坂本美雨 @ The Haruki Murakami Library レポート

坂本美雨 @ The Haruki Murakami Library(10月19日)レポート

10月19日、「早稲田大学国際文学館キャンパス・ライブ 坂本美雨@ The Haruki Murakami Library」と銘打って、ミュージシャンの坂本美雨さんが出演する音楽イベントが開催されました。

国際文学館では、2021年10月の開館以来、朗読などのイベント「Authors Alive! ~作家に会おう~」を、これまでに10回開催しています。さらに2022年からは、様々なアーティストのライブ演奏等をお楽しみいただく「キャンパス・ライブ」を実施しています。
今回はキャンパス・ライブの第6弾です。

* 当日の様子(YouTube動画)

今回、地下1階「土星」のネオンの前をステージとしました。公募を中心とした参加者の客席を、地下1階「ラウンジ」と「階段本棚」に設けました。
開会にあたって、橋本周司・当館顧問(本学名誉教授)が主催者挨拶を行い、「開館以来、ラジオ番組で当館のイベントを紹介いただき、たびたびイベントで司会もおつとめいただいた坂本美雨さんを今回はミュージシャンとしてお招きしました。後半には対談を予定しており、お相手は、坂本美雨さんとともにラジオ番組のパーソナリティをつとめられた、作家の小川哲さんです」と出演者の紹介をしました。

< ライブ・パート >

ピアノの平井真美子さん、チェロの徳澤青弦さんが入場したのに続いて、ステージに入って着席した坂本美雨さん。歌い手としてこの場にいることの気持ちを一言語って、さっそく1曲目「birds fly」を披露しました。

1曲目と同名のアルバムを、昨年この3人で集まって、生演奏の1回録音で作成したとのこと。今年にはいって、いろいろなところに旅に出て演奏をしているが、10歳の頃から愛読している村上春樹さんの“好きなもの”と“これまで”が詰まっている大切な建物に来て、演奏ができるのは幸せだと、坂本さんは語りました。
2曲目の「shining girl」は平井さんのアルバムに入っていた曲。平井さんと対話を重ねたことを紹介しながら、小さい頃から封じ込めてしまう様々な感情や言葉を音楽の中で解放できれば、という思いで詞を作った、と坂本さんは語り、演奏に入りました。
ピアノにチェロが加わっていく長めの前奏を含めて7分をこえる熱唱につづけて、同じく坂本さん作詞の「gantan(birth)」、「Story」が披露されました。ここまでの4曲はアルバム「birds fly」の収録曲でした。

そして5曲目は、「長く歌われてきて、これからもずっと歌われる曲を、自分の曲のように歌いたい」という、宮沢賢治の詩による「星めぐりの歌」でした。
つづく6曲目は大好きな詩人というレナード・コーエンの「hallelujah」(ハレルヤ)。人間の生々しい矛盾や弱さとともに愛おしさを描いてくれていると坂本さんは話して、歌いました。

ライブ・パートが残り1曲となったところで、坂本さんが平井さんに語りかけました。村上春樹さんが経営していた「ピーター・キャット」で使われていたピアノを弾いてみての感想を求められ、平井さんは「いろいろな空気を中に含んだ個性的な楽器で、一音一音かみしめて弾きました」「物理的にはタッチが重いと感じたけれど、その分、深く押すようにして、集中力を楽しみました」と答えました。
前半最後の曲は、タイトルも、坂本さんの近著とリンクするような、「かぞくのうた」。家族のことを書いてみようと5年前にチャレンジした曲で、今年ストリングスを入れ、高橋恭司さんの写真をジャケットにつかって、シングル盤にしたとのこと。「人生の半分くらいのところで正直な気持ちを書いた」歌で、前半が締めくくられました。

< トークパート >

「村上RADIOプレスペシャル」という番組で一緒だった「わたしの相棒」とおしゃべりの時間に入ります、と告げた坂本美雨さんから呼び入れられて、小説家の小川哲さんが対談用にしつらえ直されたステージに入りました。
番組でのチームワークのよさが伝わる会話がすぐに始まり、昨年の開館早々にここを訪れて以来、坂本さんが演奏を熱望していたことを、小川さんが前半のライブへの感想とともに語ったあと、今年刊行されたお二人の新作の話題になりました。
小川さんは600頁を超える長編『地図と拳』につづき、『君のクイズ』を10月に出版。坂本さんのエッセイ集『ただ、一緒に生きている』は、東京新聞の子育てコーナーでの連載をまとめた一冊でした。
それを小川さんは「子育てエッセイと言われて、そう想像して読むものとは違っていて」と言います。娘さんへの愛があふれているのは当然として、娘さんよりご本人の方がよく「泣く」姿が出ているのは、タイトルにもある通り、母が子を育てたのでなく、母と子が「ただ、一緒に」育ったことが描かれているからだ、とのこと。
子どもの理解できない行動を「教えてなかったから」そうしたと思うのではなく、子どもの行動の正しさを自分が理解していないからでは、と考えるようにしたという坂本さん。小川さんは「ラジオで坂本さんとしゃべりやすかった理由もそのあたりにあるのでは」と言ったのに続けて、お母さまである矢野顕子さんのコンサートで「ママが自分だけのものじゃない」と坂本さんが感じたというエッセイ集に書かれているエピソードを、感慨深く紹介しました。
さらに、エッセイ集のなかで、小川さんにとって“文学が拓いた”、つまり“この先に小説がある”と思わされたシーンとして、娘さんとの高松空港でのやりとりを挙げた小川さんに対して、坂本さんが語ったのが、自分の心が動いた時のことを掘り下げて書こうとずっと思っていた、という連載時の姿勢でした。
単行本のために書き下ろしで加えられた、ご両親もふくめた坂本一家の話については、「父も母も現役だから私は気をつかって書いたのに、父自身が自分の口でいろいろ言い始めていて」と言いながら、自分の育った環境や人間的で生々しいところがたくさんあった両親のことを書けてよかったと、坂本さんは語りました。

二人の対談は、音楽活動25周年という坂本さんの、最近のライブや共演した方々の話題に進み、そのあと、坂本さんから「いつも最後に、おやすみなさいといって歌う曲で、今日はまだ早いですが」と紹介のあった「ダニー・ボーイ」で、イベント全体が締めくくられました。

演奏曲

  • birds fly
  • shining girl
  • gantan/birth
  • Story
  • 星めぐりの歌
  • hallelujah
  • かぞくのうた
  • ダニー・ボーイ

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