Graduate School of Political Science早稲田大学 大学院政治学研究科

Students Speak

在学生へのインタビュー

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澤 正輝

枠にとらわれないテーマ選びでたどり着いた「ジェノサイド研究」

政治学研究科博士後期課程 澤 正輝さん

本当にやりたいテーマに出合うまで、右往左往した博士課程1年目

IMG_sawa_profile大学院の博士課程で何を研究するのか。大学時代あるいは修士課程からの研究をそのまま続けるなど迷わず決まる人もいれば、納得のいくテーマにたどり着くまで悩みに悩むケースもあります。澤正輝さんの場合は後者でした。

澤さんは、一橋大学法学部で4年間を過ごした後、早稲田大学大学院政治学研究科に進学。一橋大学時代の指導教授が、ちょうど早稲田に移ったことが早稲田を選んだ理由でした。「大学院に進むこと自体は、学部の3年生くらいから漠然と決めていました。勉強が面白くて研究を深めたいという理由が主ですが、普通に就職するのが自分には当てはまらないのではないかという消極的な理由もありました」。

修士課程では、大学時代からテーマとしていた国際政治史を引き続き研究。修士論文のテーマは、冷戦終結に際して重要なきっかけとなったとされる全欧安全保障協力会議(CSCE)の役割を懐疑的な視点から検証する、というものでした。

ところが。修士論文を書いている頃から、澤さんの気持ちには変化が生まれたそうです。「率直に言うと、つまらなくなってしまったんです。もちろん面白いと思って決めたテーマでしたが、このまま博士課程で同じ研究を続ける気にはなれませんでした」。とは言うものの、次の研究テーマもすぐには見つからず、博士課程の1年目は右往左往する日々が続いたと澤さんは振り返ります。

そんなある日、新聞で1970年代にポル・ポト政権下のカンボジアで起きた大量虐殺の記事を目にした澤さん。記事に非常に興味を引かれたそうですが、「当時は、自分は国際政治史でしかもヨーロッパが専門だから関係ない、と思っていました」。その気持ちが大きく変わったのは、博士課程1年目の終わる頃。実際にカンボジアを訪問し、虐殺が行われた収容所や人骨が積まれている場所などを見学するうちに、「自分はこのテーマを研究するんだ、やらないといけないんだ」と感じたのだとか。「その瞬間、いろんな悩みがすっと消えました」。こうして澤さんは、博士課程での研究テーマである「ジェノサイド」にたどり着いたのです。

ジェノサイドに至る道を解明し、ジェノサイド予防を目指す

研究テーマを「ジェノサイド」に定めた澤さんは、やりたいという強い気持ちを込めた研究計画書を指導教授に提出。ヨーロッパの国際政治史というこれまでの方向とはまったく異なる研究テーマでしたが、先生は「いいテーマにたどり着いたね」と言葉をかけてくれたそうです。「先生とは長い付き合いで、僕が悩んでいる過程もずっと見てくれていましたから、ようやくやりたいことが見つかったんだと安心したんじゃないでしょうか(笑)」。

澤さんによると、「早稲田の政研の先生は柔軟で、自分の研究分野を学生に押し付けることはありません」とのこと。「むしろ学生側に思い込みがあって、たとえば僕なら国際政治史や政治学からテーマを選ばなければいけないと考えがちです。でも、どうせなら枠にとらわれず自分がやりたいテーマを選ぶべき。逆に後からそこに、国際政治史はどう関わるのか、政治学はどう使えるのかと考えるのが本来の順番ではないでしょうか」。メインの指導教官の範囲を超えた部分については別の先生にアドバイスをもらったり、京都大学・慶応義塾大学・東京大学の専門分野の講義を受講できる「大学院学生交流連合」という制度を利用したりなど、澤さんは自ら積極的に動くことで、研究をより深める努力も重ねています。

現在は、博士論文を執筆中の澤さん。ジェノサイドの中でも、「ジェノサイドはなぜ起きるのか」という現象解明に焦点を当てています。「研究のゴールは、ジェノサイドをどう防ぐのかという『ジェノサイド予防』ですが、それを知るにはまず現象解明をしていく必要があるためです」。ジェノサイドに至る道は何通りあるのか。事例ごとに時期・地域・背景はばらばらでも、似たような道をたどるのかもしれない。「ある程度類型化できれば、そろそろ危険だから早めに対処しようといった指針が作れて、予防につながっていくと考えています」。

ところで澤さんは、論文執筆の傍ら、2011年4月から週4〜5回ほど早稲田ライティング・センターで助手としても働いています。仕事の内容は、学部生と大学院生に対する文章指導。大学院ではなくライティング・センターの助手を選んだことには、澤さんなりの考えがありました。「ライティング・センターは組織が小さいので、助手として関わることで組織運営なども学べると考えました。もちろん、人の文章を指導することで、自分の文章もブラッシュアップできるという点でも勉強になる仕事ですね」。

将来は、大学でジェノサイド研究を続けながら、ジェノサイド分野の教育に携わっていきたいという澤さん。「ジェノサイド研究はまだ日本ではなじみのない分野で、若い研究者がほとんどいません。そこで、自分が後進を育てなくてはいけないと思っています。研究者に限らず、しっかりとした実務者を育成しなくてはという思いもあります」。教育に携わる中では、NPOやNGOを作る可能性もあるということで、そうなればライティング・センターで学んでいる組織運営なども生かせると澤さんは考えています。


澤 正輝さん
1983年生まれ。2007年3月に一橋大学法学部を卒業後、同年4月早稲田大学大学院政治学研究科・修士課程に進学。2009年、同博士課程へと進む。博士課程から新たな研究テーマに取り組み、現在は「ジェノサイド(ナチ・ドイツによるユダヤ人虐殺、1970年代のカンボジア虐殺や1990年代のルワンダ虐殺など、人間集団の抹殺を目的とした暴力)」の現象解明について博士論文を執筆中。また、早稲田大学ライティング・センターの助手としても活動、学部生・大学院生に文章指導を行う。将来的には、大学で自分の研究を続けながら、ジェノサイド予防を担う若い研究者・実務者を教育・育成していくことが目標。

  • 主な論文:「ジェノサイドに関する研究史の検討」石田勇治・武内進一編「ジェノサイドと現代世界」(勉誠出版、2011年)
  • その他、川崎市平和館展示検討委員(コーナー担当)を務める

研究生活ワンポイント

「気分転換とセルフマネジメント」

ジェノサイド研究では、資料で虐殺に関する詳細な描写を目にすることも多く、精神的なストレスは相当大きいそうです。「自分が八つ裂きにされる夢を見たり、知らないうちに帯状疱疹ができたりしたことも」。気分転換は、月に4-5本の映画鑑賞。家でDVDを見るのではなく、映画館まで出かけることで気分が変わるとのこと。「実は、社会ドキュメンタリーなど研究に関わるものを見てしまうことも多いですが(苦笑)、なるべく明るい作品を選ぶようにしています」。
「博士課程は『自営業』」という澤さん。その心は、「何でも自由にやれる一方、自分から動かないとそのまま時間だけが過ぎてしまう」ため。「自分で自分をいかに育てるかという、セルフマネジメント能力がとても重要です」。たとえば、今研究には何が必要なのか、どんな先生に会うべきかなど、自分の研究を自分でマネジメントしていくことが求められるそうです。「これから大学院を目指す学生には、『自分がやりたいテーマをやる』ことと共に、セルフマネジメントの必要性も意識してほしいですね」。

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