山本容子版画展 特別企画「プラテーロとわたし」トークセッション&コンサート(2025/5/17) レポート(前編)
2025.06.24
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山本容子版画展「世界の文学と出会う~カポーティから村上春樹まで」(会期: 2024年10月~2025年5月)は、シェイクスピアやルイス・キャロル、村上春樹さんが翻訳したトルーマン・カポーティのクリスマス三部作『おじいさんの思い出』『あるクリスマス』『クリスマスの思い出』(文藝春秋)や『詩画集プラテーロとわたし』(理論社)など、各国の文学作品を題材にした銅版画を展示し、多くのお客様にご来場いただきました。
同展の会期中だった5月17日、村上春樹ライブラリー募金2025キャンペーンの特別イベントとして、ご寄付いただいた方を招待し、小野記念講堂にて山本容子版画展 特別企画「プラテーロとわたし」を開催しました。第一部は、銅版画家の山本容子さんと当館顧問であるロバート キャンベルさんによるトークセッションを、第二部はギタリスト大萩康司さんとメゾソプラノ歌手の波多野睦美さんによる演奏と朗読のコンサートが繰り広げられました。本記事では、第一部のトークセッションのレポートをお届けします。

山本容子版画展 開催案内
冒頭、山本さんが「50年にわたって創作活動を続けてきたが、図書館で展覧会をするのは初めての経験だった」と笑顔で話し始めると、キャンベルさんは同展について、来館者はさまざまな文学作品の装丁や差し絵などを鑑賞して作品の世界にひきこまれ、その後、図書館や書店でその本を手に取ろうとするだろう、まさに「文学への入り口」となっていると評しました。これに対し、山本さんは絵の力によって海外文学やその国の魅力を伝える「絵の翻訳力」について語りました。そして、壇上のスクリーンに赤いベストを着た男性が印象的な作品「From Noon to Moon」(CAPOTE SUITE 1979年)が映し出され、話題は山本さんと文学作品、そして村上春樹さんとの出会いに移ります。

山本さんは、芸術家としてデビューした頃は、人と同じことをするのがいやで、バンドエイドや剃刀などを作品のモチーフにしていたそうです。27歳の時に、「人間を描いてみたい」と思い始め、初めて文学をテーマにした作品として、カポーティの約40点を「CAPOTE SUITE」としてまとめたのが1979年のこと。それは奇しくも村上さんが作家デビューした年であり、のちに村上さんがカポーティ作品を翻訳・出版するにあたり「カポーティばかり描いている人が京都にいる」という評判を耳にした編集者から声がかかったのだと、山本さんは振り返りました。

銅版画は絵のように消したり、描き直したりすることができないと、創作の難しさについて尋ねると、山本さんは銅版画の制作方法について、解説を始めます。銅版画は木材を彫ってつくった凸面に絵具等をのせて刷る木版画とは真逆で、銅版の凹面にインクを流し込んで印刷するもの。まず、銅版の表面に防食剤を塗って膜をつくり、その膜を削って絵や文字などを描いた後、板を硝酸液に浸すことで、刻まれた線描部分が溶けて、インクが入る溝が刻まれるそう。山本さんは、鉛筆や鉄筆のほかに、絵具がついた筆を洗わずに放置し、固くなった筆先を使って描くこともあると語りました。
『詩画集 プラテーロとわたし』の作品がスクリーンに投影されると、山本さんはプラテーロの後姿を指し示しながら、「ロバの毛並みはこの辺りは柔らかく、ここには短い毛と、さまざまなテクスチャがありますが、この作品では触るとざらざらやつるつるの面があるという、『触感』を描き出しました」と説明を加えました。そこで、キャンベルさんが一枚の絵のなかで、描線によっていかにしてグラデーションをつくり、表現の緩急を付けるのかを問うと、「今までその質問を受けたことは一度もなかったけれど、企業秘密ではないので、教えてあげます」と、山本さんは会場の笑いを誘いながら、銅版への防蝕剤の膜のはり方と、その膜の剥がし方に秘訣がある、さらにインクの流し込み方やプレス機での印刷法、刷り上がった紙の乾かし方などについても、丁寧な解説をしてくれました。

「銅版画は版板を自分で彫って、自分で刷り、自分の世界を表現できる自由さがある」と語る山本さん。「Asparagus Paradise」や「Summer shower show」など、作品のタイトルで言葉遊びをした時期もあり、また、モーツァルトのオペラをモチーフにした作品「フィガロの結婚」を例に、音楽を聴いて作りあげた作品もあるというエピソードを披露。お二人の楽しいトークは尽きることなく、終了予定時刻を過ぎるほどでしたが、「山本さんの作品の独自の世界観や自由奔放な発想と着想力、そして、銅版画の制作方法や道具についても知ることができる貴重な機会でした。皆さんはいかがでしたでしょうか?」と、キャンベルさんが聴衆に問いを投げかけたところで、第一部は幕を閉じました。

※後編の記事はこちら
山本容子
銅版画家。京都市立芸術大学西洋画専攻科修了。絵画に音楽や詩を融合させ、ジャンルを超えたコラボレーションも展開。その他数多くの書籍の装幀、挿画をてがける。1978年日本現代版画大賞展西武賞、1992年『Lの贈り物』(集英社)で講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。2007年京都府文化賞功労賞、2013年京都市文化功労者。
ロバート キャンベル
早稲田大学特命教授、早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)顧問、せんだいメディアテーク館長、東京大学名誉教授。ニューヨーク市出身。専門は江戸・明治時代の文学、特に江戸中期から明治の漢文学、芸術、思想などに関する研究を行う。主な編著に『戦争語彙集』(岩波書店)、『よむうつわ』(淡交社)、『日本古典と感染症』(角川ソフィア文庫、編)、『井上陽水英訳詞集』(講談社)、『東京百年物語』(岩波文庫)等がある。
【開催概要】
・開催日時:2025年5月17日(土)14時~16時
(トークセッション)14時~14時45分
(コンサート)14時55分~16時
・会場:早稲田大学小野記念講堂
・主催:早稲田大学国際文学館
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