第6回「なぜ村で唯一の不動産屋を起業できたのか?地方創生・地方移住というカードの選 び方」梅原颯大さんインタビュー
ー体験的学習科目「狩猟と地域おこしボランティア」2024年度春学期ー
中村 祐太(政治経済学部 4 年)
丹波山村は、人口 530 人(令和2年)の丹波山村は、地域おこし協力隊や山村留学による移住者が1割ほどを占めているという。
今回は、私達と同じように授業で丹波山と関わったことをきっかけに、中央大学在学中に丹波山村へ移住し、村で唯一の不動産事業を起業した梅原さんにお話を伺った。

非常にフランクにインタビューに回答してくださった梅原さん
――まず自己紹介をお願いします
はじめまして。梅鉢不動産株式会社、代表取締役の梅原と申します。
大学在学中に丹波山村へ移住し、空き家の利活用を中心に事業に取り組んでいます。
――早速ですが、丹波山村との関わりはどのようにして始まったのか教えていただけますか?
大学2年生の頃から丹波山村の実習の授業に参加していました。当初は飲食店と協業したフードロスの削減等を構想していたのですが、どことなくちぐはぐさを感じいました。
そこにコロナの流行があり、2週間の時間が生まれました。「村にずっといるチャンスだ」と考えて、まずは来て、住んでみることから初めました。
「村を知らなければ」という思いで飛び込んだ、というかんじです。

東京都奥多摩に隣接する丹波山村。面積の 97%を森林が占める
――なかなか簡単にできることではないと思いますが
授業を通じて、声を上げれば受け入れてもらえるという環境があったことが大きいですね。保坂さんを初めとした移住者とのつながりや、役場の協力もありました。丹波山には、移住者を受け入れる風土があると思います。
――住むことで見えてくる違いはありましたか?
住むことで村民が思っていることが見えてきました。
当初は、行ってみてどうなるか、というくらいの気持ちでした。それこそ、不動産業に携わるとは自分でも思っていませんでした。大学 1、2 年生の頃は普通の大学生活を送っていましたし、将来は東京で働いていると思っていましたから(笑)。それでも、村内の事業者といっしょに行動することで、見えてくる景色は変わりました。
――なるほど、その過程で空き家問題に注目されたのですね?
はい、丹波山村に移住したい、という方は案外多いんです。でも、平地が少なく新たに家を建てることが難しいので、そもそも住む場所がない。それなのに、所有権のわからない空き家が放置されている。これは問題だと気がついたんですよね。そこで大学4年生になるタイミングで、役場に依頼される形で空き家の所有権や間取りの調査を初めました。最初は 100 軒以上の空き家を自分の足で歩いて、情報を整理するところから始まりました。

梅原さん(右)の指示の下清掃を進める様子
それから宅建士の資格を取り、丹波山村での起業に至ったという梅原さん。
2024 年時点で不動産事業を初めてから2年が経った。
――不動産業を始めて 3 年目ということですが、率直な感想を教えていただけますか?
課題しかないですね。
簡単な課題は誰かが解決してますから(笑)。
実際には土地も安いし、建物も安いし都市部よりも難しい現状はあります。清掃費も業者に頼んだら高くつきます。それでも、幸いなことに住民の方から認知していただいて、相談件数は多いです。そこで、時々地域おこし協力隊や学生のボランティアにも手伝ってもらいながら、空き家の再生事業を進めています。ある意味でここがスタート地点で、丹波山の課題を解決できれば他の地域でも活動していきたいですね

多くの空き家には大量の残置物が残されている。清掃後もリフォーム等が利活用には欠かせない
本インタビューの直前にも私達大学生や地域おこし協力隊と空き家清掃を行っていた梅原さんが、誰よりも率先して現場で指示を出していた姿が印象的だ。現在は、不動産事業の他に、教育事業や山梨県と協業した取り組みも行っているという。丹波山村の内側の目線と、外側の目線の双方を持ち合わせている点も印象的だった。
最後に、丹波山と大学生の関わり方について伺う。
――丹波山と大学生の関わりをどう考えていますか?
人手という点では非常に助けられています。強いて言うなら、横のつながりがあるといいですね。
もっとフランクに、遊びに来るとか、手伝いに来るとか、同じ目的を持った学生同士で横につながって関わってくれるといいと思います。人を受け入れる風土はあるし、できることもたくさんあるので、遊びに来てもらえるだけでも嬉しいですね。
――最後に地方創生に興味のある学生に一言お願いします
まずは、いろんなことを知ってほしいです。若いからこそいろいろな選択肢を取れることが学生のメリットだと思います。その選択肢をとるためにも、まずは「知ること」が必要だと思います。
海外に行くでも、インターンに行くでも、ちょっとした「知る」を沢山やってほしいですね。まだ皆さんの年齢なら総理大臣にでも宇宙飛行士にでもなれるので(笑)。
――それこそ梅原さんの今の活動も、「知ること」から始まったといえますよね
そうですね。面白いと思ったらかじってみる、ヤバいと思ったら辞めてもいいし。
とにかく、その繰り返しで新しいことが見えてくるんじゃないですか。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。
大学生のうちから丹波山村に移住し、起業されたという稀有な経験を持つ梅原さんから大変貴重なお話を伺うことができた。
梅原さんとの会話を通して、興味があることに少しでも取り組んでみる、チャンスがあったら迷わず飛び込んでみるということの重要性を感じた。そうした試行錯誤を繰り返していくことは、「自分が本当にやりたかったことは何か」、「自分は何に対して課題意識を持っているのか」という問いに気づく大きな手がかりとなるのではないだろうか。
興味の発露を追い求める先に、一つの選択肢として様々なボランティア活動や「狩猟と地域おこしボランティア」といった授業のような地方との関わり方があり、誰にとっても梅原さんのように地方に移住するという選択肢が「自然」になり得るのだと思う。
私なりに、「地方創生」や「ボランティア」に興味があるのなら、悩む前に飛び込んでみるべきであるし、ある意味で気負いすぎることなく、各々が自分なりの適度な関わり方を見つけていこうという姿勢が、誰かの役に立つことや社会に貢献することの第一歩になるのではないだろうかと考えさせられた。
体験的学習科目「狩猟と地域おこしボランティア」
2024年度春学期連載一覧はこちら
【Instagram】https://www.instagram.com/waseda_tabayama/