【Authors Alive! ~作家に会おう~】安堂ホセ×柳美里×ロバート キャンベル「『今、ここにいる』ことをめぐる語り合い」 レポート

【Authors Alive!~作家に会おう~】安堂ホセ×柳美里×ロバートキャンベル「『今、ここにいる』ことをめぐる語り合い」レポート

早稲田大学国際文学館研究助手 佐藤優果

10月23日に早稲田大学小野記念講堂で開催された、朗読・鼎談イベント『「今、ここにいる」ことをめぐる語り合い』では、デビュー作『ジャクソンひとり』が文藝賞を受賞し、芥川賞の候補となった安堂ホセさん、劇作家・小説家として数多くの話題作を送りつづけ、現在南相馬市で書店「フルハウス」を営む柳美里さんをお招きし、司会として国際文学館顧問のロバートキャンベル本学特命教授が出演した。また、イベント開始前と朗読中には、本学学生である寺崎真子さん(文化構想学部3年)、三好茉子さん(法学部2年)によるヴァイオリン演奏が添えられた。

10月23日AuthorsAliveロバートキャンベル

イベント冒頭では、柳さんは安堂さんの作品にみられる「暴力性と倫理」の同居という独創性を指摘するなど、さまざまな対話が行われ、安堂さんがはじめて柳さんに会えた喜びを表す場面も見られた。さらに安堂さんが初の朗読を行う機会であること、柳さんの作品執筆方法などが語られた。

続いて安堂さんのパートでは、『ジャクソンひとり』(河出書房新社)、『迷彩色の男』(河出書房新社)、今年 11 月刊行の最新作『DTOPIA』(河出書房新社)より朗読が行われた。穏やかな朗読の合間に三作それぞれについてコメントが交わされたが、なかでも『DTOPIA』を書いている時期にガザへの侵攻やトランスヘイトなど様々な問題が可視化され、「今、ここ」ではない場所から、誰もが入り込みやすい物語をはじめることを選択したという安堂さんに対し、柳さんは安堂さんの小説で描きだされる挫折する暴力、カタルシスへと向かわない暴力の描き方を「折れた暴力が突き刺さる」と表現した。
10月23日AuthorsAlive安堂ホセ

最後に柳さんのパートでは、全米図書賞・翻訳文学部門を受賞するなど国際的な評価も高い『JR 上野駅公園口』(河出書房新社)より冒頭と結末が朗読された。柳さんは本作を書く前に、東日本大震災の翌年から南相馬の臨時災害放送局でラジオ番組を始め、地元の600人もの人びとの話を6年に渡り聴き続けた。放送外でも、柳さんは番組以上の長さで出演者と話したり、ときには市街を歩きながら一日話をすることもあったという。私小説作家と捉えられがちな柳さんであるが、彼女の今の関心は自分とは別のところにあり、多くの他人によって自分が作り変わった感覚があるという。柳さんの力強い朗読に、涙をぬぐう聴衆も散見された。 
10月23日AuthorsAlive柳美里

あらかじめ参加者から募集していた質問に答え、国際文学館(村上春樹ライブラリー)開館 3 周年にふさわしいキャンベル特命教授の「呼吸、息継ぎができる空間にしたい」との言葉で締めくくられ、朗読・鼎談イベント「Authors Alive!~作家に会おう~」である本会は盛況のうちに幕を閉じた。
10月23日AuthorsAlive

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