その昔、私が教育学部の学生だった頃、A先生が英文学を担当しておられた。あまりいろいろな授業に参加するのに熱心でなかった私も、A先生の授業は心待ちにしていた。優れた英文学の作品をページごとに読んでいくのだが、A先生の解説は、その作品を土台にした即興の短篇小説の趣があった。作品のある感動する場面にさしかかると、自分の体験を知識に結び付けて-時には自分の夫婦げんかの例まであげて-あくまで自分の問題として見事な解説をされた。私達はA先生の話に酔った。当時の私達はすぐれた魂にふれ、それに感動できることをこの上ない喜びとした。あまり就職や将来のことなど眼中になかった(又それで、自分の身の丈にあった就職ができる良き時代でもあった)。