Global Japanese Studies早稲田大学 文学学術院 国際日本学

学生報告書

山吉頌平 文学研究科 日本語日本文学コース

日本のことを研究するのに、アメリカに行って意味があるの?というのは、本当によくたずねられる質問でした。その先生のもとで学んでみたい、と思っていた教授がいるから、といった回答では満足してもらえないことも多く、ちょっとことばを足して、世界的な視野を身につけたい、といった漠然とした(そして使い古された)説明をしてみたり、南方熊楠や鈴木大拙にあこがれて、という煙に巻くような理由を加えても、当然ながら余計に相手を混乱させるだけのようです。

私がコロンビア大学で学んでいた間に取り組んでいた問題、つまり後に当地での修士論文に結実した研究というのは、古代から近世にかけての、中央から見た北陸地方に対する見方の変遷や北陸在地の主張との対立、といったものを軸としており、そこに善光寺参詣路の変遷の問題や立山や白山の縁起、近世文学でよく扱われる題材などについての事項が複雑に連環しあったものでした。さて、もしこの主題をもってして日本で学会発表(講演ではありません)を行うとしたら、どの学会で発表できるものでしょうか。また、論文を投稿するとしたら、どういう媒体が考えられるでしょうか。また、日本の文学部・文学研究科にいて、こうした時代も地域も、「日本文学」という枠組みをも越境した研究主題を選択することは、容易でしょうか。学位論文の主題と設定できるでしょうか。ここに私がアメリカでの研究を切望し、また恩師、竹本幹夫先生が私をコロンビアへと旅立たせた理由があるのです。

ここでは、誤解を怖れずにいえば、何を研究してもよいのです。専門から踏み出すことは、禁忌ではなくて挑戦であり、学問領域を開拓して実りをもたらすものとして好意的に見られます。私が日本の恩師のもとで鍛錬させていただいたのは、なにものにも代えがたい財産ですが、日本の学界というものについては、時に息苦しさを感じていました。もともと、寺社縁起という、正統的な「文学」に属さず、また仏教学とも異なる領域を専門としていましたが、時に研究成果に対し、「これが文学研究といえるのか」といった意見を査読評などで受け取ることもありました。しかしながら、少なくともコロンビアではこうした否定的な評価を受けることはありえず、教授陣も学生も日常的に「越境」を行っているのです。私も発表の機会をいただきました令和2年2月のあの忘れられない日米合同のシンポジウム(InternationalSymposium&WorkshopinJapaneseLiterary&VisualStudies)でも、日本文学と日本美術史の学問領域を越えた刺激的な議論が行われましたが、こうした「学際交流」というものは、当地では何も今回のような大きな学会だけに限らず、ごく自然に行われています。たとえば、シラネ先生のゼミに近代文学専攻の学生が出席するのはありふれたことで、美術史学や宗教学専攻の学生も積極的に参加しています(そもそも、シラネ先生を何々の専門家、と定義することからして困難です)。また、DonaldKeeneCenter主催の、外部の講師を招いての講演や、主に東アジアの宗教文化を取り上げるBuddhistSeminarといった行事も頻繁に行われていて、演者も聴講者も様々な領域を研究する人たちが集います。越境は日常であり、学生が在学中に研究する主題や時代を変えてしまうことすらも珍しいことではありません。コロンビアでの恩師のハルオ・シラネ先生も鈴木登美先生も、私のそうした越境を後押ししてくださり、また共に楽しんでくださりました。

学問に対する姿勢というものは多々あります。文献の一点一画を疎かとしない、厳格な職人になりきるのを良しとする人もいれば、細部にはとらわれない、総合的な学を志す人もいます。ひとつの領域に縛られず、多くの権威のご意見をいただきながら、興味の赴くままに研究を進めたいと考えていた私にとって、コロンビアは最高の環境でした。

以上が私のアメリカで日本学を学ぶことを選んだ理由です。コロナでの日常の激変や私生活での苦境など、様々な困難にも見舞われましたが、素晴らしい先生方や友人に恵まれて刺激的な研究生活を送った夢のような2年間はまさに一生の財産です。

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