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総長挨拶 人類社会に貢献する早稲田の教育【2020年度入学記念号】

早稲田大学総長 田中 愛治(たなか・あいじ)

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

早稲田大学は新型コロナウイルスの感染拡大リスクを回避するため、2月27日に2020年度入学式の中止を判断いたしました。入学式とは、早稲田大学に新たに加わる新入生の皆さんが、「これからこの大学で学ぶのだ」という思いを再確認する場です。それが、自身の将来に向かっての夢を育むための第一歩となります。その入学式を中止せざるを得なかったことは、残念で仕方ありません。入学式の中止は、早稲田大学への入学を楽しみにしておられる新入生の皆さん、そして皆さんを支えてこられたご家族にとって、大変に残念なことと推察いたします。皆さんの落胆のお気持ちは、私たち早稲田大学の教職員の何十倍でもあろうことが容易に想像できますだけに、大変申し訳なく思っております。

それではなぜ、このような苦渋の決断をしたのか、また早稲田大学が何を大切にしたいのかにつきまして、教職員を代表して述べさせていただきます。早稲田大学には、果たさなければならない大切な使命があります。早稲田大学は、皆さんにしっかりとした教育を提供する使命と、皆さんの健康と安全を確保する教育環境を提供する使命です。この二つの使命を果たすためには、多くの方が一堂に会する入学式を諦めてでも、効果的な教育を提供できる健康で安全な環境を新学年度に向けて整えることが最優先である、と私たちは考えたからです。このことをご理解いただきたく思います。

さて、このような時代に皆さんが早稲田大学で学ぶことの意味を、今こそよく考えてください。新型コロナウイルスの感染拡大をどのように食い止めることができるかという問題をはじめとして、今日の世界では明確な答えがない問題が数多く存在します。日本の少子高齢化問題もそうですが、国際紛争や宗教に根ざす民族間の紛争など、国際的に多くの問題には「正解」がないのです。皆さんの高校までの勉強の多くは、答えのある問題を解くことでした。特に受験勉強では早く正解を出すことが重視されてきたと思います。ところが社会に出れば、そのような答えのある問題に遭遇することはなかなかありません。何が問題か分からない場合もあれば、問題が分かったとしても誰も答えを知らないという状況に遭遇します。

答えのない問題にも解決策を示せる「たくましい知性」

早稲田大学では、そのような答えのない問題に対する解決策を自分の仮説として提案できる力を身に付けてください。知識と論理的推論だけを頼りに数分で問題を解くことを目的とする受験勉強とは違い、自分なりの仮説を提案するまでには数週間、数カ月、数年といった長い時間がかかるかもしれません。学問とは、5,000年の人類の経験のエッセンスを体系的にまとめたものですが、そこにも正解があるとは限りません。自分なりの解決策を仮説として立て、その仮説を検証し、誤っていれば一からやり直す。このような思考の訓練を通して「たくましい知性」を早稲田大学で育んでください。

早稲田キャンパスにある大隈重信像

1882年、大隈重信によって設立された早稲田大学は「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」という建学の理念を掲げ、135年以上にわたって「たくましい知性」を育成してきました。それをより一層進めていくために、早稲田ではグローバルエデュケーションセンターを中心に、あらゆる学部の学生が学ぶことができる全学共通の科目を提供しています。「日本語の学術的文章の作成」「英語での発信力」「数学的な論理的思考力」「データサイエンスを駆使できる統計学的な理解」「情報科学を活用する能力」という五つの基盤教育を充実させ、体系的な教育を行っています。またデータ科学センターでは、理系・文系を問わずあらゆる学問・研究領域において活用できる、データを基に新しい問題の解決策や政策提言などを生み出すデータ科学の方法を学べます。例えば、ビッグ・データをAI(人工知能)によって解析することで、これまで人間が考え出すことができなかった新しい解決方法が発見できるのです。これからの社会では、必ずデータなど事実を根拠にした議論や提言が求められることになります。皆さんはこうした早稲田大学での学問の最先端の考え方を学んで、ご自身の将来に活用してください。

多様な価値観に敬意を持って接する「しなやかな感性」

「たくましい知性」に加えて早稲田大学で身に付けてほしいことは、国籍、エスニシティ、信条、年齢、性別、障がい、性的指向・性自認などに関わらず、多様な価値観に敬意を持って接し、理解し尊重する「しなやかな感性」です。創立以来、早稲田は多様性を大切にし、誇りにしてきました。1905年には清国留学生部を創設しており、現在の早稲田には約8,000名の外国人学生が留学し、毎年4,500名を超える日本人学生が海外の大学で学んでいます。2017年4月には国内初となるセクシュアルマイノリティ学生の支援組織「GS(ジェンダー・セクシュアリティ)センター」を発足させ、同年に「早稲田大学ダイバーシティ推進宣言」も発表しました。

国際色豊かで、多様な価値観にあふれるキャンパス。写真左:ICC(異文化交流センター)と写真右:GSセンターのイベントの様子

早稲田では多くの国・地域から来た人々の、さまざまな価値観に出合う機会に恵まれています。可能であれば一度は海外に留学して、外から日本を見つめてください。卒業後、日本国内で働くにしても海外に出て行っても、情報化社会にあってはグローバルな視点が必ず求められます。創立以来、多様性を積極的に推進してきた早稲田大学で「しなやかな感性」を磨くことは、グローバル社会においても自分自身の人間的力量を高めることにつながっていくでしょう。たとえ「たくましい知性」によって答えのない問いに自分なりの仮説を出したとしても、異なる宗教、言語、民族、文化、また性的指向・性自認も異なる人たちが納得してくれるようなソリューションを考えて、仮説として提示するためには、「しなやかな感性」が必要になります。

「たくましい知性」と「しなやかな感性」は、世界で生き抜き、人類社会に貢献するために共に欠かせない二つの柱だと考えています。

学生による自由闊達なイニシアチブ

もう一つ、早稲田大学の重要な伝統があります。それは何かを成し遂げたいと思っている学生には、何でもできる環境が整っている、ということです。勉強でもスポーツでも、サークル活動でも、やりたいことを早稲田で探せばどこかにあるはずです。自分自身で新しい活動を作ることもできますし、大学はそれを奨励しています。自由闊達(かったつ)な学生たちのイニシアチブを大切にしてきた伝統があるからです。

WAVOC(平山郁夫記念ボランティアセンター)には、年間9,000名以上の学生が登録し、災害復興支援活動や町おこし活動、障がい者支援活動などに取り組んでいます。日本最大規模の学園祭「早稲田祭」は毎年結成される約600名の学生からなる団体「早稲田祭運営スタッフ」が、企画・立案・広報・渉外などの全てを自主運営し、2日間で約18万人が訪れるイベントを開催しています。

また、先に述べたGSセンターは、学生が自由な発想で大学改革案を提言する「Waseda Vision 150 Student Competition」がきっかけとなり、学生の強い思いによって生まれた組織です。さらに企業が実際に抱える課題について、学生たちがチームを組んで課題解決に取り組む「プロフェッショナルズ・ワークショップ」というプロジェクトもあります。

Waseda Vision 150 Student Competitionのプレゼン(左)とWAVOCの学生による災害復興支援活動の様子

早稲田の学生はボランティアや社会貢献への意識が高く、独自の文化として根付いています。何らかの形で早く社会に貢献したいと思う学生がいて、その思いが実現できるような仕組みが早稲田大学にはあります。大学から決められたことに取り組むだけではなく、自分がやりたいと思うことは、どんなことにでも打ち込めばいいのです。学生が主体的にさまざまな活動をするというバイタリティーは早稲田ならではのものですので、在学中にぜひ、肌で感じてください。

世界のトップクラスの大学になる覚悟

2018年11月に早稲田大学総長に就任して以来、私が強調していることは「世界で輝くWASEDA」を目指すということです。世界のトップクラスの大学になるという覚悟を決め、私たち教職員をはじめ、学生や学生の保証人、校友をも含めた関係者全員がその思いを共有することです。

そのために、早稲田大学は学術的に意義がある、世界に誇れる研究を行わなければなりません。卓越した研究を行って、海外の教員から「早稲田で共同研究がしたい」と思われる大学にするのです。優れた教員が早稲田で研究すれば、学生は世界トップクラスの研究者の授業を受けられるようになります。

世界に誇ると言えば、90年を超える歴史を持つ演劇博物館は、世界中の演劇のアイテム、脚本、衣装、小道具など、実に100万点以上コレクションを収蔵しており、それらを求めて世界中の大学院で演劇を研究する博士後期課程の大学院生は、必ず一度は訪れると言われているほど国際的評価の高い演劇研究の拠点です。

また、2021年度に開設を予定している国際文学館、通称「村上春樹ライブラリー」は、世界的に著名な小説家である村上春樹氏(第一文学部卒)の小説作品の生原稿をはじめとする貴重な資料を軸にして、早稲田から日本文化の国際発信をするという理念に基づいて構想されています。このように文系・理系を問わず、早稲田大学はあらゆる分野で国際的に高いレベルを目指していきます。

貴重なコレクションを有する演劇博物館(左)と国際文学館に所蔵予定の村上春樹氏のサイン本

早稲田大学が世界のトップを目指す決意を固める時期に入学してきた皆さんは、きっと後悔のない学生生活を送り、満足いく経験を得られるだろうと思っています。「世界で輝くWASEDA」に導くには、学生の皆さんの覚悟も必要で、関係する全員の継続的な取り組みと努力が求められます。より良い大学にするための方向性は、私が示していきますので、ぜひご協力いただきたいと思っています。

早稲田大学は、型にはまったルートを求めるような場所ではなく、自分でやりたいことを探し出す場所です。早稲田にいる間に高く飛躍するための準備をして、面白いと思うこと、やりがいを感じることに思い切って挑戦してください。それは勉強や学問研究かもしれないし、将棋かもしれないし、音楽や演劇かもしれないし、スポーツかもしれません。とにかく、思い切ってやってみる。それによって得られたものを糧に、卒業後に羽ばたいてください。それが早稲田らしいと言える生き方であり、早稲田はその準備に最も適した大学だと思っています。

総長撮影:飯島裕

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