006年日本体育学会学会賞、2008年日本運動生理学会奨励賞、2012年明治安田厚生事業団第27回健康医科学研究助成論文集優秀賞、2014年早稲田大学リサーチアワード(国際研究発信力)。共著書に『スポーツ精神生理学』(西村書店、2012)他。

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