The Waseda International House of Literature (The Haruki Murakami Library)早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)

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『Authors Alive!~作家に会おう~』12月18日 村田沙耶香さん×朝井リョウさん レポート

『Authors Alive!~作家に会おう~』村田沙耶香さん×朝井リョウさん レポート

12月18日に第6回が開催された「Authors Alive! ~作家に会おう~」は、作家お二人の朗読とともに、創作をめぐる対話にひきこまれるひと時になりました。
第1回が10月9日に行われた、全6回のこの朗読イベントは、企画・タイトルが村上春樹さんの提案によるもので、ロバート キャンベル本学特命教授やゲストの皆さんの協力で実現しています。

第6回『Authors Alive!~作家に会おう~』 12月18日開催

出演は、作家の村田沙耶香さんと朝井リョウさんです。当館顧問でもあるロバート キャンベルさんが司会をつとめました。
間に休憩時間をとった2部構成で、第1回から第3回と同じように会場を「B1F・ラウンジと階段本棚」に設けました。朗読された作品は以下のものです。

  • 村田沙耶香:
    『コンビニ人間』(文藝春秋・2016年、文春文庫・2018年)
    『地球星人』(新潮社・2018年、新潮文庫・2021年)
  • 朝井リョウ:
    『正欲』(新潮社・2021年)

前半は、村田さんご自身の『コンビニ人間』朗読に続いて、キャンベルさんが竹森ジニー訳の英文で同じ箇所を朗読しました。後半は村田さんの『地球星人』朗読に始まり、朝井さんによる『正欲』の冒頭と後半部分からの朗読がありました。
また、朗読箇所の選び方の話題に関連して、お二人がお互いの特徴をどうとらえているのかが披露されるなど、キャンベルさんのリードで、興味深い文学談義となりました。会場からいただいた質問が前後半一つずつ紹介され、そこから村田さん、朝井さんの執筆に向かう姿勢が語られました。

さらに第6回当日の様子がどうだったか、「文化推進学生アドバイザー」に報告してもらいます。
・文化推進学生アドバイザー https://www.waseda.jp/culture/about/adviser/
・朗読イベントへの参加は公募で行われました(現在は終了)。公募時のご案内の様子は https://www.waseda.jp/culture/wihl/news/886

『Authors Alive!~作家に会おう~』12月日 村田沙耶香さん×朝井リョウさん 参加レポート

文化推進学生アドバイザー 3年 永井 敦
まず最初に述べると、このイベントは、高校生以来読書から遠ざかっていた自分に、村田沙耶香さんと朝井リョウさんという全く違う作品の書き方をしている2人を通して、新しい文学作品の見方を改めて与えてくれるとともに、作品を通して自分の知らない世界や人物、価値観に出会う興奮を思い出させてくれた、大変貴重な機会になりました。

大半の参加者とともに私は「階段本棚」という名前のついた、木の本棚に囲まれた階段に座りました。イベントの大まかな流れとしては、階段の下に位置する特設ステージで村田さん、朝井さん、そして、司会のロバート キャンベルさんの3人によるトークの後に、村田さん、朝井さんの順にご自身の作品を朗読していただくというものでした。

3人によるトークの中で印象に残っているのは、冒頭で村田さんと朝井さんにキャンベルさんが国際文学館の第一印象を伺ったお話でした。村田さんは、「本屋さんとは違う意味で本同士がつながっていて、自分の目的ではなかった本につながれる場所」とおっしゃっていて、一方で朝井さんは、ご自身が早稲田大学に在籍していたころに照らし合わせて、「自分の知っていた建物が、本を好きな人と出会う等々、いろんな意味を持てる場所に生まれかわった。自分が学生の頃にこんな建物があればよかった」とおっしゃっていました。

村田さんが朗読に選んだご自身の作品は、お読みになった順に『コンビニ人間』と『地球星人』でした。両作品とも、世界中で様々な言語に翻訳され読まれている作品で、3人が座っている脇のテーブルには翻訳版が数多く置いてありました。国の文化や翻訳者の意図によって、表紙のデザインがそれぞれ違っているのがとても興味深かったです。
『コンビニ人間』からの朗読は、主人公がなぜコンビニで働き続けているのかを自分の中で説明し、この作品の全体を象徴する場面でした。商品と人物、接客マニュアルの内と外といった対比が印象的でした。村田さんが日本語版を読んだ後、キャンベルさんが英訳版を朗読しましたが、同じ内容にもかかわらず、文化の違いによって訳せない部分があったり、逆に訳した語句から親しまれている他の作品が連想され、感情が喚起された部分があったりと、英語と日本語の聞き比べによって初めて見える作品の一面があり、とても面白かったです。
『地球星人』から朗読されたのは、自分のことを宇宙人だと思っている主人公が教師を殺す場面でした。文章中に主人公が、魔法の呪文として繰り返し同じ語句を唱えるシーンがあり、それが怖くもあり、少しコミカルでもありました。この場面を、キャンベルさんは「翻訳に工夫が必要な場面であり、英訳ではリズム良く改造されている」と指摘しましたが、朝井さんは「シリアスな場面なんだけど、同時に笑ってしまうような場面でもある。このような場面で、安易に読者を味方につけない」と語り、そのような見方ができるのかと感動しました。
二つの作品ともに、村田さんにしか分からない、登場人物の心情や背景があるせいか、とても臨場感にあふれた読み聞かせだったなと思います。

会の後半で、朝井さんに自身の作品を朗読していただきました。読まれた作品は『正欲』で、冒頭の場面と後半の場面が選ばれました。朗読の前にキャンベルさんが「この作品は朝井さんが前に書かれた作品である『何者』と同様に、正義の脆弱さを書いている」とおっしゃったのですが、その作品は自分がこのイベントに向けて読んだものだったので、期待が膨らんだのを覚えています。
冒頭の場面は、この作品が「人が何を以て生きることを選ぶのか」を表している中で根幹になる、登場人物の1人が長い時間をかけて書いた文章を紹介するものでした。1人の人間から見た世の中のことが、細々と描写されており、新たな価値観を提供してくれる、非常に興味深い場面でした。この場面を、村田さんは「この登場人物がどういう目で世界を見ている人で、世界に対して自分はどうなのかを、似顔絵を描くかのように書いている」とおっしゃり、また村田さん自身の作品の書き方との違いを引き合いに出していました。
後半から選ばれたのは、端的に言うと登場人物同士の性行為の場面でした。正直に言うと、最初はなぜこの場面をこの場で読むのか疑問でしたが、村田さんがおっしゃっていた通り、性的なものを感じさせない描写とともに伝わってくる、主人公たちが自分の目で世界を眺め始め、自信を持ち始める描写であることが理解でき、なぜこの場面を選んだのかに納得しました。この場面の段階から村田さんは物語を書き始めている、ということも語っていた朝井さんは、きっと自分の作品と対比させたかったのだろうと思います。

このイベントを通して、村田さんと朝井さんの作品の文学的な技巧を素人目線ながら体感できるとともに、村田さんは「人物から広がる世界」を書くことに対して、朝井さんは「ある世界に存在する人物」を書くという、物語の書き方の違いを知ることができました。どちらか片方がいなかったらできなかった文学の見方を与えてくれるイベントだったと思います。

朝日新聞デジタルで紹介されました

第6回
村田沙耶香さん×朝井リョウさん 朗読の声は普通のときと違った
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