Graduate School of Sport Sciences早稲田大学 スポーツ科学研究科

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クラブとチーム ─ 地域スポーツのクラブハウスを考える ─/作野誠一(スポーツ科学学術院准教授)

クラブとチーム ─ 地域スポーツのクラブハウスを考える ─

体育各部のホームページを眺めていると、面白いことに部名の英訳として“club”を使っているところと“team”を使っているところがあることに気がつきます。おそらく各部の歴史的経緯や競技ごとの慣習としてそのようになっているのでしょうが、本来両者は異なるものと考えるべきでしょう。明治期、わが国における学校内部のスポーツ集団で倶楽部(クラブ)と表記されるものはなかったようで、当初、組や会などと呼ばれたものがのちに部と呼称されるようになったといわれています(荒井,2003)。では、そもそもクラブとはどういうものなのでしょうか。

西欧のクラブの原型としてよく引き合いに出されるのは、18世紀のイギリスを中心とする各種のクラブ、そしてその前身ともいえるコーヒーハウスなどですが、その目的はおしゃべりや討論を通じた社交といわれます。そうしたクラブの思想は、現代のさまざまなクラブにも脈々と引き継がれています。かつて訪れたイギリス・シェフィールドにある小さなサッカークラブのクラブハウス入口には、“sport & social club”の文字がありました。クラブハウス内部にはバーカウンターがあり、メンバーが好きなときに集まり交流する場が用意されています(写真1)。また、今年開催されたラグビーW杯の準優勝国、オーストラリアの小さなラグビークラブには、試合や練習のある週末だけオープンするクラブハウスがあります(写真2)。試合観戦のためにビールを買ったり、そこで食事を楽しんだり、かつての名試合の映像を流したり、そんな光景が日常的に見られるのです。

写真1

写真1:イギリスのローカルサッカークラブのクラブハウス
バーカウンターと広い談話スペースあり

写真2

写真2:オーストラリアのローカルラグビークラブのクラブハウス
週末のみのオープンでラグビーの試合映像をみながら飲食もできる

翻って、わが国の地域スポーツクラブの場合はどうでしょう。結論からいうと、多くのクラブは、クラブというよりも、むしろチーム──単一種目を少人数のメンバーで行う、例えば「ママさんバレーチーム」や「町内の草野球チーム」のような勝利志向の小集団──ではないでしょうか。そうしたチームの多くは、拠点となる施設はもちろんクラブハウスもなく、活動の場を転々とします。また、学校開放の施設では更衣室も温水シャワーも十分に整備されていませんので、運動して汗をかいたあとはその場でさっと着替えるか大急ぎで帰る、そんな状況がずっと昔から続いています。

昨今話題となっている「総合型地域スポーツクラブ」は、多種目・多世代・多目的を旗印とする新しいカタチのクラブで、現在全国で3,500余りのクラブが活動していますが、このクラブは上述したようなこれまでのクラブ(チーム)の「残念な状況」を大きく変える可能性があるといわれています。とはいえ、日常的なメンバーの交流や社交を演出する場の条件整備はまだまだ十分とはいえません。スポーツ活動で汗を流したあとに仲間とプレーをふりかえる場所、仲間とわいわい語らいながら食事をする場所、そういったクラブハウスの整備はこれからの大きな課題といえるでしょう。「スポーツは、世界共通の人類の文化である」という言葉から始まるスポーツ基本法(2011)の前文には、「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利」であること、そして「日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならない」ことが明記されています。わが国のスポーツ文化をよりよいものへと発展させていくには、人びとのスポーツライフ、クラブライフを支えるクラブハウスのような場の条件をしっかりと整えていくことも重要になるのではないでしょうか。スポーツをしている「そのとき」ももちろん大切ですが、運動前の時間も運動後の時間も、われわれにとっては大切なスポーツライフの一部なのですから。

参考文献

荒井貞光(2003)「クラブ文化が人を育てる」大修館書店
日本体育・スポーツ経営学会編(2004)「テキスト総合型地域スポーツクラブ」大修館書店

執筆者プロフィール

profile

作野 誠一(さくの・せいいち)/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授
富山県生まれ
金沢大学大学院社会環境科学研究科博士課程修了、博士(学術)。福岡県立福岡女子大学文学部講師 早稲田大学スポーツ科学部専任講師をへて現職。専門分野は体育・スポーツ経営学/スポーツ組織論/コミュニティスポーツ論。
主な著作として『スポーツマネジメント[改訂版]』(共著,大修館書店,2015)、『総合型地域スポーツクラブの発展と展望』(共著,不昧堂,2008)、『テキスト総合型地域スポーツクラブ』(共著,大修館書店,2004)、「少子化時代と運動部活動」(現代スポーツ評論28,2013)、「学校運動部のジレンマ」(現代スポーツ評論24,2011)ほか

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