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特集

狩猟、解体、ジビエ料理で獣害問題に臨む「狩り部」のリアルな活動とは?

30以上のボランティア団体・公認サークルを支援する「平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)」。同センター教員の学術的な専門性を生かし、教員指導の下で本格的なボランティア活動を行おうと、2017年4月に「早稲田ボランティアプロジェクト(以下、ワボプロ)」を開始しました。そのワボプロの中で、学生が主体となり、地域に密着して獣害問題に取り組んでいるのが「狩り部」です。どんな活動をしているのかイメージできますか? 今回は狩り部について、立ち上げた理由やこれまでの歩みなどを岩井雪乃准教授と学生メンバーに聞きました。

獣害問題は農山村だけの問題ではない。野生動物と対峙(たいじ)する生活に思いを馳(は)せてほしい

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC) 准教授
岩井 雪乃(いわい・ゆきの)

WAVOCがある早稲田キャンパス99号館「早稲田STEP21」の前で 撮影:教育学部3年 滝口大地(公認サークル写真部)

 1993年、東京農工大学農学部環境保護学科卒業。2003年、京都大学大学院人間・環境学研究科アフリカ地域研究専攻博士課程単位取得退学。2004年、博士(人間・環境学)。専門は環境社会学、アフリカ地域研究、野生生物保全論、ボランティア教育。青年海外協力隊(JICA)ボランティア、特定非営利活動法人アフリック・アフリカ理事などを経て、2005年にWAVOCに着任。著書に『ぼくの村がゾウに襲われるわけ。−野生動物と共存するってどんなこと?』(合同出版)、『ボランティアで学生は変わるのか』(共著、ナカニシヤ出版)ほか。

――「狩り部」を立ち上げた目的を教えてください。

WAVOCにある岩井先生の研究室にて。テーブルの上に並んでいるのは、猟師が着用するベスト(左上)、くくり罠(わな)、シカの角など  撮影:教育学部3年 滝口大地(公認サークル写真部)

日本では、1990年代から農山村における野生動物による農作物被害、いわゆる「獣害」が増加しました。地域によっては生態系を破壊するほどの大きな影響が出ています。また、市街地に出没して人間に危害を加える事件も増加していますよね。

過疎・高齢化が進む農山村では、田畑を荒らすイノシシやシカ、サルなどへの対策が進まず、離農や人口減少などに拍車をかけています。獣害問題が拡大する要因の一つは狩猟者の減少で、1970年代の日本には50万人以上の猟師がいましたが、現在では約20万人に減っています。政府も、猟師を増やして獣害対策を支援する施策を進めていますが、解決にはより大きな社会の力が必要なんです。

「野生動物と人間の共生」の在り方はどうあるべきなのか、今、その価値観が問われています。そこで、「狩猟を通して獣害問題に貢献する」「猟師を増やして獣害を減らす」という目標を掲げ、狩り部を立ち上げました。

近年、「狩猟」「ジビエ」は注目され、アウトドアやキャンプと共にブームになっています。狩猟は、獣害問題の解決につながるのはもちろんのこと、ジビエが地域活性化や観光資源につながることも期待されています。狩り部では、野生動物による農作物被害の実態を現地で学びながら、狩猟を通じて獣害を減らすための活動を学生が実践しています。

(クリックして拡大)

――岩井先生は狩猟免許を取得されているそうですね。獣害問題に取り組もうと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

私は20年くらい前から、アフリカ・タンザニアで、ゾウによる農作物被害に苦しむ農民を支援するため、ゾウを追い払うなどの施策を講じる現地プロジェクト「アフリカゾウと生きるプロジェクト」を運営してきました。ところが、日本でもイノシシやシカといった獣害問題が深刻になっており、「国内の問題にも取り組まなければ」と思うようになりました。

タンザニアでゾウを追い払う村人たちと(2018年)

狩猟免許を取得したのは、私自身が被害者になった経験が関係しています。東日本大震災をきっかけに、夫が脱サラをして千葉県鴨川市で農業を始めました。私も手伝い、一緒に稲を育てているのですが、始めて数年がたち、稲作にも慣れた9月のある日、「今年はたくさんできたね」「いよいよ収穫だね」と話した翌日にイノシシに田んぼを荒らされ、稲が全滅してしまったのです。

写真左:収穫間近のたわわに実った稲
写真右:イノシシに稲を食べられ無残な姿になった田んぼ

半年間、汗水垂らして作業し、やっと実った稲です。私はタンザニアでの活動経験から、農民の気持ちを分かっているつもりでしたが、この時「本当は分かっていなかったんだ」と気付いたんです。人は誰しも動物を駆除したいとは思っていないはずです。私もタンザニアのゾウの対策では、「積極的に殺したい」という考えはなかったのですが、自分が被害者になったとき、「害獣であるイノシシを駆除したい!」と本気で思い、猟師になると決めました。

ベストを着て狩猟に出掛ける岩井准教授(2016年、鴨川にて)

――狩り部では、これまでどのような活動をされてきたのですか?

活動は大きく二つに分かれます。一つ目は現場での獣害対策、二つ目は大学周辺での啓発です。

現場での獣害対策

活動地は千葉県鴨川市と山梨県丹波山村で、地元の猟師の方の指導を受けながら、くくり罠(わな)、箱罠の設置を補助したり、獣の解体を体験・調理して実際にいただいたりしています。一般的に狩猟としてイメージされる銃を使用した猟は、危険が伴うため学生は行いません。狩猟免許には、「網猟免許」「わな猟免許」と、2種類の「銃猟免許」の全4種類ありますが、私が持っているのもわな猟免許です。

獣の通り道や罠の掛け方を教えてくださる庄司武雄さん。年間約250頭を獲るすご腕猟師。愛犬の猟犬とともに

鴨川市における現地活動の協力者・藤本八恵さん。  「農事組合法人鴨川自然王国」を営み、猟師、歌手でもある

活動を始めた当初は、1週間くらい現地に滞在すれば、掛かった獣を解体するところまでできると思っていたのですが、実際に獣が罠に掛かるのは、仕掛けてから1カ月以上たってからだということが分かりました。罠が自然の中になじむにはそのくらいの時間が掛かるんですよね。また、罠に掛かった獣は、動物愛護の観点から長時間苦しめることはできないため、掛かったらすぐに仕留める必要があります。そこで、現地の方と連携体制をとることにしました。私たちは罠掛けをお手伝いし、その後の見回りや、獲物が掛かった時の対応は現地の方が実施しています。

大学周辺での啓発活動

ジビエ油そば

コラボ企画ポスター

猟師を増やすために、都市部の学生にも狩り部の活動に関心を持ってもらおうと、早稲田界隈(かいわい)で学生主体の広報活動を実施しています。これまで、早稲田祭に出展して活動を紹介したり、油そば店「麺爺(めんじい)」とコラボして、「ジビエ油そば」の開発・販売をしたりしてきました。「早稲田祭2018」では、シカの角でストラップを作るブースを出したところ、2日間で来場者は400名にのぼりました。また、麺爺とのコラボメニューはおいしいと評判になり、1,200食を売り上げ(2018年)、獣害問題と狩り部の活動を知ってもらう良い機会を作ることができました。

――現地活動で学生は、獣を仕留める現場を見たり、実際に解体してみたりするのですよね。反応は?

解体するときの反応は学生によってさまざまですね。「解体するぞ」と張り切って参加した学生が途中で手を止め、見学する側に回ったり、逆に「解体はいいです」と控えめだった学生が、現場では率先して自ら解体することもあります。獣に限らず、例えば身近な方の生死に立ち会ったときに、誰しも想像しなかった感情が湧くことがあると思うのですが、動物の生死の現場も実際に経験しないと分からないことがたくさんあります。

狩猟は簡単ではなく、獣も猟師も真剣勝負の「命と命のやりとり」です。学生は猟師の方から危険な目に遭ったときのエピソードなどを伺いながら、獣害の深刻さと猟師の方の技能の奥深さを学んでいきます。そして、仕留めた獣はすぐに解体して調理し、いただくことが基本です。学生は掛かった獣を銃などで仕留めることはできませんが、仕留めた後は現地の方に指導してもらいながら、自分たちの手で解体し、いただくことで、命の尊さや命のつながりを実感していきます。狩り部の活動は食育なんです。

写真左:2020年12月、千葉県鴨川市での活動の際の昼食の様子(ソーシャルディスタンスと換気に配慮しています)
写真右:みんなで作ったイノシシのカレー。地元の野菜とともにいただいた

――これまでの活動で、具体的にどのような成果が得られたのでしょうか。

被害農家や猟師の方と連携して、10個のくくり罠と2台の箱罠の管理を手伝っているのですが、2018年はイノシシ15頭、タヌキなどの小型動物3頭が罠に掛かりました。農家の方からは「イノシシが最近来なくなった」と言っていただき、一定の貢献ができてきていると考えています。

プロジェクト開始から4年たって、狩猟免許を取得した学生も出てきましたし、これから取得する予定の学生もいます。仕事をしながら週末に狩猟のボランティア活動をしている卒業生もいますね。立ち上げた当初は、現地の方に教えてもらうことばかりでしたが、年月がたつごとに罠の扱い方や解体の仕方、活動の方向性など、先輩学生が後輩学生にアドバイスするようになり、学生主体で活動できるようになってきました。また、理系のメンバーが中心となり、「獣害対策ロボット」も開発中です。害獣を追い払うため、音や光に加え、匂いなども利用できないか検討しながら、安価なロボットの開発を目指しています。

獲物のイノシシを運ぶ(2019年)

――岩井先生はグローバルエデュケーションセンター(GEC)で獣害問題に関する授業も担当されていますが、早大生に伝えたいことは何でしょうか?

まずは身近に獣害問題があることを知ってほしいです。農山村で起こっている問題ですが、もっと大きな日本社会全体の構造的な問題だと捉えてもらいたいです。

活動していると「動物を殺すなんてかわいそう」など、批判的な意見を耳にすることもあります。ただ、実際に野生の動物と対峙(たいじ)しながら生活するというのは、生易しいものではありません。ぜひ現地で生の声を聞き、体験して知ってほしい。それができなくても、思いを馳(は)せてほしい、そう願っています。

岩井先生が担当する「狩猟と地域おこしボランティア」(GEC設置科目)の授業風景。この日は山梨県北都留郡丹波山村からソーシャルビジネス起業家の保坂幸徳さんがオンラインで参加。学生たちは丹波山村の資源を生かした地域おこしのアイデアを提案した

【狩り部の学生に聞く】興味を持ったきっかけは? 実際に活動して思ったことは?

活動を通して、物事の本質を見るように。獣害問題解決のためのコミュニティ作りが目標

狩り部部長 社会科学部 3年 堀内 大地(ほりうち・だいち)

撮影:SJC学生スタッフ 社会科学部 3年 勝部 千穂

旅先でおいしいシカ肉を食べたことがあったのですが、獣害対策のために駆除されるシカの大半が廃棄される現実を知ったことをきっかけに獣害問題に興味が湧いて2020年の秋に狩り部に入部しました。これまで参加した活動は、千葉県鴨川市での箱罠の移動や設置、草刈り、イノシシやシカの解体、ジビエ料理などです。

私は最初、獣害対策のために駆除された獣は、全て料理して食べればいいと考えていました。ところが、一概に「獣を狩る」と言っても、ジビエとして流通させるため、頭数管理を目的とした駆除のため、趣味として楽しむためと、異なる目的があることを知りました。また、その目的によって、野生動物の肉を全てジビエ活用することに否定的な意見もあると知りました。この経験から、物事を見るときに表面的な部分だけではなく、本質的な目的は何かということを考えるようになりました。

千葉県鴨川市での活動の様子。写真左:猟の話を聞く学生たち(2019年) 写真右:狩猟したシカを運ぶ(2019年)

私はもともと生き物が好きなので、積極的に殺したいと思っているわけではなく、「獣害問題の解決」に興味を持っています。そのために地域に行って異なる立場の方から話を聞き、獣害問題解決のためのコミュニティ作りをしていきたいと考えています。狩り部は年々規模を拡大し、2021年度は新入生を含めて40名になりました。これまでの活動を継続しながら、今後は部員が多いからこそできることにも挑戦していきたいと思っています。興味がある方はぜひご連絡ください。

写真左:イノシシとシカの肉を調理(2019年)
写真右:イノシシのハンバーグ

写真左:イノシシ肉団子の甘酢あんかけ
写真右:イノシシのチャーシュー

罠を仕掛けるにはまず環境整備が大切。知識や技術がなくても地域に貢献できることが喜び

教育学部  2年 山本 真瑠(やまもと・まる)

私は生態学に興味があり、偶然見つけた狩り部に2020年10月末に入部しました。ただ、コロナ禍で、現地活動に参加できたのは1回だけです。昨年12月に千葉県鴨川市に行き、竹や草を刈ってくくり罠を仕掛けました。竹や草を刈るのは、見通しをよくして獣の農地への接近を事前に防ぐためです。狩りとは関係ない作業のように思えますが、罠を仕掛ける際は環境整備が大切。自然の中ではさまざまなことがつながっているのだとあらためて感じました。また、現地の方は獣の生活痕からその動きを予測し、広い山の中でも小さなくくり罠で獣を捕らえることができると聞いて、とても面白いと思いました。

くくり罠を仕掛けるお手伝いを体験(左端が山本さん)

入部するまで狩猟について全く知らず、「罠を仕掛けたり、獣を解体したりするための十分な知識や技術がなければ活動できない」と考えていました。でも、環境整備ならすぐにできますし、地元の方のお役に立つことができます。仲間が多いほど作業がはかどり効果が出るので、新たに入部したメンバーと早く一緒に活動できるよう願っています。

私が今後の狩り部の活動で一番興味を持っているのが解体です。食べるために自分で獣を捕らえ、解体していただくという、自給自足のような、狩猟の一連の流れを体験したいと思っているからです。現地活動できる日が待ち遠しいです。

「早稲DASH~23区で野生動物を探せるか~」コロナ禍のフィールドワークに密着

大隈記念講堂前に集合

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、千葉県鴨川市や山梨県丹波山村での現地活動ができなくなった狩り部。活動に興味を持つ新入生を伴って5月10日(月)、都立代々木公園へ出掛けました。目的は都心に生息する野生動物を探し、都市部の生態環境を新入生に知ってもらうため。新入生は公園に入る前に、獣害問題や、ハクビシン、タヌキといった動物の特徴や生態について狩り部のメンバーから説明を受け、いざ探索。約3キロメートルの距離を50分ほどかけて歩きました。

野生動物の生態を説明する副部長の勝部恭平さん(政治経済学部2年)と堀内さん(右)

野生動物となかなか遭遇することができず諦めかけたころ、岩井先生が狙いを付けて暗闇をライトで照らし始めると…明治神宮との境の柵上に、ついにハクビシンを発見。先生の直感に驚くとともに、都心に実在する野生動物との遭遇に、参加した学生は大満足。狩り部での活動に期待を抱いて帰路につきました。

堀内さん

この日参加してくれた新入生は、全員入部してくれました。東京のど真ん中にある代々木公園でも、探そうと思えば野生動物を見つけることはできます。皆さんも、いつもとは異なる目線で身近な自然を見てみてはどうでしょうか? そして、獣害問題や狩り部の活動に興味を持ってくれたらうれしいです。


【次回フォーカス予告】7月5日(月)公開「医療費給付特集」

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