Graduate School of Human Sciences早稲田大学 大学院人間科学研究科

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研究科長挨拶

人間科学はなぜ学際的なのか?—「人間の、人間による、人間のための」科学への誘い

早稲田大学大学院人間科学研究科長 古山宣洋

早稲田大学大学院人間科学研究科は1991年に創設されました。当研究科に限らず、「人間科学」を標榜する研究科・学部のウェブページなどを見ると必ず「学際性」が特徴であると書かれています。ところが、昨今では古くからある伝統的な研究科・学部においても学際性を謳ったものが少なくありません。異分野の研究者がいるというだけで学際的と言えるのでしょうか?そもそも人間科学はなぜ学際的なのでしょうか?そして、その学際性とはどのようなものなのでしょうか?

人間科学をどのように捉えるのかはとても難しい問題ですが、それは、少なくとも、「人間の、人間による、人間のための」科学であると言えるのではないかと考えています。「人間の」というのは、人間を研究対象としているという意味です。これは、人間を成り立たせている物理的・社会文化的・心理的、その他さまざまな観点での「環境」を含みます。環境には人間が利用することのできる資源が数多くあり、人間はそうした資源を発見し、利用することで“life”(生命、生活、人生等々)を成り立たせています。資源の一部は道具として使用されますが、この道具には言語や社会制度なども含まれます。また、互いに模倣し、あるいは教え合うことで技術や道具、慣習や制度を集団に広げ、後世に伝えていくことができます。このような意味で、人間は情報・行動システムであり、コミュニケーションや協働を通して空間・時間を超えて繋がり合う、社会文化的・歴史的な存在です。さらに、その方法には実に多様な文化的・歴史的なヴァリエーションがあります。こうした人間の多様なあり方について理解しつつ、他の動物には観られない、人間を人間たらしめている普遍的な原理について深く理解するためには、ある特定の人々の様態に偏らず、ある特定の学問の枠組みに縛られずに人間を観察し、理論化することが必要となります。ところが、これまでの科学は、主として近現代の西洋文明という、地球全体から見ればかなり限定された地域や時代の人々を対象とし、かなり限られた観点から理論化がなされ、そうしてできあがった、本来は偏った人間像を普遍的なモデルとしてきました。このような状況を打ち破るためには、観察対象・観察方法も含めて、既存の学問の枠を超えていく必要があります。

次に、「人間による」というのは、科学をする主体が私たち人間であるということです。つまり、人間科学においては、研究主体と研究対象がともに私たち人間ということになります。私たちはしばしば自分のことは自分が一番わかっていると思いがちですが、自分のことを客観的に理解するのはそうそう簡単なことではありません。このようなことから、人文社会科学も含めた諸科学においては、科学の主体と客体の重複はできる限り避けることを原則とし、あたかもこのような重複がないものとみなして発展してきた歴史があります。しかしながら、人間科学においては、この重複は原理的に避けがたいこととして向き合わざるをえません。人間科学を単なる主観的な思索に終わらせるのではなく、科学にするためには、主観と客観をどのように捉えるのか、あなたの認識とわたしの認識が「同じ」なのかどうかがどのようにしてわかるのか?など、科学を支える認識のあり方についても再考する必要があります。このようなことを達成することは、一つの学問だけでもできませんし、既存の学問(その多くは認識論が共通)を寄せ集めただけではできないことなのです。

最後に、「人間のための」は、ウェルビーイング、すなわち人の健康福祉あるいは幸福のためということになります。科学の第一義的な目的はあくまでも真理を理解することであって、「人間のため」ということにしてしまうと真理の理解を妨げてしまうのではないかとする考え方もあるかも知れません。しかし、その一方で、真理を明らかにするという大義のもと、行き過ぎた実験的な統制や、限られた考え方に固執する結果、かえって現実や真理から遠のいてしまい、それらからかけ離れた理論しか描くことができず、何の役にも立たないことになりかねません。実践が学問の枠組みに沿ったものでないのであれば、むしろ学問のほうを現実に即して見直し、組み替えていく必要があります。ただし、これも既存の学問だけでは達成が難しい課題です。

以上述べたように、人間を科学的に理解することを目標とする人間科学における「学際性」は、既存の学問の単なる寄せ集めではなく、むしろ既存の学問体系を根本から見直し、必要ならば一度解体して再編成させることに特徴があるのではないかと考えています。その意味では、むしろ「学融合」という言葉を使ったほうが適切かも知れません。挨拶文としてはやや長くなってしまいましたが、これを読んだ皆さんには「人間科学」について少しでも興味を持っていただき、その中から私たちとともに人間科学を志す同志があらわれることを心より祈念しています。

(2022年9月21日)

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